第814話、わたくし、思わぬところで『戦艦金剛の軍艦旗』を見つけましたの⁉

 ここは日本海のど真ん中、深い深い海溝の底に密かに設けられている、国際テロ組織『アルカニダ』の深海アジト。




 ──まさに今、全世界に激震をもたらしかねない、『新兵器』が完成を迎えようとしていた。




「……くくく、さあ甦るがいい、海底の魔女ヘクセンナハト『コンゴウ』!」


 アジトの中央にある広大なる研究棟にて響き渡る、白衣に痩せぎすの長身を包み込んだ、このアジトの責任者であるマッドサイエンティストの『ナンキン=ムッシュ』博士の怒号。


 それに呼応するように、目の前の巨大な培養槽から海水が排出されて、そのおぞましい『内容物』があらわになる。


『……るごああああああああああああああああ』


 まるで死霊のうめき声のごとき、重く昏い鳴き声。


 それはもやは、単に『生き物』と呼べるものでは無かった。


 小山ほどある巨体は、一見純白の軟体動物のようにも見えるが、


 驚くことにも、所々に砲門や対空機銃や錨やマストやスクリュー等の、軍艦のパーツと思われるものが融合していたのだ。


 ──そして極めつけには、




『……シテ、コロシテ』




 とてもこの場に似つかわしくない、まだうら若き女性のか細い声音。


 何と、その巨大な『新造兵器』の頭頂部には、他の部位同様の色素がほとんど見受けられない真っ白な、年の頃十代半ばほどの少女の裸身が生え出ていたのだ。


 唯一鮮血のごとき深紅に染まったまなこから、止めども無く流れ落ちている、涙の雫。


「──はあ? 『殺して』だあ? 無駄だ無駄だ! 何せおまえはすでに、『死んでいる』のだからな!」


 何だか、昔懐かし『格闘アニメ』の世紀末救世主みたいなことを言い出す、ナンキン=ムッシュ博士。




「旧大日本帝国海軍戦艦『金剛』が、轟沈した後の深き海の底で、戦死した乗組員たちの怨念と融合して生み出された『海底の魔女ヘクセンナハト』──それこそがおまえの『成れの果て』であり、もはやかつて聯合艦隊の実質上の『旗艦』を務めていた、栄光も高潔さも微塵も存在し得ない、哀れなる『亡霊』に過ぎず、ただこの世のすべてを呪い続ける『概念』そのものであったところ、こうして我が『アルカニダ』の超技術によって、大量殺戮兵器として甦らせてやったのだ!」




『……私が、かつての帝国海軍戦艦「金剛」が、殺戮兵器ですって⁉』


「そうだ! まず最初は、おまえと最も因縁の深い、日本人どもを殺しまくるがいい! ──行け、『コンゴウ』! 我ら『アルカニダ』の大東亜征服のために!」


 無慈悲に下される、非情なる命令。


 しかし今や『生体兵器』として造り替えられている『彼女』には、抗う術なぞ無かった。


 性能を戦前の千倍以上に拡張されている、戦艦金剛の『成れの果て』が、日本列島に向けて出撃しようとした、


 ──まさに、その刹那。




「そんなことを、させるものか! ──受け取れ、金剛!」




 突然研究棟内に轟き渡る、老齢なれど矍鑠とした男性の声。




 それと同時に、『金剛』の頭頂部へと、十六条の旭光を象ったボロボロの旗が──まさしく『軍艦旗』が、舞い降りてきて、少女の裸身を覆い隠した。




「「「なっ⁉」」」


 一斉に驚愕の声を上げる、博士を始めとする『アルカニダ』の研究員たち。


 それもそのはずであった。


 突然『海底の魔女ヘクセンナハト』の巨体がまばゆいに閃光を発したかと思えば、どんどんとその身が縮んでいったのだから。


 そしてその後に現れたのは、華奢な少女の裸身のみであった。


 ──その周囲に、厳つい戦艦の主砲や対空機銃を、浮遊させながら。


だと⁉ これは一体、どういうことだ!」


 堪らず怒鳴り声を張り上げる博士に、打って響くように答えを返す、冷徹なる声。


「──当然だ、これは本物の『金剛の軍艦旗』なのだから、『彼女』が本来の自分を取り戻し、かつての帝国海軍にふさわしい心身に還元しても、何ら不思議は無いだろう」


 そこに現れたのは、いつの間に(そしていかなる方法によって?)この深海のアジトに潜入していたのか、完全なる『部外者』である、純白の帝国海軍服を身にまとった、やけに姿勢のいい後期高齢者の男性であった。


「こ、これが、この日本人離れした金髪碧眼の、天使か妖精そのままの神秘的かつ清廉なる姿が、『金剛』の本当の姿だと⁉」


「そうだ! 今や彼女は『海底の魔女ヘクセンナハト』などでは無い! 我が大日本帝国海軍の守護神──すなわち、『海の女神』なのだ! ──行け、『金剛』! 卑劣なるテロ国家集団、『アルカニダ』を殲滅しろ!」


『──命令受諾。本艦はこれより、旧大日本帝国海軍所属イイヅカ上級兵殿を、己の唯一絶対の「提督アドミラル」と認定。ただちに作戦を実行いたします!』


 そして火を噴く、戦艦金剛の356ミリ45口径連装砲4基の主砲!


「「「ぎゃああああああああああああああああっ⁉」」」


 博士たちの壮絶なる断末魔とともに、木っ端微塵に海の藻屑と化す、『アルカニダ』の海底基地。


 ただしイイヅカ上級兵だけは、金剛が咄嗟に展開した結界バリアに守られて、まったく無傷であった。


『……ありがとうございました、提督アドミラル。お陰で正気に戻れました。──でもどうして、わたくしの軍艦旗をお持ちだったのですか』


「実は私は先の大戦時に、戦艦金剛に上級兵として乗り組んでいたのだが、『君』が沈没する時に、軍艦旗だけを持ち出すことに成功したのだよ」


『──まあ、わたくしの魂そのものを、無事に後世に託してくださるなんて! わたくしがこうして本来の金剛として甦ることができたのも、すべて提督アドミラルのお陰です! 誠にありがとうございました!』




「私は海軍軍人として、当然のことをしたまでだ! それよりも、こうして甦ったからには、今度こそ日本の──ひいては、この大東亜全域の平和のために、共に戦おうではないか!」




『……ええ、我が提督アドミラル、どこまでもお供いたしますわ!』




 こうして、大日本帝国海軍戦艦金剛の生まれ変わりの少女と、よわい九十を超える元海軍兵士イイヅカ上級兵の、日本海を主な舞台にした、毒亜ドクーアテロ国家集団『アルカニダ』との、長き戦いの物語が始まったのであった!












   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




メリーさん太「……何だよ、これって?」




ちょい悪令嬢「実は本作の作者ってば、今は亡き母親の一族の御本家筋の法事があって、はるばる福岡県のド田舎の筑豊地区に出向いたのですが、何とも奇遇なことにも、飯塚市と言うところにある歴史資料館において、かつて大日本帝国が誇った高速戦艦『金剛』の、『軍艦旗』が特別展示されていたのですよ!」




メリーさん太「……へ? 『軍艦旗』って、あの十六条旭日旗のやつ? それって本物なの?」


ちょい悪令嬢「ええ、本物です」


メリーさん太「ど、どうしてそんな田舎に、金剛の唯一と言っていいほどの『遺品』が⁉」


ちょい悪令嬢「本文中にも少し触れましたが、金剛轟沈の際に辛うじて軍艦旗を持ち出すことを成し遂げたのが、飯塚市出身の兵隊さんだったそうです」


メリーさん太「……なるほど、今や海軍は存在しないし、そもそも金剛はイギリス製だしで、明確な引き取り先なぞあろうはずも無いから、『私物化』するつもりが無いのなら、故郷の歴史資料館あたりに収めるのも、別におかしい話でも無いか」


ちょい悪令嬢「それを聞き及んだ本作の作者は当然のごとく、こんな奇遇なこともあるもんだと、喜び勇んで資料館へと赴いたんですよ」


メリーさん太「ほう、それで、実物にお目にかかれたのか?」


ちょい悪令嬢「……それが、駄目だったのです」


メリーさん太「ど、どうして?」




ちょい悪令嬢「このたび福岡県において正式に、『緊急事態宣言』が発令されたために、公共施設である『飯塚市歴史資料館』も、今回の特別展示の日程半ばにて、臨時休館してしまったのですよ!」




メリーさん太「……あー、そう言うことかあ」




ちょい悪令嬢「殺す! 『アルカニダ』の特に『アル』のほうのやつら、絶対に殺す! 今度いつ福岡に行けるかなんて定かでは無く、まさしく千載一遇のチャンスだったのに!」




メリーさん太「どうどう、気持ちはわかるが、抑えて抑えて!」




ちょい悪令嬢「あと、本文中に少々『グロテスクな描写』が含まれていたのは、今朝方視聴したばかりの、『マギア○コード』セカンドシーズン第4話の影響です☆」




メリーさん太「ああ、あれか⁉ むちゃくちゃショッキングな内容だったな!」




ちょい悪令嬢「これについての詳細な検証は、また後日改めてと言うことで、楽しみにしていてくださいね♡ ……………………そんなことよりも、『アルカニダの本拠地はどこ?』 『アルカニダの本拠地はどこ?』 『アルカニダの本拠地はどこ?』」










メリーさん太「……いや、や○よさんとしては、今回の4話においては、むしろ『千秋理○ちゃん』のことのほうがショックだったんじゃないの?」
















ちょい悪令嬢「あとこの作品においては、邪悪なる『アルカニダ』の特に『ニダ』のほうに対しては、太陽のシンボルである『旭日旗』こそが、『魔除け』としての効果を発揮することを、暗に物語っていたりしますw」




メリーさん太「──おいっ、最後の最後に、余計なことを言うんじゃねえよ⁉」













メリーさん太「……いや、ちょっと待てよ」




ちょい悪令嬢「うん、どうかなさいましたか? メリーさん」




メリーさん太「そもそもさあ、当の福岡県を始めとして『緊急事態宣言』が発令されているなかに、県外から親戚一同が法事に集まって、『密』状態を作るってのは、この『コロナ禍』においては非常に問題じゃないのか?」




ちょい悪令嬢「あはははは、何言っているんですか、それこそ何度も何度も申しているではないですか? 『これはエッセイでもノンフィクションでも無く、あくまでも創作フィクションだ』と」




メリーさん太「はあ?」




ちょい悪令嬢「つまり今回述べたことのすべてが、『嘘八百』かも知れないってことですよ。──例えばWeb上で戦艦金剛の『軍艦旗』が、自分とも関わりのある田舎の歴史資料館にあることを知った本作の作者が、『緊急事態宣言』のために公共施設が軒並み臨時休館していることに絡めて、今回のエピソードをでっち上げていたりしてね☆」




メリーさん太「──ちょっ、一体どっちが『真実』なんだよ⁉ ……ホント、まったく油断ならねえよな、この作者ってば」

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