第686話、わたくしたち、悪役令嬢アイドルグループ『アクドル』ですの♡(その1)

「──おはようございます、アルテミス様」




「……う、う〜ん、あと五分だけ、寝かせてえ〜……………………って、あなた誰よ⁉」




 ──早朝の『魔法令嬢育成学園』、初等部寄宿舎。


 自室で眠り込んでいた、初等部5年F組所属のJS魔法令嬢にして、特設空軍ジェット戦闘機実験隊パイロットでもある、わたくしことアルテミス=ツクヨミ=セレルーナに呼びかける声に、ふと目覚めれば、




 何だか姿形がおぼろげな少女が、枕的にひっそりと立っていたのであった。




「ま、まさか、幽霊オバケ⁉」


「──いえ、違います」


 いまだ寝ぼけたまま咄嗟に失礼なことを口走ってしまったわたくしに対して、何の感情も窺わせない秀麗なる小顔の真珠のような小ぶりの唇から、ぼそりと答えを返す、謎の少女。


「そ、そうだよね、いくらこの学園が魔法少女の訓練機関とはいえ、幽霊なんかがいるわけ無いよね」


「ええ」


「……でしたら、あなたは一体?」


 そうなのである。


 たとえ幽霊で無かろうとも、


 自分と同年代の、小学生ほどの幼さであろうとも、


『寝込みを襲われた』ことは、間違い無いのであり、


 その正体をはっきりさせようとするのは、当然のことわりであろう。


 ──そして、目の前の少女が、返してきた答えはと言うと、




「ロボット、です」




 ………………………は?




「王国の量子魔導クォンタムマジック技術の粋を集めて創造された、悪役令嬢型ロボット『あ〜るれい嬢』──通称、『アクドール』でございます」




「………………………は?」




 おっと、驚きのあまり、同じ台詞を、今度は実際に口に出してしまったぞ。


「ろ、ロボットって、あなたが?」


「はい」


「いや、『はい』、って…………」


 改めてまじまじと見つめ直してみるものの、確かにあまりにも冷え冷えとした氷の美貌は、少々人間離れしているものの、『悪役令嬢』と『魔法少女』との合わせ技である、『魔法令嬢』を育成しているこの学園においては、彼女程度の人並み外れた『無機質系美少女』も、別に珍しくは無かった。


「……まあ、言いたいことは山ほど有るけど、どうしてロボットであるあなたが、こんな朝早くから、わたくしの自室に無断で侵入なされているの?」


「保険医のミルク先生より、アルテミス様をお呼びするように、仰せつかったからです」


「ミルク先生?」


「ええ」


 ……ということは、例の『アイドルグループ活動』に関することか?




「わかりました、言いたいことはすべて、先生にお会いしてから、直接申し上げることにいたしましょう」




 そう言うや、わたくしは自ら率先して、部屋を後にした。




 ──怒りのあまり、顔を真っ赤に染め上げながら。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──ちょっと、ミルク先生、これってどういうことですの⁉」




 保健室の扉を蹴破るようにして飛び込み、開口一番まくし立てるや、執務机でのんびりと紅茶を嗜んでいた白衣の女性が、ゆっくりと振り向いた。


 染み一つ無い真っさらな白衣とタイトミニスーツとに包み込まれた、ほっそりとしながらも出るところは出ている、妙齢の美人保健医にして、




 我が特設空軍が誇る超巨乳元帥閣下、エアハルト=ミルク次官殿であった。




「あら、アルテミスちゃん、ようやくお目覚め? どうやら『アクドール』ちゃんは、役に立ったようね」


「何が、『アクドール』だよ⁉ てめえ、いい加減しろ!」


「……ちょっと、いくら何でも、教師にして上官である私に対して、その口のきき方は、問題があるのでは無いかしら?」




「──やかましい、もはやこの作品自体の存亡の危機なんだよ! 何が『アクドール』だ? もうほとんど、『ゲキ○ル』のパ○リじゃねえか⁉」




 そうなのである。


 わたくしたち悪役令嬢だけでアイドルグループを結成すること自体が、実のところは『ゾンビラ○ドサガリベンジ』あたりの影響だと思われているのに、


 これで、ロボットなんかメンバーに加えたりしたら、もはや『ゲキ○ル』そのまんまではないか。


 そのようなわたくしの作品自体のレゾンデートルを賭けたツッコミに対して、微塵も動じること無く、むしろ余裕綽々の笑顔で答えを返してくる、おっぱい元帥殿。


「ああ、それは大丈夫よ、その子はパ○リでも何でも無いから」


「はあ?」


 ふと見やれば、いつの間にかわたくしのすぐ後ろには、気配を一切感じさせずに、自称『アクドール』ちゃんがたたずんでいた。


 ……いや、この存在感の無さは、完全に『ゲキ○ルのドールちゃん』でしょうが?




「だってこの子は、『ゲキ○ル』とか『アイドル』とか一切関係無く、史上初の『ロボット型悪役令嬢』として、本作の第626話の段階で、すでに登場していたのですもの」




 なっ⁉


「ええっ、この作者、『ゲキ○ル』のパ○リとかでは無く、完全にオリジナルとして、ロボット型の悪役令嬢とか、自分の作品に登場させていたのですか⁉ 一体何考えているんだよ、あいつ?」


「これだけ『悪役令嬢』作品が、Web上に氾濫しているんだから、積極的に差別化を図っていくのは、むしろ当然の仕儀なのでは?」


「差別化するにしても、方向性がおかしいんだよ⁉ 『ロボット』とか! 『アイドルグループ』とか!」


「それくらいやらないと、ほとんどのタイプの『悪役令嬢』は、すでに存在しているのよお〜」


「……一体どういった『魔境』なんだ、Web小説界の『悪役令嬢』作品て」


「あなただって、悪役令嬢でありながら、ロリで、巫女姫で、凄腕の『剥ぎコラ師』で、名探偵で、異世界裁判所長官で、魔法少女で、ジェット機のパイロットで、アイドルという、無茶苦茶多彩な『属性』持ちじゃないの?」


「──その内の幾つかは、あんたに無理やり押しつけられたんだよね⁉ それから『剥ぎコラ師』については、シリーズ初期における『ネタ』みたいなものだから、正式な属性にはしないでくださらない?」


「それに比べれば、『ロボット型の悪役令嬢』なんて、まだ常識の範囲内なのでは?」


「立派に非常識だよ⁉ そもそも人間どころか、生き物ですら無いだろうが⁉ ──それに、『アクドール』と言う名称は、どうなんだ? それこそ完全に、『ゲキ○ル』そのまんまじゃねえか⁉」




「何を言っているのよ? 『アクトレス』に『ドール』で、『アクドール』なのよ?」




「えっ、『アク役令嬢型ドール』の略じゃ無かったのかよ⁉」


なんかそれだと、ドールちゃん自身が、『あくどい』みたいな感じイメージになってしまうじゃないの?」


「……でもこの時期、『アクトレス』ってのは、どうなんです? なぜだか『女優』と言う『一般名詞』自体が、毎度お馴染みのエセ人道主義者どもの工作活動によって、『言葉狩り』に遭いそうな勢いだと言うのに」


「ヤベえ、そうなると女の子のドールでも、『アクタードール』に統一されたりして、本当に『ゲキ○ル』になってしまうじゃん?」


「……もうあんたいっそのこと、『パ○リ』であることを認めろよ?」




「──そうはいかないわ! それではすべての『創作者』が、『負け』を認めることになるもの!」




「え? 『負け』って、どういうこと?」




「エセ人道主義者どもの世迷い言を、言われるがままに受け容れていけば、『言葉狩り』を始めとする様々な制約によって、『表現の自由』がどんどんと狭められていってしまいかねないのよ!」




「──‼」

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