第628話、わたくし、究極悪役令嬢『あ〜る』ですの♡(その3)

「──ルイ王子、あなたご自身は覚えておられないでしょうが、こうして魔族に狙われたのは、これが始めてでは無いのです」




「実はあなたは、この王国の世継ぎの君というだけでは無く、国土全体を取り巻く大結界の『要石』としての、お役目も果たされているのですよ」




「つまり、あなたさえ亡き者にすれば、王国全周を覆う強力なる結界がすべて無効化されて、魔族や魔物たちが侵入し放題となるのです」




「そこであなた様には、生まれてすぐに、強大なる力を有する『防御壁』が、常に付けられることになりました」




「それこそが、前世の『わたくし』である、筆頭公爵家令嬢アルテミス=ツクヨミ=セレルーナだったのでございます」




「実は筆頭公爵家の娘たちが、たびたび王家の世継ぎの君の婚約者に選ばれるのには、将来の王妃となる以外に、『王国の盾としてのお役目』という意味合いも有ったのです」




「婚約者であれば、護衛の近衛騎士でも踏み込めない、王族のみが許されたロイヤル級の『プライベートスペース』や、文字通り個人的な『パーソナルスペース』ですら、同席することが許されるので、『最後の護衛』としてふさわしかったのです」




「──そう、いざという時には、王子の代わりに自らの命をなげうつ、『肉壁』として」




「やはり今回のように、突然の襲撃が行われた十年前の事件においては、何と魔族は王族付きのメイドに身をやつし、王族専用のプライベートスペースまで侵入してきました」




「当然このような場合、メイドは複数人配置されており、しかも彼女たち自身も王族のプライベートスペースにおける護衛として、近衛騎士並みの武術と、王国屈指の魔術の腕前を有しており、凄腕のアサシンとして送り込まれてきた魔族に対しても、即時に応戦して、、相討ちには持ち込めないまでも、十分に致命傷を与えるのを成し遂げたのは、天晴れと申せましょう」




「もちろん、魔族の暗殺者も最後の力を振り絞って、『使命』を成し遂げんと、当時七、八歳ほどの幼い王子に襲いかかったところ──」







「──あわやというところで、我が身をなげうって、文字通りに身代わりとなって死んだのが、『オリジナルのわたくし』だったのです」







「ただでさえ、近衛騎士並みの武術や魔術を仕込まれている上に、いまだ幼い女の子と言うことで、魔族としては完全に眼中に無くすっかり油断していたところ、思わぬ伏兵の登場に、今度こそ本当に『相討ち』に持ち込まれてしまいました」




「──当然、王子様自身は、びっくり仰天です」




「生まれてすぐに決められた婚約者で、幼なじみの女の子が、魔族に果敢に挑んでいき、自分の命と引き換えに見事に仕留めて──」




「泣きじゃくる自分の腕の中で、最後の最後まで笑顔で、『……ルイ王子がご無事で、本当に良かった』とだけ言い残して、身罷ったのですから」




「『その時の王子アナタ』の哀しみようは、想像に難くないでしょう」




「しかもその結果やっかいなことにも、王国そのものが窮地に陥ってしまったのです」




「王国を守護する、『大結界の要石』としての、お役目」




「確かにそれは、王子の存在こそが肝要ですが、もちろん幼い少年一人だけの力で、成し遂げられるはずがございません」




「実は、巨大かつ強大なる結界を構築しているのは、王国民一人一人の身の内に無自覚に秘められている魔導力のうち、それぞれわずかな分の『寄せ集め』に過ぎないのであって、それを集めて結界化しているのが、王子のみが持ち得るこれまた無自覚の、『圧倒的に大多数の他人に対する、集合的無意識との強制的アクセス能力』なのです」




「そしてそれは無自覚であり無意識だからこそ、本人の精神状態に大いに影響されるので、王子自身がいつまでも『わたくし』の死を引きずり続けて、悲しみに暮れておられては困るのですよ」




「何せ、結界に少しでもほころびが生じれば、王国そのものの存亡の危機にも繋がりかねないのですから」




「そういう意味では、予想外の結果とはいえ、魔族の暗殺者は、立派にお役目を果たせたとも申せましょう」




「もちろん王国側としても、手をこまねいているわけには参りません」




「すぐさま筆頭公爵家の子女の中から、新たな王子の『婚約者兼絶対最終防衛護衛ライン』を選び出そうとしました」




「『王族の盾』を代々輩出してきた公爵家においては、『わたくし』のスペアなぞ、枚挙にいとまは無かったのです」




「しかし残念なことにも、当の王子自身に、取り付く島が無かったのでした」




「彼としては、誰よりも心を交わしていて、しかも自分のためなんかに死んでしまった、『私』のことを忘れ去って、他の女の子と婚約を結び直すことなぞ、けして受け容れられなかったのです」




「その気持ちも、よくわかりましたが、このまま王子の不安定な精神状態を放置していたら、王国自体が立ち行かなくなってしまいます」




「──そこで王子のお父上であられる国王陛下は、『わたくし』の父親にして希代の錬金術師でもある公爵と相談して、あなたの記憶を奪った後で、『わたくし』をロボットとして、甦らせることにしたのですよ」

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