第555話、わたくし、ループは別の人物になって行うパターンもOKだと思いますの⁉【実演編】

「──お嬢様、ここは私に任せて、先にお逃げください!」


「そんな! メイを残して、わたくし一人だけ生き延びろとでも、言うつもりですの⁉」


「早く! 早くしないと、『あいつ』が来ますよ!」


「──くっ」




 ──バケツをひっくり返したかのような、大雨の中。




 わたくしたち『主従』は、市街地の裏通りの狭く曲がりくねった路地を、二人で逃げ続けていた。


 派手なネオゴシック調のドレス姿の幼い少女と、メイド服をまとったやや年上の少女。


 その正体は、人類の運命を握る『の巫女姫』である、わたくしことアルテミス=ツクヨミ=セレルーナと、その守護者である、『開明獣』の化身のメイとの、二人であった。


 強力な後ろ盾であった、ホワンロン王国が滅亡してから、数年間ずっと続けている、あてども無き『逃避行』。




 ──そう、『彼女』の、魔手から、逃れるために。




 まさに今、どんどんと近づいてくる、足早な靴音。


 来るっ。


 あの、『無限世界の黒き死神』、が。


「お嬢様、失礼!」


「きゃっ⁉」


 突然わたくしを袋小路のゴミ捨て場へと突き飛ばすや、そのまま後ろへと反転して、自分だけ追っ手のほうへと走り出すメイ。


 瞬く間に、曲がり角の向こうへと消え去る、メイド服の背中。


「メイ⁉」


 ゴミ袋の山の中に埋もれながら、必死に呼び止めるものの、すぐさま聞こえてくる、激しく飛び交う怒号。


『──××!』


『──△△!』


 よく聞こえないが、どうやらわたくしを巡って、何か言い争っているようであった。


 ……どうして、


 どうしてそんなに、わたくしに、執着するの?


 もう、王国は滅んでしまったのだから、何の権力も無いと言うのに。


 今のわたくしはただ、メイと二人っきりで、穏やかに暮らしたいだけなのに。




 ──それなのに、どうして『彼女』は、その持ち前の特殊な力を使って、まで、わたくしを無限に殺し続けようとするの⁉




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「……気がつかれましたか、お嬢様?」


 窓から射しこむ眩しい朝陽によって目覚めれば、、長い旅先の安宿のベッドの上で、




 わたくしは、メイド姿の少女の腕の中に抱かれていた。




「……メイ」


「また、この『分岐点セーブポイント』から、やり直しのようですね」


 その言葉に促されて、周りを見渡せば、もはや見慣れた壁や扉や調度品等々が、目に飛び込んできた。


 一気に絶望の淵に堕とされて、わたくしは堪らず、叫び声を上げた。




「──どうして、どうしてなの⁉ どうしてわたくしたちが、こんな目に遭わなければならないのよ? 一体わたくしたちが、何をしたと言うの⁉」




「……お嬢様」


「うっ、うっ、うっ、うっ」


 無様にも嗚咽を上げながら、更にきつくメイの胸元にしがみつく。


「大丈夫です、大丈夫ですよ。何度時を繰り返そうが、私はお嬢様のお側を離れませんから」


 優しく抱き返しながら、耳元にそっとささやきかけてくる、最愛の従者。


「だ、だけど、結局わたくしたちは、何度時間を繰り返しても、殺されてばかりじゃないの⁉」


「──! お、お嬢様、覚えておられるのですか⁉」




「……はっきりとした記憶では無く、自分自身の死に様どころか、その時の『彼女』の姿も、明確には覚えてはいないのですけど、何か非常に『怖い思い』をしたことだけは、何となく記憶に残っているのです」




「怖い思い、ですか?」


「……むしろ、あまりにも信じられないものを見てしまったので、心が事実を認めることを拒否して、あえて記憶しなかったって、感じかも」


「そんなに想像を絶するほど、おぞましいものを、見てしまわれたのですか?」


「ご、ごめんなさい。一番大事な『情報』を、まったく覚えていなくて」


「あっ、別にお嬢様を、責めているわけではありませんよ? そんなことには関係無く、次回こそは必ずや、お嬢様のことをお守りしてみせますから!」


「……メイ」


「……お嬢様」


 そして見つめ合う二人の少女は、徐々にお互いの唇を近づけていき──




「──騙されないで、お嬢様! そいつがル○ンだ! 私になりすましているだけなのです、この穀潰しい〜!!!」




 その時突然、入り口の木製の扉を蹴破って飛び込んでくる、一つの人影。


「あ、あなたは、本塁打ほ〜むらんちゃん⁉ どうしてここに!」


 タイトミニのスーツからロングブーツにベレー帽やマントに至るまで、全身黒一色の出で立ちに、烏の濡れ羽色の長い髪の毛も麗しい、絶世の美少女。




 彼女こそが、わたくしたち主従を、無限の時を超えて殺し続けている、すべての元凶である、時間操作の超能力を持った、『黒き死神』ご本人であった。




「……え? わたくしが騙されているって? しかも、メイがあなたのなりすましだなんて。一体何をわけのわからないことを言っているのです? もしかして昨日、某歴史的超傑作アニメでもご覧になられたのでしょうか?」


 もしも目の前のメイが、本塁打ほ〜むらんちゃんの変装なら、何であなた自身までも、本塁打ほ〜むらんちゃんの姿をしているのよ?




「そいつは、私やお嬢様を、強制的に無限ループさせることができるほどの、超上級の異能の力を持っているのですよ? だったらループをするに際して、自分と私の肉体を交換することだって、けして不可能じゃ無いでしょうが⁉」




 ──なっ⁉


 その台詞を聞くや否や、わたくしは思わず『メイ』の手を振り払い、大きく後ろへと飛び退いた。


「──メイ、まさか⁉」


 もちろんわたくしとしては、『メイ』に、否定して欲しかった。


 しかし『本塁打ほ〜むらんちゃん』の言うように、圧倒的な超常の力を有する『彼女』は、何ら躊躇すること無く、余裕の表情で言い放つ。


「うわあっはっはっはっはっ! バレちゃあ仕方ねえ──ですわ!」


「あなたは、誰ですの⁉」




「そっちの『私』の御指摘通り、中身は『本塁打ほ〜むらん』ですわ! ──ふふっ、この姿を使って、毎回あなたのことを殺しながら、その際の記憶を奪っていたというのに、結局無駄に終わってしまいましたわね」




「ど、どうして、そんなことを⁉」


 別にこんな、『カ○城』の有名シーンのパクリみたいなことをしなくても、圧倒的な力を持っているのだから、わたくしたちのことなぞ、余裕で亡き者にできるでしょうに。




 ──それとも、それ程わたくしのことを憎んでいて、あえて残虐極まる殺し方をしているとでも言うの⁉




 何せ実のところは、『メイ』の姿になっていつでもわたくしを殺すことのできる状況にありながら、わたくしを助けに来た『本塁打ほ〜むらんちゃん』の姿をしたメイを返り討ちにしてから、『メイ』の姿をしたままわたくしをなぶり殺しにするのだから、これほどわたくしにとって耐え難き殺され方はないでしょう。


 ……一体、


 一体、わたくしたちが、


 ──何をしたと言うのです⁉




「え? どうしてって、現在絶賛放映&配信中の超傑作ループ系アニメの、『ひぐ○しのなく頃に』の完全新作版『業』における、『からくり』がすべてわかったから、【座談会】で取り上げる前に、こうして実験的にドラマ仕立てにして、ワンエピソードだけ作成してみただけですけど?」




「「は?」」




「詳しくは、次回の【座談会】にてご説明いたしますので、どうぞご期待のほどを♡」




「「──何だよこの、最初から最後まで徹底的な、『メタ』路線は⁉」」




 ……久し振りに『カ○城』を見たからって、悪ノリが過ぎるんだよ、あのアホ作者は⁉


 しかも、『ド○ボーは平和を愛す』のネタも、ちゃっかりと入れているし。







 ……ていうか、そもそも、『ひぐ○し』のネタバレなんかを、勝手にやってもいいのか?

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