第491話、わたくし、『ゼロの魔法少女』ですの。(その23)

 ──死にたくない。




 その時私は、心の底から、そう願った。




 ……生まれながらに、欠陥だらけの身体。


 まだ十歳になったばかりだというのに、もはやお医者さんからも、匙を投げられてしまっていた。




 ──死にたくない。


 ──死にたくない。死にたくない。


 ──死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 ──死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。


 ──死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。




 ──死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。




 そのように、胸、お腹、脇腹と、内臓の痛みに耐えかねて、呪詛のようなうめき声を上げていた、


 ──まさに、その刹那。




「……だったら、その願い、この私が、叶えてあげましょうか?」




 唐突にかけられた、涼やかな声音。


 振り向けば、十数階の高さを誇る病室の外の宙空に、私と同じ年頃の少女が浮遊していた。


「なっ⁉ あなたは、一体……」


 ──ッ、まさか?




「……あなた、もしかして、『死神』、なの? とうとう、私の魂を、もらい受けにきたの?」




 恐る恐るそう尋ねてみれば、すぐ目の前に迫る柘榴のごとき唇が、ゆっくりと開いていった。


「ええ、その通りよ」


 ──‼


「でも、勘違いしないでちょうだい」


 え?




「私は、あなたを死なせるためでは無く、あなたを生かすために、魂を奪いにきたの。──あなたがついさっき、そう願ったようにね」




 ………………………は?


 私を生かすために、魂を奪う、ですって?


 何を、




 ──この子一体、何を、言っているの⁉




「うふふ、さすがに戸惑っているようだけど、早速『儀式』を始めるね?」


「儀式って…………あふっ⁉」


 何と、その瞬間、


 少女の右手が、私の胸元に触れたかと思ったら、




 そのまま、胎内なかへと、侵入してきたのである。




「──あっ、あっ、あっ、あっ」


「はいはい、すぐに、済みますからねえ♫」




 ────ああああああああああああああああ♡♡♡♡♡♡




 そして、永遠とも思われた、数分間が過ぎて、


 ──すぽっ!


「あんっ♡」


 あっさりと引き抜かれる、謎の少女の右腕。




「へえ? あなたは、『青色』をしているのね、綺麗だわ」




 その手の中には、文字通りにこぶし大の、宝石のように煌めいている、青色の塊が握られていた。


「そ、それ、って……」


「ああ、これがあなたの、『魂』よ」


「──はあ?」




「こうして肉体から魂が分離されたことにより、あなたは人間の定命から解き放たれたの。──それこそ、、永遠の時を刻めるまでにね」




 そう言うや、さも愛おしそうに、青い宝石へと、口づけをする少女。


「──あうんっ♡」


「ああ、ごめんごめん、まだ分離したばかりで、敏感なんだね?」


「あ、あなた、一体、何者なのよ⁉」


 魂を抜き出したり、人の寿命を勝手に変えたりできるなんて、もはや死神なぞというレベルじゃ無いわ⁉


「あれ? こうやって不意討ち気味かつ強引に、自分の仲間を増やしていく『化物』と言えば、相場が決まっているんじゃないかしら?」


 ……人に勝手に『永遠の命』を与えて、自分の眷属なかまにする、『化物』って──


「あ、あなた、まさか⁉」




「そう、この私こそ、闇の女王にして、すべてのアンデッドのあるじである、真性の『吸血鬼』なの」




 ……何……です……って……。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




メリーさん太「……またしても、何なのよ、これって?」




ちょい悪令嬢「前にもやった、『魔法少女化=魂の無いただの物体化』の吸血鬼ヴァージョンの、【試作版テストケース】ですわ♫」




メリーさん太「──いや、やるんだったら、ちゃんと本編の続きをやれよ? いつまで【試作版テストケース】とか、こういった番外編的【座談会】とかを、やっているんだよ⁉」




ちょい悪令嬢「一応今回は、本編の【前日譚】になっておりますのよ?」


メリーさん太「へ? 前日譚、って……」


ちょい悪令嬢「おや、気がつかれませんでした?」


メリーさん太「気がつかなかったって、何によ?」


ちょい悪令嬢「自称吸血鬼の女の子が、語り手の女の子から抜き取った、『魂』についてですわ」


メリーさん太「『魂』って………………ああっ、そうか、『色』か⁉ 確か魔法少女の魂であるところの『魔女の魂ヘクセンジーレ』って、紅い色をしていたはずだよな?」


ちょい悪令嬢「ええ、その通りですわ」


メリーさん太「だったら、どうして今回のは、青色をしているんだよ?」


ちょい悪令嬢「それはもちろん、語り手の女の子が、『魔法少女』では無いからですの」


メリーさん太「はあ?」




ちょい悪令嬢「言ったでしょ、【前日譚】だと。今回は、あの吸血鬼の少女自身が、魔法少女になる以前のエピソードであり、相手の少女も当然魔法少女では無いから、魂の色自体も、個人的な色合いをしているってわけなの」




メリーさん太「うん? とすると、あの吸血鬼の少女は、『魔法令嬢育成学園』に入る前から、自分の眷属を増やしていたってことなの?」


ちょい悪令嬢「そうですね、実は何と、その時点でおいて、大失敗をしてしまうのですよ」


メリーさん太「大失敗、ですって?」




ちょい悪令嬢「今回前半部でご紹介したように、不治の病の少女の魂を抜き取って、彼女の『時を止めた』までは良かったんですけど、そのうち次第に文字通りの『魂の無い人形』そのものになっていって、まず最初に機械のような反応しかできなくなり、しまいには食事も摂らなくなって、衰弱して死んでしまうのです」




メリーさん太「え? 吸血鬼化して、不老不死になったんじゃ無かったの?」




ちょい悪令嬢「魂と肉体とを分離することによる、事実上の不老不死化を、便宜上『吸血鬼化』と呼んでいただけで、肉体そのものがアンデッド化したわけでは無く、肝心の精神自体に『生きる意志』が無ければ、肉体そのものも維持できず、いくら他者である吸血鬼の少女が何をしようが、本人自身が魂の抜けきった人形状態になってしまったのでは、手の施しようが無いのよ」




メリーさん太「ああ、そうか、『魂の肉体からの分離』って、『集合的無意識とのインターフェースの外部化』なんだから、自ら率先して集合的無意識を介して、『己の肉体の形態情報の維持』を図らなければ、そのうち肉体自体の形状を維持できなくなるってわけか」




ちょい悪令嬢「そういった失敗を踏まえてこそ、吸血鬼の少女のほうは、元々独特な魂(=集合的無意識とのインターフェース)の形状をしている、魔法少女たちを、己の眷属なかまとしていくようになったって次第なのよ」




メリーさん太「おおっ、そこら辺も結構、『切ない恋の物語』的なエピソードが、想像(創造)できそうですな⁉」


ちょい悪令嬢「……恋の物語と言っても、女の子同士だけどね」


メリーさん太「女の子同士だからこそ、いいのではありませんか!」


ちょい悪令嬢「こ、こいつ……ッ⁉」




メリーさん太「まあ、冗談はともかくとして、この『魔法少女化=魂の無いただの物体化』エピソードは、いろいろと使いようがあって、大いに期待できそうですな⁉」




ちょい悪令嬢「そうですわね、作者のほうも、いい加減本編のほうの再開に取り組むものと思われますので、読者の皆様も、今回の【試作版テストケース】にほんのわずかでもご興味を持たれましたのなら、どうぞ御一読のほど、よろしくお願いいたしますわ♡」

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