第460話、わたくし、オキナワの『狼』少年、ですの。(その18)

「──とは申しましても、夢や集合的無意識なんかによる、事実上の異世界転生などと言った、あくまでも偶発的な現象に頼っていては、そちらの方のような現代日本でのオーク化や、東アジア全域における大勢の人間の洗脳はもちろん、私のような軍艦の擬人化なぞ、恣意的に実現したりはできませんので、集合的無意識に対する『上位のアクセス権』と言うものが必要となってくるのです」




「へ? 上位のアクセス権、って……」




 ──異世界転生とは、結局のところ『夢の記憶』のようなものであり、例えば現実世界からの逃避願望がある、まさしく『なろう系作者』──もとい、『なろう系主人公』のような者こそ、超常なる精神領域たる集合的無意識とのアクセスを果たし、そこに存在している『異世界人の記憶と知識』を己の脳みそに刷り込まれることによって、事実上の異世界転生を成し得るといったふうに、その者なりの様々な『願望』こそが、集合的無意識とのアクセスを生じさせて、異世界転生等の超常現象を可能にするのだと言われて、まったく理解の範疇を超越してしまって、ほとんど何も反応ができずにいた、僕こと『オキナワの少年』イクに対して、更なる驚きの台詞を突きつけてくる、自称かつての大日本帝国海軍を代表する大戦艦、『大和』の擬人化少女殿であった。


「先ほど例に挙げました、いきなり戦国時代に行って織田信長の家臣になって立身出世するという、『なろう系の戦国転生』そのもののタイムトラベルならぬタイムは、現実であったのか夢に過ぎなかったのか判別のできない、集合的無意識とのアクセスによって実現いたしますが、異世界人が計画的にこの現代日本に転生してきたばかりか、己が憑依した日本人の肉体をオークに変化メタモルフォーゼさせて、事実上の異世界『転移』を実現したり、自分以外の億単位の人々を洗脳して、異世界人のシンパや奴隷に仕立て上げると言ったことは、とても偶然に為し得るはずが無く、これには集合的無意識との『上位のアクセス権』が必要になるわけなのですよ」


「──うん、改めて聞いてみると、すごい無茶ぶりだよね? 集合的無意識なるものが本当に存在しているのかはさておき、そういった超常的領域とアクセスしたところで、とても君が今言ったことを一つ残らずすべて、現実のものにできるとは思えないんですけど⁉」


「いえいえ、集合的無意識との上位のアクセス権さえ有れば、十分実現可能なんですってば」


 だから何なんだよ、その『集合的無意識との上位のアクセス権』ってのは?




「まず何よりも、集合的無意識というものは、ただ普通に平穏に暮らしている方には触れることすらもできない、心理学における権威中の権威であられるカール=グスタフ=ユング大先生の言うところの、『超越的精神領域』なのであって、歴史的発明家や科学者等の一部の傑物のみが不断の努力の末にたどり着くことのできる、いわゆる『天才的閃き』や『叡知の泉』とでも呼ぶべきものなのです。本来ならこのような天才限定の文字通りの『奇跡の領域』であるわけなのですが、これに対する『上位のアクセス権』を有していれば、偶然や奇跡なぞに頼ることなく、意図的にアクセスして、先程から何度も何度も申していますように、事実上の異世界転生等、様々な超常的現象を実現することができるのでございます」


「……異世界転生を、意図的に実現できるって?」


「『なろう系』Web小説で申せば、異世界側における『召喚術』への利用等が挙げられます」


「『なろう系の召喚術』って、そんなもの、この現代日本にいる者からすれば、現実に行われたかどうかなんて認識することのできない、単なる絵空事じゃないか⁉」


 何だよ、結局『集合的無意識とのアクセス』なんて、奇跡的な閃き以外には、現実的には不可能ってことじゃないか? 何が上位のアクセス権による、オークの異世界転移の事実上の実現だ、それこそ『なろう系』的作り話だろうが?




「いえいえ、これって基本的には『催眠術』みたいなものですから、十分現実的かと思われますが?」




 ………………………は?


「集合的無意識とのアクセスが、催眠術のようなものだって?」




「医療現場において使用されている、『催眠療法』と呼ばれる正当なる催眠術は、患者さんを催眠状態にすることによって、ご自身の『過去の記憶』を深層心理の中から掘り起こすことを主眼にしておりますが、中には『あなたは今、大空を羽ばたく鳥になっています、視界には何が映っていますか?』などと言った、いかにも『心理テスト』そのままに、ご本人以外の存在になってしまったかのように誘導するタイプのものも、少なからずございます。何度も申しておりますように、催眠状態とは多世界解釈量子論的にも、『無限の可能性としての世界』が無限に交差しているとも言われている、『夢の世界』に半分覚醒状態でアクセスさせているようなものであり、広義の意味での『集合的無意識とのアクセスの実現』とも申せましょう」




 ──おおっ、なるほど!


 それこそこれまで何度も言われたように、現実的に異世界等の『可能性として存在し得る他の世界』に転移するには、夢でその世界を見るしか無いのであり、必然的に自分自身にとっての『異世界転生を行った記憶』は、『あやふやで断片的な夢の記憶』のようなものにならざるを得ないのであるが、実はそのような『他の世界の存在ニンゲンの記憶』と触れることを可能とするのは、ありとあらゆる世界の存在の記憶が集まってくると言われている、『集合的無意識とのアクセス』以外には原則的にあり得ないのであり、よって人を半覚醒状態にして、己の過去や別の存在の『記憶』を、まさしく『起きたまま夢を見る』という形で植え付ける催眠術こそ、最も現実的な集合的無意識とのアクセス方法というわけか!


「ふっふっふっ、どうやらご理解いただけたようですね? ──しかし、驚かれるのは、まだ早いですよ?」


「……何、だと?」




「これまた何度も申しましたが、けして『なろう系』等のフィクションなんかでは無く、真に現実的な異世界転生においては、現代日本人が物理的にも精神的にも、異世界に移転することなぞあり得ないのであって、異世界側が召喚術を使って現代日本人を異世界に転生させる場合には、まず錬金術によって、最初からチートスキルを有しているホムンクルスを創っておいて、召喚術士ならではの『上位のアクセス権』によって、集合的無意識にアクセスさせて、催眠術そのままに現代日本人の『記憶と知識』を脳みそにインストールさせて、事実上の異世界転生を実現するという次第なのですよ」

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