第430話、わたくし、『ゼロの魔法少女』ですの。(その19)

「……不定形暗黒生物ショゴスをフル活用することによって創り上げた、転生者から最先端技術の知識だけを効率よく搾取するシステムですって⁉」




 長々と続いた魔王様の独演会モノローグによって聞かされた、あまりにも衝撃的な話の内容に、思わず戦慄せざるを得なかった、私こと現役JC女子中学生勇者であった。




 ……何か、合間に数回ほど、何だかわけのわからない『座談会』みたいのが、挟み込まれたような気もするけど、おそらくは錯覚であろう。




「いくら変幻自在のショゴスを材料に使っているからって、世界そのものを創り上げるなんて、そんな馬鹿な!」


「それほど珍しいことでは無いだろうが? 某『鬱系魔法少女アニメ』においては、ガチ○ズをこじらしたJC女子中学生が自ら悪魔になって、自分の理想の『魔法少女の世界』を創り出して、『私の最愛のお友達』を閉じ込めていたぞ?」


「──もうそのネタは、よしなさい!」


 しつこすぎるんだよ、本作の作者ときたら。


 そもそも、私たちのような、美人女子大学生魔王と美少女中学生勇者とのペアだったら、『ま○マギ』と言うよりも『マギ○コ』だろうが?


 ……そのように、私が胸中でアホなことばかり思い描いていた、まさにその時。




「そもそもが何よりも、『なろう系』Web小説自体が、最も代表的なジャンルなのだからな。転生者である現代日本人にとって、異世界なんてものは、はなから現実世界とは、自分自身の見果てぬ夢を叶えるためだけのの、『レジャーランド』か、あるいはそれこそ『物語の世界』でしか無いのだ」




 ──なっ⁉


「私たちのような転生者が、この異世界のことを、『レジャーランド』や『物語の世界』と見なしているですって⁉」


「違うとでも、言うのか?」


「──うっ」


 ……た、確かに。


『なろう系』の転生主人公ってほとんどが、無敵なチートスキル等を与えられているのをいいことに、完全に『レジャーランド』気分だよね。


 私自身においても、この剣と魔法の異世界についてはもちろん、自分が転生したことさえも、今一つ現実味を感じられないでいるからな。




「……で、でも、これまで出会ってきた異世界の人々──特に、私の最愛の第三王女ちゃんが、いわゆるRPGのNPCそのままの『つくりもの』に過ぎないなんて、どうしても信じられないわ! だって、『あの夜』の彼女の、肉感も体温も、本物の人間そのものだったもの!」




「──おまえはこの異世界を、『神○市』にするつもりか⁉ このガチレ○勇者が!」




 ……やはりこの異世界は、『マギ○コ』だった?


「とすると、女子大生魔王であるあなたは、西地区のボス──いわゆる『西の魔王』?」


「やかましいわ!」


「せやかて、魔王はん」


「え、その『西』って、関西のことなの?」


「まあ、冗談は、このくらいにして」


「おいっ!」




「この世界があなたの言うように、私たち転生者から『最先端の日本の知識』を搾取して使い捨てにするための、『つくりものの世界』だとして、わざわざ魔王であるあなたが、勇者である私に明かしたりして、一体何が狙いなの?」




 ──一瞬にして、沈黙に包み込まれる、玉座の間。


 ……しかしそれは文字通りに、一瞬だけのことに過ぎず、すぐさまいかにも「我が意を得たり」と言った、喜色の笑みを浮かべる魔王様。


「それは当然、転生者同士での、『結託コネクト』の申し出さ」


 ……最近の作者の、異常なる『ま○マギ』(&『マギ○コ』)推しは、一体何なのだ?


「はあ? 魔王であるあんたが勇者である私に、結託を申し込むですって⁉」




「おまえまさか、これほど異世界のやつらにコケにされていながら、唯々諾々と従い続けるつもりなのか? ここで勇者としての役割を果たして、魔王である我を討伐したところで、次はおまえ自身が魔王に仕立て上げられて、新たに用済みになった勇者に、討伐されるだけだぞ?」




 ──うぐっ。


「……し、しかし、すべてはあんたの言い分を聞かされたに過ぎず、それが必ずしも本当のこととは、決まっていないじゃないの⁉」


「おや? さっきの我の言葉を、ちゃんと聞いていなかったのか? 『用済みになった勇者』と言ったろうが? そのように『魔王退治』に差し向けられる転生者は決まって、異世界人にとって役に立つ専門知識を持たない、『ハズレ者』に限定されているんだよ。──心当たりはないか?」




「──っ」


 そ、そういえば。


 同時期にこの世界に転生してきた日本人の中で、科学や政治や経済や軍事等に専門知識を持っている人たちって、私のように『魔王退治』等のお題目で国外に派遣されたりすることなく、王国内で重要な地位を与えられて、大切に扱われていたっけ。


 ──つまり、やはり私たちは、『ハズレの転生者』として、使い捨てにされたわけなの?


「……もしも、もしもよ、あなたが言っていることが正しいとして、本物の異世界人たちに、『物語の登場人物』そのままに作り替えられた私たちが、どうやって復讐をすることができると言うのよ?」


「簡単なことだ、おまえたちも我同様に、『魔王』になればいいのさ」


「はあ⁉」




「言っただろう? 勇者から魔王になれば、集合的無意識とのアクセス権が一段階向上して、世界そのものに対する変形能力が格段に跳ね上がるから、異世界のやつらどころか、この異世界そのものに復讐することだって、十分可能となるのさ。──まさしく、自ら魔女どころか悪魔となり、自分自身や最愛の少女を苦しめていた、世界そのものに復讐を果たした、かの魔法少女そのままにな」




 ──‼




「そう、これは我々転生者による、『つくられた異世界』という、『物語への叛逆の物語』なのだよ」

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