第390話第、わたくし、ソビエト空軍の偉大なるSS大佐ですの。(その18)
──『正』の、魔導力。
それは、この世界における魔法少女に当たる、『魔法令嬢』が行使する魔法の原動力となるものである。
──『負』の、魔導力。
それは、この世界における魔女や悪魔等に当たる、『悪役令嬢』が行使する魔法の原動力となる──どころか、悪役令嬢自身を構成する、『要素』そのものとも言えた。
それと言うのも、魔法令嬢が魔法を使っているうちに、身の内の魔導力が異常に増大していき、一定の限界値を超えた途端、魔導力の性質が『負レベル』へと転換して、己自身も『魔そのもの』と成り果ててしまい、更には世界そのものを負の魔導力で染め上げようとし始めるのだ。
元来『魔法』というものは、己の肉体をも含む万物の形態を失わせて、自由自在に変形させることによって実現しており、例えば『火炎系の魔法』においては、何も油や大気中の酸素等の可燃物に限らずどのようなものであろうとも、その構成している物理量の最小単位である量子の形態情報を書き換えることによってなされていた。
更に詳細に述べると、魔法少女や魔女等の魔法を使える者は、それぞれのレベルに合わせて集合的無意識とのアクセスが許可されており、魔法少女──すなわち、魔法令嬢であれば『正』の魔法として、己自身や周囲の物質の形態情報を書き換えることによって、己自身を変形強化させたり、炎や氷雪の魔術を実現したりしているのだ。
それに対して、魔女──すなわち、悪役令嬢の『負』の魔法は、魔法令嬢同様に己自身や周囲の物質の形態情報を書き換えて、様々な超常現象を実現するのみならず、魔法を及ぼした物質を『魔そのもの』と変えていき、しまいには世界自体を『魔』へと変えようとするものなのである。
よって、世界の安寧を守るためには当然の如く、悪役令嬢を打倒しなければならず、そしてそれができるのは、同様に魔法を使える魔法令嬢だけなのだ。
なぜなら、正の魔法と負の魔法は、基本的に魔導力としては真反対の性質を有しているので、打ち消し合い無効化することが可能なのだ。
──というのは、実は表向きの理由付けに過ぎず、本当は集合的無意識におけるアクセス権の範疇の違いでしかなく、既存の物質を完全に『魔そのもの』と変質できる負の魔法のほうが、当然のように強力なのだが、簡単に言えば、そこに正の魔法を掛け合わせることで『勢いを削ぎ』、集合的無意識へのアクセスレベルを『正』の段階に抑えて、物質が『魔』へと変質するのを回避しているものだから、見かけ上『負の魔法』が無効化しているように見えるだけで、『魔法』自体はちゃんと発動されているのである。
普通、魔法令嬢が悪役令嬢を討伐する際は、大人数で抑え込もうとするのも、基本的に負の魔法のほうが集合的無意識へのアクセスの優先度が高いからであり、それを数の暴力で補うことで、お互いのアクセス権を『中和』しているだけの話なのだ。
──結局、魔法なぞといったものは、正とか負とかにかかわらず、総じて『外道』でしかないと言うことなのである。
……それでは、今回数の上では1対5という、圧倒的に不利な状況下において、悪役令嬢である私ことフェルディーナ=ブランドナーが、魔導大陸特設ジェット戦闘機部隊『ワルキューレ』の、
──そうなのである、そもそもドイツとはまったく関係無いくせに、どうして我が第三帝国の最終ジェット戦闘機である、『He162』なんかを使用しているんだよ?
ミリオタどもときたら、ほとんど意味も無く、ただ単に「カッコいいから☆」とか言ったふざけた理由だけで、ドイツ機ばかりをもてはやすものだから、私のような『軍用機の悪役令嬢』なんかに、つけ込まれてしまうことになるのだ。
何せ『軍用機の悪役令嬢』と言うくらいだから、基本的にほとんどすべてのドイツ軍機は私の
……実はサキュバスである、He162三号機の『ワルキューレ3』の
──それでは、魔法令嬢たちを今やTuー95を構成しているHe162内に閉じ込めて、何をやっているかと言うと、先ほども申した通り、
もはや現在『魔そのもの』と成り果てている、このキメラ型Tuー95の、
何度も言うように、正と負の魔導力は、基本的に同じものであり、正の魔法を適度な範囲内で使っているうちは、負の魔法への反転が抑えられて、自他共に『魔そのもの』に成り果てることは無く、いつまでも魔法を使い続けることができた。
つまり、現在においてTuー95は『魔の存在』としては、(バランス良く)完成しており、これ以上負の方向に針が振れると不測の事態に陥りかねないので、ただ単純に本機を飛行させるエネルギーについては、魔法令嬢たちの正の魔導力を活用しようといった次第であった。
「……うふふふふ、我ながら、いい考えね」
私は目の前の
……
私は別に、己の欲望のためだけに、いたいけな女子小学生を平気で犠牲にできる、冷血漢であるわけでは無い。
それと言うのも、実は彼女たち『ワルキューレ隊』の
実はこの世界は、『聖レーン転生教団』という、何とも胡散臭い全異世界的宗教組織が、『実験場』としてでっち上げた仮想的な世界なのであり、ここに存在している全生物は、クトゥルフ神話で高名なる不定形暗黒生物『ショゴス』によって構成されており、それに集合的無意識を介して、別の世界の存在の『記憶と知識』をインストールすることによって、まるでゲーム内の『アバター』のような仮想的な人格として仕立て上げて、各種の実験を遂行しているだけの話なのである。
その証拠に、先ほど私が負の魔導力を全開した際には、彼女たちと集合的無意識とのアクセスが一時的に中断されて、素の悪役令嬢としての『記憶と知識』が甦ってしまったというわけなのだ。
「……とはいえ、せっかくこうして魔法令嬢になったというのに、自分の願いが叶えられないというのは、気の毒とは思うけどね」
まあ、そこは『弱肉強食』ということで、あきらめてもらいましょう。
「……実は、『魔法令嬢に悪役令嬢を狩らせている』のは、魔法令嬢に経験を積ませて、魔導力を高めさせて、負のレベルに転換して自分自身も悪役令嬢となって、自らの力で世界そのものを改変させて、己の願いを叶えさせるためだったのよねえ」
つまり私はあくまでも、自分を狩りに来た魔法令嬢たちを返り討ちにして、自分の願いを叶えるための『糧』にしただけの話で、誰からも文句を言われる筋合いは無かったのだ。
──そうよ、私は何も、悪くない。
私はただ、私の『願い』を、叶えただけ。
何せこうして異世界に転生して、少女にTSすることを受け容れたのも、すべては『真に理想的な軍用機を実現する』という、私の長年の願いを叶えるためなのだから。
──たとえ、どのような犠牲を払おうが、構うものか。
「そう? だったら私も、私の願いを叶えることにするわ。──たとえ、あなたを犠牲にしようとね♡」
──⁉
あまりにも唐突に、私以外誰もいないはずのコクピットに鳴り響く、幼い少女の声音。
その瞬間、世界が一変した。
「なっ⁉ 負の魔導力が減衰している? そんな、ここには私以外には、意識を失ったアルテミス嬢しかいないのに、正の魔導力が負の魔導力を、上回るはずは──」
いや、違う。
これは、これは、これは、
まさか、
「……『無』の、魔導力?」
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