第379話、わたくし、ソビエト空軍の偉大なるSS大佐ですの。(その10)
『うふふふふふふふ』
『あははははははは』
『くすくすくすくす』
唯一外部を視認できていたキャノピーすらも無数の烏に塞がれて、完全に『密室』状態となった愛機He162のコクピット内で鳴り響く、多数の少女の哄笑。
皆一様に十歳くらいの年頃の、一糸まとわぬ華奢な白磁の肢体に、月の雫のごとき銀白色の長い髪の毛に縁取られた端整なる小顔の中で煌めいている、夜空の満月そのままの
そう、まさしく私こと、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナの容姿、そっくりそのままに。
「──嫌、近寄らないで、
まるで融合しようとでもしているかのように伸びてくる、無数の腕を払いのけながら、
『──何を言っているのです?』
『これは、あなたが望んだ世界、そのものではありませんか?』
え?
『そうあなたは、××と同じく、銀髪金目になりたいと、願い続けてきた』
『しかし、一つの時代に銀髪金目となれるのは、一人きりだけ』
『つまり、××がいる限りは、自分自身が銀髪金目には、永遠になることはできない』
『──逆に言えば、××さえ
『『『だからあなたは、密かに願ったのではないですか? 自分の実の姉である××が、死んでしまうことを!』』』
──なっ⁉
「わけのわからないことを、言わないで!
『それはあなたが、魔法少女となる際に、開明獣に「姉の存在を最初から消してちょうだい!」と頼み込み、異世界転生する際に、なろうの女神に「チートスキルとして『
……………………………は?
「わ、
『あらでも、ゲンダイニッポンにおいては、魔法少女になる際には、胡散臭い自称マスコットふう使い魔から、何でも願いを叶えてもらえることや、異世界転生をする際には、胡散臭い自称女神様から、どのようなチートスキルでも与えてもらえることが、お約束なんでしょう?』
「何よその、鬱展開の魔法少女アニメと、イキリ展開のWeb小説との、
『『『だって、異世界転生者とは、魔法少女そのまんまだし、現実世界で魔法が使える「魔法少女空間」にいちいち移動することは、一種の「異世界転生」のようなものだと、
──っ。
……まさか……まさか。
「あなたたちさっき、魔法少女としての私の願いを叶えたのは、『使い魔』とか言っていたわよね? それって、ひょっとして──」
『『『ええ、実はこの世界──Web小説「わたくし、悪役令嬢ですの!」は、あなたの従者にして使い魔でもあるメイ=アカシャ=ドーマンの、ゲンダイニッポンにおける「多世界同位体」である
──‼
……何ですって、この世界が小説に過ぎず、
しかも、この銀髪金目の姿は、本当は
……それでは、一体、本当の
──
──
──
──
──
──
──
──
──
──
──
──
「違う!
『『『いいえ、すべては、偽りに過ぎないの。この世界は偽物だし、ホワンロン王国や魔導大陸も存在しないし、悪役令嬢も王子様もお姫様も単なる乙女ゲームの中だけのキャラクターだし、魔法少女と軍艦擬人化少女も他の作品からの借り物だし、あなた自身も単に、Web小説の登場人物でしかないの』』』
「──いやあああああああああああああああああ!」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
「──負の魔導力、レベル280!」
「もはや、限界です!」
「悪役令嬢結界、もう
「すべてが、融解開始!」
「……ふふ、ふふふ、ふはははははは! やった、やったぞ! ついに我々聖レーン転生教団の、長年の悲願が成就する時が来たのだ!」
聖レーン転生教団聖都『ユニセクス』の教皇庁の、薄暗い地下最深部にひっそりと存在している、今回の【魔法令嬢実験世界】のために設けられた、広大なるモニタールームにて響き渡る、漆黒の聖衣をまとった青年の大笑。
──しかし、その慢心に満ちた楽観ムードは、突然の冷ややかなる声音によって、ぶち壊された。
「そうは問屋が卸すかしら? 相変わらず最後の詰めが甘いわね、あなたたち転生教団ときたら」
男が振り向けばそこにいたのは、いまだ包帯が巻かれた右腕も痛々しい、己と同じ異端審問第二部の特務司教の女性であった。
「おや、ミサト=アカギ司教、お加減はよろしいのですか?」
「ふん、こんな大事な時にいつまでも医療セクションで、
「拘禁とは、心外な。──それに、ご自身もれっきとした司教でありながら、教団を批判するかのような物言いは、感心しませんなあ?」
「お生憎様だけど、私は自分の『
「ほう、思いの外、部下思いなのですね? ──『無貌の神』様におかれましては」
「……軽々しく、その名前で、私を呼ぶんじゃないわよ」
「おおっと、これは、大変失礼いたしました」
「相変わらず、食えないやつね。──でも、その余裕も、今のうちよ」
「はて、どういうことでしょう? 今のところ『計画』は、順調なのですが?」
「『彼女』がすでに、アルテミスのところへ、向かっているのよ」
「──なっ⁉ そんな馬鹿な! どうしてこの世界に、『彼女』が⁉」
「さあ、誰か手引きする人でも、いたんじゃないのお?」
「──ぐっ、さすがは、腐っても、『コズミックホラーの代名詞』ってところですか?」
「さあて、何のことやら? ──それで、どうするつもり?」
「……さすがに『彼女』では、相手が悪すぎます、ここは大人しく、手を引きましょう」
「おや、あなたにしては、殊勝なことで」
「……勝ち誇るのもよろしいですが、ご自分が一体、どのような『劇薬』を放り込んでしまったかは、自覚がお有りなのですか?」
「あら、私はただ、こうしたほうが、面白くなると思っただけよ?」
「ちょっ、そんな、無責任な! 相手は下手したら、希代のトリックスターである、我ら教団の御本尊たる『なろうの女神』よりも、よほど性悪の存在なのですよ⁉」
「──だからこそよ。現在の閉塞した状況を打開するためにも、『彼女』には大いに活躍してもらわなければ。……うふふ、『彼女』の姿を目の当たりにした時の、アルテミスの反応が、今から楽しみだわ♡」
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