第365話、わたくし、チート転生勇者って、魔法少女そのものだと思いますの。【実践編】

 ──昔々あるところに、チート勇者の潜在能力を秘めている、(Web小説的にも)非常に有望な少女がいました。




 ……ただしお気の毒なことにも、彼女には不治の病を抱えている幼い妹がいて、ずっと看病をし続けてきて、心身共に大変な負担となっていたのです。


 それに目をつけたのが、邪悪な魔女たちが大勢住んでいる異世界を支配している女神様で、少女に対して驚くべき『交換条件』を持ちかけてきました。




「──女神である私と契約して、異世界に転生して勇者となって、邪悪なる魔女たちを退治すれば、どんな願いであろうと、一つだけ叶えてあげるわ♡」




 もちろん妹思いの少女は、二つ返事で承諾して、「妹を健康にして欲しい」という願いと引き換えに、女神の支配している異世界へと転生して、物心がつくと同時に身の内に秘めていたチート能力に目覚めるや、悪い魔女たちをバッタバッタと退治していき、ついにこの世界に完璧なる平和をもたらしたのです。




 ……ちなみに、生まれ変わった異世界の家族においても、妹が一人いましたが、その子は生まれつき健康そのもので、不治の病なぞにかかったりはせず、ずっと姉妹仲良く暮らしていきました。




 ──めでたし、めでたし♡


 ………………………


 …………………


 ………………


 ……………


 ………




「──いや、ちょっと、待ってちょうだいよ?」




「……どうしたのです、転生勇者少女よ」




「『勇者少女』って、元ネタの『魔法少女』のもじりかよ⁉ ………それはともかくとして、女神様、少々聞きたいことがあるんですけど?」


「はい、何でしょう?」


なんか勝手に、『めでたし、めでたし』で締めようとしているけど、本当にちゃんとすべてが、『めでたし、めでたし』になっているんでしょうね?」


「……何を今更、あなたの活躍のお陰で、魔女もすべて退治されたし、あなた自身も、ご家族を始めとする周囲の方々も、全員が幸せに暮らしていて、まさにこれぞ『大団円』ではないですか?」


「確かに、この世界においてはそうだけど、『一番肝心な点』のほうは、どうなっているのかって、聞いているのよ⁉」


「はて、一番肝心な点、とは?」


「──決まっているでしょうが、私が勇者少女になるのと引き換えに、女神であるあなたが叶えてくれることになっていた、『願い事』のことよ! ちゃんと私の妹は不治の病が治って、元気になっているんでしょうね⁉」


「妹さん、ですか? それでしたら、あなたも良くご存じの通り、元気に暮らしておられるではないですか? それはもう、生まれてからこの方、不治の病どころか、風邪一つ引いたことが無いほどに」


「ちょっと、何言っているのよ、それはこの世界の妹の話でしょう⁉」


「……この世界も、どの世界も、あなたにとっての妹さんは、その方ただお一人のはずですが?」


「ふざけないで! あの時あなたに願ったのは、あくまでも元の世界の──つまりは、現代日本の私の妹の、不治の病を治すことだったんじゃないの⁉ ちゃんと病気は治っていて、妹は完全に健康体になっているんでしょうね?」


「さあ?」


「さあって、あんた!」


「う〜ん、不治の病と言うくらいなんだから、今頃お亡くなりになっているんじゃないですかねえ?」


「──な、何ですってえ⁉ そんな無責任な! あなた本当に、女神なの⁉」


「いや、女神だろうが何だろうが、現代日本の最先端の医療技術でさえも匙を投げた、『不治の病』を治すことなんてできるはずが無いじゃない? それってほとんど、『死んだ人間を甦らせる』ようなものよ? そんなことができたりしたら、もはや女神どころか、世のことわりを超越した、とんでもない『バケモノ』ってことになってしまうじゃないの? ──ああ、恐ろしや」


「まさにその、不可能を可能にするのが、あなたたち女神の役目じゃないの⁉」


「そんなことは無いわ、『不可能なこと』はあくまでも、『不可能なこと』なのであって、女神だろうが何だろうが、けして実現不可能なのよ?」


「じゃあ、『何でも願いを叶えてやる』というのは、嘘だったわけ⁉」


「嘘なんかつかないわよ、こうして本当に『異世界転生』なんていう、文字通りの『神業』を披露して差し上げたじゃないの?」


「た、確かに、異世界転生はすごいと思うけど、妹を救ってくれないんじゃ、意味が無いでしょうが⁉」


「だから、救ってあげたでしょう? ──この世界の妹さんを。あなたさっきから、何か勘違いしているようだけど、あなたにとっての妹さんは、彼女以外にはいないのよ?」


「はあ?」




「別にあなただけではなく、すべての異世界転生系のWeb小説の主人公たち全員が、考え違いをしているようだけど、いったん異世界転生してしまったら、あくまでも異世界人以外の何者でも無いのであって、けして現代日本人のの。あなたたち『自称転生者』が持っている現代日本人としての記憶なんて、単なる『妄想』のようなものに過ぎないのよ♡」




「──なっ⁉」




「あくまでも物理法則に則れば、あなたの『妹を救って欲しい』という願いは、現代日本においてはけして叶えることができないのだから、私としては異世界転生させるしかなく、その結果あなたは、ちょっと妄想癖だけど正真正銘生粋の異世界人として生まれ変わったんだけど、この世界における唯一の妹さんについて

は、幸いなことにもまったくの健康体だったので、結果的に長年の願いが叶ったわけなの。──ほら、私は嘘なんてまったくついていないし、あなたの願いを完璧に叶えてあげているでしょう? それに、こんな剣と魔法のファンタジーワールドの凶悪なる魔女たちを全滅させるなんていう、非常識極まる絶大なるチート能力なんか持っていて、元の世界で平穏な生活を送っていけるわけが無いじゃない。あなたは異世界転生をして正解だったのであり、しかもそのお陰でこの世界自体そのものやその守護神である私自身も、大いに恩恵をこうむったのだから、これぞまさしく『WinーWin』の関係と言えるでしょうよ♡」

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