第350話、わたくし、軍艦擬人化美少女の、真の恐ろしさを痛感いたしましたの。(その13)

「……………………………………は?」


 その時私こと、魔導大陸特設海軍臨時連合艦隊旗艦ビスマルクの副長にして、現在においては司令代行でもある、エーリック=トーマ=モトサマは、いかにも思わずといったふうに、間抜けな声を上げた。




 それも、無理は無かろう。




 これまでだってさんざっぱら、『超展開』の連続だったのに、この海戦における最大の敵性体である、無数の『旧帝国海軍駆逐艦きよしもの擬人化美少女』たちが、唐突にも全個体が合体して、一つの巨大な純白の肉塊になったかと思ったら、更に我々の味方側であるはずの、魔法令嬢『ブラック=ホーリー=プリンセス』までもが自ら合体に加わったかと思えば、何と全身まっ白けで巨大なる、第二次世界大戦当時最強の戦艦、日本海軍大和やまと型2番艦の『武蔵むさし』の擬人化ヴァージョンとなってしまったのである。




「──いやだから、どうしていきなり武蔵なんかになるわけ? 無数の清霜が合体したんだから、たとえ大きさが変わろうとも、清霜のままでいいじゃん⁉」




 当然と言えば当然の疑問の言葉を、堪らず怒鳴り散らす、これでも普段は冷静沈着さで定評である、副長殿。


 それに対して驚いたことに、まさしく打てば響くように答えを返してきてくれたのは、我がビスマルク備え付けの、メインコンピュータの機械音声であった。


『──それは、当然、「お約束」だからですよ』


「はあ?」


『「様式美』と、言い換えても、構いませんがね』


「いや、いきなり量子コンピュータが、何わけのわからないことを語り始めているの? 何で駆逐艦が戦艦になってしまうのが、お約束や様式美なんだよ⁉」


『あなた、疑問に思いませんでした? 旧帝国海軍には星の数ほど高名なる軍艦がひしめいているというのに、あえてそれほどメジャーではない、駆逐艦の清霜が、今回の量産型人魚姫セイレーンたちによる、軍艦擬人化対象艦艇に選ばれたことを』


「あ、ああ、確かにそれは、さすがに気になっていたけど……」


 普通旧帝国海軍で選ばれるとしたら、それこそ武蔵や大和のような大戦艦や、仮に駆逐艦であったとしても、ゆきかぜのような有名どころだよな。


『理由の一つとしては、清霜は史実的にも武蔵と浅からぬ関わりがあり、もう一つは、「彼女」は人間の女性にたとえれば、「ロリの代名詞」と言っても過言では無いからです!』


「おいっ⁉」


 よりによって、何てこと言い出すの、この量子コンピュータ⁉


『おっと、この「ロリ」というのは、何もふざけているわけではなく、こうして清霜が武蔵にランクアップしたことの、重大なる理由の一つとなっておりますので、まずはご静聴のほどを』


「む、そうなのか?」


『はい、何よりも清霜は、1944年2月という、かなり遅い時期での進水でありながら、それからたった10ヶ月後に戦没してしまうと言う、短いじんせいだったのであり、そう言う意味では、「永遠の幼女」と言っても差し支えないのです』


「──差し支えあるよ! 何だよ、軍艦に対して、『永遠の幼女』って⁉」


『それだけでは、無いのです! 実は進水式が行われたのは、正確に申せば、2月29日なのです!』


「あ、それって……」


『ええ、何と清霜には、4年ごとの閏年にしか、進水記念日が来ないのです! これが人間や他の生き物なら、便宜上2月28日あたりを誕生日に当てるところですが、艦船である彼女にわざわざそんな特例措置がとられることは無く、他の軍艦が一年ごとに進水記念日を経て、順当に歳を重ねていっているのに対して、清霜だけは4年に一度だけしか歳をとらず、第二次世界大戦時の軍艦としては、文字通りに「永遠の末っ子」であり続けているのでございます!』


「うおっ、意外に理路整然としてやがる! それに確かに清霜は、旧日本海軍一等駆逐艦ゆうぐも型19番艦という、姉妹間の中ではまさしく『末っ子』であるからな」


『そういうこともあって、某艦隊ゲームにおいても、清霜だけは、他の秋雲型姉妹艦に比べて、ひときわロリっぽく描写されているわけなのです』


「むう、ロリであると言うことは、まあ、不承不承であるが、認めることもやぶさかでは無いが、それでそのことが、どう武蔵と関わってくるのだ?」


『ロリと言えば、「子供」でしょう?』


「うん? まあ、そうだな」


『子供と言えば、「夢見がち」でしょう?』


「うん? ……う〜ん、そう、かな?」




『つまり、清霜ときたら、あまりにも「お子様」であったために、戦艦に対して過度の憧憬を抱いていて、駆逐艦である自分だって、いつかは武蔵のような大戦艦になれるものと、信じ込んでいるのですよ』




「へあ? 駆逐艦が、戦艦に、なれるって……」


『──と言うのが、主に「艦○れ」二次創作界における、「お約束」なのです!』


「結局、二次創作ネタかよ⁉」




『それがそんなに、馬鹿にできないんですよ? 実は史実においても清霜は、レイテ沖海戦時のシブヤン海域において武蔵が撃沈された際に、最後まで随伴して生存者を救助しつつ、その沈没していく姿を見守り続けたのであって、これぞ戦歴が極端に短い清霜にとっては、最も印象的なトピックスとも言えて、彼女の「艦歴パーソナリティ」を引き継いだ軍艦擬人化美少女キャラが、武蔵の軍艦擬人化美少女キャラに対して、親近感や憧れを覚えたり、また逆に武蔵のほうも、当時の清霜(の乗組員)の行為に対する恩義を忘れずに、その軍艦擬人化美少女キャラに対して親近感を覚えるのも、当然のことと言えるのですよ』




 何と、清霜と武蔵との間に、そのような浅からぬえにしがあったとは⁉


『そして何よりも肝心の、「清霜の擬人化少女たちが多数合体した結果、なぜ『大きな駆逐艦の清霜』にならず、『大戦艦の武蔵』になったのか?」についてですが、それは実は、軍艦擬人化美少女キャラとしての清霜自身の、「熱望」ゆえなのです!』


「はあ? 軍艦擬人化美少女キャラとしての、熱望って……」


『軍艦が擬人化した場合、その「人格」を象るのは、当然大戦時の乗組員たちの「無念」や「悔恨」とは、思いませんか?』


「──っ」




『自分たちが乗るふねが、できたてほやほやの駆逐艦では無く、戦歴豊富な戦艦だったら、みすみす武蔵を沈めることは無かったという「想い」こそが、遙か未来の21世紀の日本において、「武蔵に憧れて、自らも大戦艦になるのを欲している、清霜を擬人化した少女」を生み出したと言っても、過言では無いのです。──そう、量産型人魚姫セイレーンたちが集合的無意識とのアクセスを経てへんした、軍艦擬人化キャラとしての清霜たちは、それぞれが現在の己自身である駆逐艦よりも、更に大幅に強く頑丈な、大戦艦になることを望んでいたのであって、その熱望こそが、全個体が合体した際に更なる集合的無意識とのアクセスを叶えて、今度は戦艦武蔵の「艦歴パーソナルデータ」をインストールすることによって、ショゴスで構成された己の巨体を、武蔵の擬人化キャラ(巨大化ヴァージョン)へと昇華させたのです。──なぜなら、そもそも人が集合的無意識とアクセスを果たして、己の望みを叶えるための最大の原動力こそが、その目標に対する「熱望」なのですから、それぞれが別の並行世界パラレルワールドの清霜(の乗組員)の「想い」を受け継いでいる彼女たちの集合体が、武蔵へとメタモルフォーゼできたのも、至極当然なことに過ぎないのですよ』




「……並行世界パラレルワールドの清霜たち、だと?」


『「あちらの世界」の物理学の根本的原理である量子論によれば、世界と言うものはその可能性の数だけ無限に存在し得るとされており、当然「駆逐艦清霜」も可能性の上では無限に存在し得て、たとえすでに本体は沈没していたとしても、その「艦歴パーソナルデータ」は、ありとあらゆる世界のありとあらゆる時代のありとあらゆる存在の「記憶と知識」が集まってくるとされる、「集合的無意識」にちゃんと存在しているのだから、こうして一つの世界において、文字通り何にでも変身できる暗黒生物である「ショゴス」を受け皿にすることによって、無数の軍艦擬人化美少女キャラとしての清霜を、一堂に会させることができるわけなのですよ』


「……その各個体が、武蔵に憧れていて、己自身も戦艦になりたいと欲していたから、合体して巨大化するとともに、その願いを叶えたと言うのか? つまり無限の可能性がありながらも、そのほとんどの清霜が、ほぼ同じような史実をたどり、同じような『想い』を抱くようになったと?」




『そもそもですね、ここで言う世界とは、軍艦擬人化美少女ゲーム自体はもとより、その二次創作作品すらも含まれているのですよ』




「……はい?」




『何せ軍艦そのものとして甦るのでは無く、加えて擬人化することになるのですからねえ、元々軍艦擬人化ゲームやその二次創作における、すでに擬人化を果たしている「清霜」ばかりが対象とされて、当然のように「武蔵への憧れ」や「大戦艦化への熱望」を有していても、少しもおかしくは無いのですよ』




 ──‼

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