第267話、【夏のホラー2019終了記念】わたくし、本当は怖い悪役令嬢ですの。

「──【夏のホラー2019】の終了を記念して、何か怖い話をしてくれって?」




「……そりゃあ、俺たちは現世でも前世でも戦争をやっているんだから、怖い目にも相当遭ってきたさ」




「うん? そういう直截的な『怖さ』では無くて、あくまでもホラー小説等におあつらえ向きな、『概念的』な怖さだと?」


「う〜ん、そうだなあ、確かに軍人──特に、飛行機乗りをやっていると、そういったとても信じられない『不思議な体験』というのも、けして少なくは無かったなあ」




「──あれはそう、イギリス空軍の夜間戦略爆撃機隊を迎撃するために、帝都ベルリンへと向かっていた、夜間飛行の途上でのことだった」




「当時Me262の稼働率がいまだ十分でなかったJV44おれたちは、その時点の最大の稼働機数である四機編成シュバルムで、高度1万メートル以上の高空を巡航飛行していたんだが、航行中ずっと何だかやけに後方が気になったんだ」


「もちろん大戦末期における、最新鋭の超高速ジェット機だったMe262は、巡航飛行といえども、各国の主力レシプロ戦闘機の最高速度を優に超える、時速750キロ以上の速さを誇るので、追随される恐れなぞ皆無のはずだったが、俺の長年の戦闘機乗りとしての『勘』が、そこには『何かがいる』ことを知らせていた」


「思い切ってこうべを巡らせてみると、何と確かに後方上空には、我が編隊に付かず離れずついてきている、一機の戦闘機が存在していたんだ」




「──しかしそれはけして、敵機ではなかった」




「その上驚いたことに、レシプロ機でありながら、我々に遅れずにぴったりとついてきているのだ」


「確かFw190Aは、たとえ全速力でも、時速700キロすら出せないはずなのだが……」




「そうなのである、追随しているのは、Me262のようなジェット機では無かったものの、間違いなく我がドイツ空軍所属のレシプロ戦闘機だったのだ」




「しかもその機体に記されている、所属部隊を表す番号やシンボルマークは、何と俺自身見覚えがあるものであった」


「あれは間違い無く、スペイン内戦に義勇軍として派遣されて以来ずっと、隊長であった俺の背後を任せてきた、誰よりも信頼できた副官の、東部戦線開戦時における機体だ」




「──そう、俺が戦闘機総監として地上任務となった後、副官から航空団司令へと昇進して、100機以上の撃墜数を記録した後で、不運にも機体のトラブルに見舞われて、ソビエト空軍機に撃墜されてしまった」




「そうすると、パイロットもろとも空中爆発したはずのあのFw190は、機体そのものが『幽霊』みたいなものであるわけか」


「けれども現在の俺は、恐怖心なぞ微塵も感じられず、むしろ安心感すら覚えるほどであった」


「それは、現在僚機を駆っている三名の部下たちも同じようで、何と彼らのほうは、Fw190の存在自体に気づいていないようであった」


「……もしかしたら、あのFw190が見えるのは、俺だけかも知れないな」




「そうか、おまえはずっと、あの頃みたいに、俺の乗機の後ろにいたのか」




「──死んでからも、俺のことを、見守ってくれていたのか」




「その時まるで、俺の心の声が聞こえたかのように、Fw190が機体を左右にゆっくりと振った」




「──俺とコンビを組んで 共に大空を羽ばたいていた、あの頃みたいに」




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「……それが、ガランド隊長にとっての、『本当にあった怖い話』ですか?」




「いやむしろ、私のほうこそ、まさに今この時、この上なき恐怖を感じていますよ」




「──何が怖いかといえば、我々の前世における部隊であるJV44の主な任務は、日中に襲撃してくるアメリカ戦略爆撃隊の迎撃であり、原則的には夜間戦闘には携わっていないはずなのに、さも事実であるかのように、隊長がベルリンの夜間防衛戦に参加しているように語られているところですよ!」




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 ──というわけで、オチもついたことだし、今回は【夏のホラー2019】終了記念の特別編ということで、毎度お馴染みのあたしメリーさんが、Me262の夜間戦闘における意外なる活躍ぶりについて、詳細に解説して差し上げようと思の。




 最初に最も重要な点について言及しておくけど、かなりの兵器マニア──場合によっては、『Me262マニア』を自認している方においても、誤解している人が少なくは無いんだけど、第二次世界大戦中のドイツ本土の主にベルリンを舞台にした夜間戦闘において、連合軍機を相手に奮闘したMe262は、皆さんがよくご存じの夜間戦闘専用に新開発された、レーダー装備の復座タイプのMe262B1a/U1、むしろ昼間戦闘専用機である、ごく普通のMe262A1aだったの。




 このように記すと驚く方も多いかと思うけど、単にジェット機というだけで無く、あらゆる面で最先端の技術を使って造り出されたMe262は、当然のごとく、夜間戦闘専用機をも含む他のどの軍用機よりも、優秀であったということなのよ。


 それは、Me262が主な使用分野である昼間戦闘だけではなく、夜間戦闘はもちろん、戦術爆撃や偵察任務にも重用されながら、それらのすべての分野において、あの大戦末期の絶望的な戦況の中で、信じられないほどの実績を上げたことが、何よりも証明しているの。


 ていうか、そのような『万能機』の代表機こそが、本来なら双発プロペラ機としては全世界が認めた最高傑作である、イギリス空軍の『モスキート』に他ならないはずだったんだけど、何とそのモスキートが得意とした、戦術爆撃や敵の本拠地への強行偵察や夜間戦闘等々のことごとくにおいて、モスキートを上回る性能を見せつけて、多数のモスキートを文字通りに『モスキートを叩き潰す』かのように撃墜していったのが、まさしくMe262なのであり、真の『万能機』と呼び得る奇跡の最先端ジェット機だったの!




 つまりMe262とは、誰もが認める超傑作機モスキートの『上位互換』的存在なのであり、言うなれば超超超傑作機というわけなの。




 このように、基本的な性能が高いからこそ、夜間戦闘においても、まさしくドイツ夜戦部隊にとっては目の上のたんこぶだった夜戦用のモスキートを、一方的に駆逐するという大活躍を果たしたわけなんだけど、このようにMe262A1aが、原則的に昼間戦闘機でありながら、実は夜間戦闘向きの機体でもあったという、意外なる事実を解明するための技術面や論理面についての解説も、詳細に述べていこうと思うの。




・昼間戦闘専用機だったので索敵用のレーダーを搭載していなかったものの、そもそも当時のレーダー技術ついてはイギリスのほうが格段に発達しており、下手に低性能のレーダーを装備していたところで『妨害ジャミング』されるだけなので、味方のサーチライトや高射砲の閃光に照らし出された敵機を目視によって捉えたほうが、結果的には確実だったの。


・元々モスキートが夜間戦闘においてドイツ軍に対して無双できていたのは、双発機最高レベルの高速性を誇っていたからなので、そのモスキートを更に時速100キロ以上も上回るMe262が圧勝できたのは、当然の結果に過ぎないの。


・こういったケースではよく揚げ足取りをするようにして言われる、「だけどMe262は双発機だから運動性が悪く、格闘戦に持ち込まれたら不利なのでは?」というツッコミに対しては、そもそも夜間戦闘においては、敵味方とも基本的に双発機か四発機しか使用されず、運動性に勝る単発機は(例外的に少数の)味方のドイツ機だけに限られ、Me262は安心して高速性のみで無双できるって次第なの。


・そして何よりも重要なのは、これまで述べてきたことのすべてが、本作の作者の持論でもあるところの、「実はMe262は夜間戦闘における『食物連鎖』の頂点に立っている」という珍説(?)に基づいていることなの。


・このいわゆる『独英夜間戦闘における食物連鎖の法則』とは、一体全体どういうことなのか簡単に説明すると、『食物連鎖最底辺』のイギリスの鈍足の重爆撃機を、『食物連鎖中級レベル』のドイツのレシプロ機が狩っているところを、爆撃機の護衛戦闘機である『食物連鎖上級レベル』のモスキートが狩ろうとしているところを、『食物連鎖最頂点』のMe262が狩っているわけで、あくまでも原則的に、Me262は終始『狩るほうの立場』にあって、敵に攻撃されることなぞほとんど無く、一方的に攻撃し続けられるので、『最終的な勝利者』となるのは当然なことに過ぎないなの。




 ──とまあ、こういった複合的な条件が重なり合った結果、Me262は第二次世界大戦末期において、昼間戦闘専用機でありながら、『最強の夜間戦闘機』とも呼ばれることになったわけなの。













 ……へ? ちゃんと索敵レーダーが装備されている、本来の夜間戦闘専用機のMe262B1a/U1のほうの実績は、どうだったのかって?


 ……残念ながら、これについてはあまりにも実戦投入が遅過ぎて、ほとんど撃墜実績を残してはいないの。


 実は、これまでこの機によるものと思われていた撃墜実績は、ほとんどすべてが昼間戦闘機のMe262A1aによるものというのが真実だから、どうぞお間違い無きように。

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