第265話、わたくし、Me262こそが、至高の戦闘機だと思いますの。(その4)

「……あら、あなたたち?」




 ご自分の実家のかつての所在地の、現在における惨憺たる有り様に、すっかり気落ちしてしまった、ヘルベーラ=イーレフェルト先輩。


 そんな彼女を、すぐさま慰めようと行動を起こしたのは、意外なことにも『あの子』たちであった。




「……え、ちょっと待って、何でこの子たち、いつの間にか、『犬耳』が生えているの⁉」


 何と言うことでしょう、我々魔導大陸特設空軍ジェット機部隊の専用機、He162の妖精的存在である、外見上は四、五歳ほどの『ザラマンダー幼女団』の五名全員が、まるで子犬のようなちっちゃな正三角形の耳と短い尻尾とを生やして、全身をこすりつけるようにして、ベラ先輩にまとわりついていたのでした。




「あれって、もしかして、『ポメラニアン』?」




 そうなのである、いつの間にかワンピースの色までライトブラウンと化していた、彼女たちの姿は、元々の金髪とも相俟って、ポメラニアン以外の何者にも見えなかったのだ。




 ──世界一可愛い人種である、ドイツの幼女と、


 ──世界一可愛い犬種である、ドイツの子犬との、合わせ技。




 その結果現れたのは、言うまでも無く、『世界一可愛い存在』であったのだッ!




 それが証拠に、自分も幼女のくせに『幼女スキー』なヨウコちゃんが、こっそりとスマホで、いずこかに連絡を取っていた。


(──あれ? そもそも『ヨウコ』ちゃんは、実は『きゅうきつね』の血を引いていたりするから、漢字表記では『妖弧』と書くという設定だったんだけど、最近では『ロリータ♡ラブ』という意味で、『幼好』と書いて『ヨウコ』と読ませても、別に構わないように思えてきたぞ?)


「……ヨウコちゃん、またハイ○ースを運転手さん込みでレンタルしようとしているのなら、今度こそ『憲兵隊おまわりさん』に通報こっちですするよ?」


「うぐっ⁉ い、嫌だなあ、アルテミス、もうKADOWAKAカドワカ市は消滅したんだから、そんなことするはずが無いじゃないかあ? ──つうか、それにしても、何でこういう時だけ日本陸軍形式の、『憲兵隊』の出番になるんだ⁉ これまで通りのドイツ形式だと、『野戦憲兵隊』あたりが順当なのでは?」


「野戦憲兵隊とか、そんなマニアックなのが、ミリオタ以外の一般の読者様に通用するか⁉ それにこういったパターンでは、『憲兵隊』を登場させるのがデフォでしょうが? もっと常識というものを、わきまえてよねえ」


「常識とか言って本当は、『艦○れ』二次創作漫画とかイラストとかの、影響のくせに」


「バシ○ス先生、バンザイ! あきつまる憲兵隊、サイコー! 『──キリキリ歩くであります、このロリコン戦艦が!』」


「──黙れ、本家本元のゲームをやったことの無い、二次専のくせに、このにわかエアプが⁉」


 そのようにわたくしたちが、いつものように馬鹿げたやりとりを行っていた、まさにそのなか




「──ちょ、ちょっと、どうしたの、みんな、くすぐったいじゃないの⁉」




 唐突に聞こえてくる、あられもない少女の嬌声。




『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』のメンバー五人揃って振り向けば、格納庫の入り口付近が、『可愛い×可愛い』の、可愛さ無限大のパラダイスワールドと化していた。


「「「「「うわあ♡♡♡♡♡」」」」」


 一見清楚で大人びているものの、幼い少女ならではの可憐さも満開な、ベラ先輩の全身の至る所へと、おでこをこすりつけるように密着して、甘え倒している、ほとんど完全に『ポメラニアン』と化している、『ザラマンダー幼女団』(犬耳ヴァージョン)の五人組。




「……そうか、あなたたち、私のことを、元気づけてくれようとしているのね?」




 いかにも感極まったかのように涙ぐみながら、五人の幼女をひしと両腕で抱きしめる、ベラ先輩。


「ごめんね、一時はあなたたちHe162を専用機にしていたというのに、こんな情けない航空団司令で。でもお陰で、やっと気づけたわ! たとえ故郷のポメラニア公国が無くなったって、そこに住んでいたドイツ人やポーランド人は、少なくともその子々孫々が、今もちゃんと生きているのよ! ──そう、ポメラニア公国人の血を引く、私たちが生きている限りは、その心の中にだけは、今は無きポメラニア公国も、ずっとずっと生き続けることができるんだわ!」




 そのように心からの想いを宣言するや、更に力強く『犬耳ポメラニアン幼女団』と抱き合う、ベラ先輩。




 そんな微笑ましい有り様を、わたくしたち『ワルキューレ隊』五人衆も、にこやかなる笑みをたたえながら、いつまでもいつまでも見守り続けていたのである。

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