第244話、わたくし、自衛隊は専守防衛だからこそ、理想的な軍隊だと思いますの。【中編】

ちょい悪令嬢「……え、『永遠に勝ち続けることのできる軍隊なぞ、絶対に存在しない』って、何それ? ちょっと意味がわからないんですけど」




メリーさん太「さっきも言ったように、攻め手側って、勝ち続けている間は調子ぶっこいているから、『俺様たちが負けることなぞあるものか! まさしく「無敵軍(厨二並み)」だぜ、ガハハハハ』と、まさしく自ら『負けフラグ』を、連発していくといった体たらくなの」




ちょい悪令嬢「あ、うん、自分で自分を『無敵軍』とか呼び始めたら、そりゃあ『負けフラグ』以外の何物でも無いよな」


メリーさん太「かつての日本軍とかドイツ軍とかが、大体そんな感じなの」


ちょい悪令嬢「……うわあ、アニメとかラノベとか見ていなかったのか、当時の日独の指導者たちは?」


メリーさん太「ラノベはともかくアニメは存在したけど、『フラグ』がどうとかについてはむしろ、戦後にテレビゲーム等が誕生してからの話だと思うの(マジレス)」


ちょい悪令嬢「でもその理論だと、どの国も最後まで『勝ち続けることができなく』なって、最終的に『勝利者が存在しなくなる』のでは?」


メリーさん太「……また、屁理屈を。よわい十歳で、『高二病』かよ? もちろんそれは、『勝ち方』や『負け方』というものに、左右されるわけなの」


ちょい悪令嬢「こ、高二病、って…………まあ、それはいったん置いておくとして、その『勝ち方』や『負け方』ってのは、どういう意味なのよ?」




「米英連合軍も、ソビエト軍も、緒戦において調子に乗ってどんどんと自分たちの領土に侵攻してくる、日独等枢軸国軍に対しては、『専守防衛』に徹しながら、敵の補給線が伸びきり息切れした途端、大攻勢に転じて、自分たちのほうは『自国内』という地の利を生かしつつ、『敵地内』という圧倒的な不利な状況にいる敵軍のほうは、どんどんと物資や武器弾薬が兵員が欠乏していく状況下において、まさしく『泣きっ面に蜂』そのままに、アメリカ陸軍航空隊が実行したように大規模な戦略爆撃によって、枢軸軍本国を絨毯爆撃して、軍需物資や生活物資の生産能力をそぎ落とし、戦争継続能力を奪い去ることで、もはやかつての自分たちがやったような『反攻の芽』をあらかじめ摘んでおいてから、消耗戦にもつれ込ませてじわじわといたぶるように、息の根を止めていくって寸法なの」




「……うわあ、えげつな〜。でもそういったことが可能だったのも、もしかしたらアメリカやソビエトは、まさしくあなたが言ったように、『永遠に勝ち続けることなんて、どんな軍隊にもできやしない』ことを、最初からわきまえていたからこそ、枢軸国に攻撃したいだけさせておいて、その間に着々と外堀を埋めていき、自分たちのほうは、『最後まで勝ち続ける』の、『最後には』態勢を整えておいたっていうわけね」


「そうそう、『絶対に勝つ』ことよりも『絶対に負けない』ことを目指すことこそが、現代物理学の中核をなす量子論に則っても、『真の勝利の秘訣』なの」


「へ? 量子論て……」




「それについては、後で詳しく述べるの。──話を戻すけど、実はこの件については、大戦後半においては一見一方的にやられ続けていたようにも見える、枢軸国側においても、一部例外的に成功した事例もあって、それこそがくだんの『イタリア戦線』なのであり、まさしくこの場合ってさっきの例とは逆に、連合軍側が連勝続きですっかりいい気になって、イタリア半島内陸部の奥深くまで到達した段階で、予想外に頑強な抵抗を喰らってしまい、もろくも『連勝神話』が崩れ去るという枢軸国側の二の舞を演じることで、士気が大いに低下するとともに、先ほども述べた補給線の問題もあって、武器弾薬や補充要員についても、すぐに必要な分だけ用立てすることができず、態勢をしっかりと立て直す前に、敵の追撃と撤退とを巧みに織り込んだ、一種のゲリラ的戦法に翻弄されることになってしまったの」




ちょい悪令嬢「……なるほど、つまりは連合軍側か枢軸国側かを問わず、むしろ戦場そのものが『敵地』か『本拠地』かによってこそ、同じ負けいくさであったとしても、大きく意味合いが違ってくるってことね?」


メリーさん太「そういうこと。イタリア戦線においては、負けたほうが地の利のある枢軸側だったからこそ、それほどダメージは無く、すぐさま態勢の立て直しがはかれたわけだし、たとえ重大な損害を被ったとしても、さっさと撤退をしたり、ゲリラ的戦法に切り替えればいいだけの話なの」


ちょい悪令嬢「撤退とかゲリラ戦とか、あの突撃第一主義の、ドイツ第三帝国がねえ……」


メリーさん太「まさにそれこそが、このイタリア戦線ならではの特殊性なの。──実は当時のこの戦線は、ドイツ軍人にとっては、『左遷職場』だったの」


ちょい悪令嬢「は?…………ちょっ、ちょっと、何よ? 戦争中に、左遷って! しかもあの、いろいろな意味で『ブラック組織きぎょう』として悪名高き、ナチスドイツが⁉」




メリーさん太「第二次世界大戦時のドイツにとっての主戦場は、文字通りメイン中のメインである、陸軍の主要部隊のほとんどを投入した、対ソビエトの『東部戦線』と、イギリスやアメリカやフランスを相手に、主に航空戦を展開した、『西部戦線』とが、二大主戦場であって、あの『砂漠の狐』で高名なエルヴィン=ロンメル将軍が活躍した『北アフリカ戦線』すらも、その投入兵力の過少さからして単なる『補助的戦線』に過ぎず、ほとんど戦火にまみれることのなかった『北欧戦線』やイタリア軍を傀儡にした『イタリア戦線』に至っては、軍や国家には忠実だが、政治的思想的支配勢力である『ナチス党』に対しては否定的である、反主流派の高級幹部や将校の、体のいい『左遷職場』と見なされていたの」




ちょい悪令嬢「……はあ〜、あんな大戦争をやっている、国家的非常事態だというのに、内輪で政争を行って足を引っ張り合うなんて、何て愚かな」


メリーさん太「これは別にドイツに限らず、第二次世界大戦中の参加国は、どこでも同じようなものだったの。──古今東西どころか、戦時か平時かを問わず、組織のあるところには必ず、『派閥争い』が、存在しているの」


ちょい悪令嬢「……うわあ、救いようが無いわねえ、人間って」


メリーさん太「でもそのお陰で、イタリア戦線に左遷された部隊は、自由に作戦行動を展開して、連合軍を大いに翻弄できたの」


ちょい悪令嬢「自由な作戦行動って?」


メリーさん太「ちょっとでもヤバそうになると、すぐにすたこらさっさと撤退して、後方に新しい戦線を築いて仕切り直す──ってやり方を、何度も何度も繰り返していたの」


ちょい悪令嬢「なのその、とてもドイツ軍とは思えない、『敗北主義』そのもののやる気の無さは⁉ 本国の総司令部は、何も言ってこなかったわけ?」


メリーさん太「何せ最初から、『左遷された部隊や指揮官』としてレッテルを貼られているから、『……ああ、またあいつらか、仕方ないな』、『ほっとけほっとけ、あいつらにはせいぜい僻地で時間を稼いでもらって、主戦場の俺たちのほうで頑張ろうぜ』とか、陰口をたたかれておしまいなの」


ちょい悪令嬢「もはや、処罰の対象にならないくらい、見放されているのかよ⁉」


メリーさん太「といっても、個人的にも部隊的にも、他と比べてけして劣っているわけでは無く、むしろ優秀で常識的思考ができたからこそ、ナチス党どころかヒトラー総統本人に対してまで、反抗的な態度をとったために、左遷された者もいるくらいだし、心ある幹部からは同情されて、何かと便宜を図ってもらってたの」


ちょい悪令嬢「……そういえば、イタリア方面空軍司令に任命されたギュンター=リュッツオウ大佐なんかも、空軍元帥であるヘルマン=ゲーリングに睨まれて飛ばされながらも、元戦闘機総監のアドルフ=ガランド中将から、彼自身が創設した最新鋭ジェット戦闘機部隊への参加要請を受ける形で、すぐさまドイツ本国に呼び戻されたんだっけ」


メリーさん太「あの末期戦の最中に、優秀な人材を左遷するなど、愚の骨頂なの」


ちょい悪令嬢「でも、イタリア戦線のドイツ軍自体も、結構善戦したわけでしょう?」


メリーさん太「基本的に常に時宜タイミングを見計らって、大損害を被る前に撤退を繰り返すという、文字通りの『騙し騙し』の手法だったけど、これぞ『専守防衛』ならではのメリットを、最大限に生かした好例とも言えるの」




ちょい悪令嬢「専守防衛ならではの、メリットですって?」




メリーさん太「本国のほうも別に大々的な戦果を期待しているわけでは無いから、わざわざ自分たちから打って出る必要は無く、基本的に防衛に徹することができるので、兵員はもちろん、武器弾薬等も無駄に消費することは無く、また基本的には枢軸国勢力圏なので物資の補給ラインも確保されており、他の戦線のような切羽詰まった状況には無く、もちろん彼我の圧倒的な戦力差から、前線を押し上げるどころか、どんどんと押し込まれるばかりだったけど、いよいよヤバくなったらあっさりと戦線をたたんで、新たに後方の『防戦にふさわしい場所』を見繕って、更に堅固なる陣地を築いてから、すでに戦線が伸びきって物資の補給もままならず、勢いの衰えてきた連合軍を、余裕を持って迎え撃つ──といったことを繰り返して、本来ならイタリア全土が占領されると、ヒトラー総統の生地でもある『オーストリア』という、れっきとしたドイツの喉元に刃を突き付けられて、致命的な状況になりかねなかったところを、十分に時間を稼ぐことによって、終戦ギリギリまで先延ばしにすることを為し得たという次第なの」

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