第156話、わたくし、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』になりましたの!(その4)

「──なっ、『悪役令嬢』ですって⁉ みんな、『魔法令嬢』に、変身よ! ──ドリーム・キャスト・イン!」




「「ドリーム・キャスト・イン‼」」




 目の前の白衣の女性──保険医のミルク先生が、メアちゃんのお母さんで、何と実は世界の敵『夢の悪役令嬢』であることを知らされた、私たち『ちょい悪シスターズ』のメアちゃん以外の三人は、すぐさまこの世で唯一『悪役令嬢』に対抗できる存在、『魔法令嬢』に変身ドリーム・キャスト・インしようとしたのだが…………。


「……あれ?」


 いつまでたっても、ドリーム・キャスト・インのしるしである、橙色の渦巻きが現れない⁉


「ど、どうしてなの? ちゃんと『魔法の呪文』を唱えたのに、変身しないなんて…………ッ!」


 愕然となるわたくしたち三人に対して、一人落ち着き払ったメアちゃんが、冷静に突っ込んでくる。


「……アルちゃんたちったら、私たちが変身できるのは、『夢の世界』の中だけでしょうが? ちゃんと魔法の呪文でも、『ドリーム』って言っているじゃないの?」


 ………………あ。


「くっ、仕方ない、みんな、アタックフォーメンション、『ハーレム』に変更よ!」


「「らじゃっ!」」


 わたくしの号令一下、息もぴったりに、ミルク先生の周囲を取り囲む、『ちょい悪シスターズ』の三人。


 ──その手の内に、サバイバルナイフ(かなりごっつい凶悪なやつ)と、メリケンサック(拳に嵌める連結された指輪状の凶器)と、ブラックジャック(革袋に砂やコインを詰めた凶器)とを、それぞれ握りしめて。


 ……ごめんね、読者のラノベ脳のお兄ちゃんたち。『ハーレム』と言っても、お兄ちゃんたちが期待していたのではなく、ニューヨークの治安がアレなやつのほうの『ハーレム』だったの♡


 わたくしたちの完璧なる文字通りの『攻撃態勢アタックフォーメンション』を目の当たりにして、いつもは泰然自若なミルク先生も、さすがに顔色を変えた。


「ちょっ、あなたたち、普段からそんなものを持ち歩いているわけ⁉ ──怖っ、『魔法令嬢』、怖っ! ──どうでもいいけど、そんなもの使ったら、普通に警察に通報するからね⁉」


「「「ええっ⁉」」」


 いくら魔法令嬢といえども、ポリスメン沙汰はごめんなので、ただちに武装を解くように、みんなに呼びかけた。


「……いや、待ってくれ。何かさっきから、アルテミスが完全に我々の『リーダー』みたいになっているんだけど、私の立場は?」


 ヨウコちゃんが何か言っているけど、完全に無視!


 細かい設定にこだわらず、勢いだけで状況ストーリーを進めるのも、時には必要なのだ。




「卑怯よ、『夢の悪役令嬢』! 今すぐ私たちを、いつものように夢の世界の中で、『魔法令嬢』に変身させなさい!」




「……いや、卑怯て。まあ、あなたたちが眠ってくれるのなら、その夢の中で、『魔法令嬢』に変身させることはできるけど──」


「「「けど?」」」


「その夢の世界には、私はいないわよ?」


「「「ど、どうして⁉」」」


「その夢の世界は、私の『夢魔サキュバス』としての力によって創られているわけだけど、ざっくりと言うと、私が見ている夢のようなものだから、私本人がいてはおかしいの」


「「「あー」」」

 至極もっともなミルク先生の言葉に、みんなと一緒に一瞬納得しかけた、わたくしであったが、


「あ、でも、そういった『夢魔に創られた悪夢の世界』って、夢魔本人も登場してくるのが、お約束なのでは?」


「……悪夢って。うん、まあ、悪夢と言われれば、そうだけど、そこに出てくる『私』は、いわゆるゲームにおける『アバター』キャラみたいなもので、私自身というわけでなく、しかも実はそれこそが私の『夢魔サキュバス』としての力の具現なのだから、その『私』を倒した途端に夢の世界も消滅して、そこにいたあなたたちの『魔法令嬢』としての魂は、二度と現実世界に戻って来れなくなって、そこで眠り続けているタチコ=キネンシス嬢と、同じ状態となってしまうわよ?」


「──だったらわたくしたち、ミルク先生のことを、退治できないではないですか⁉」


「何で、私を退治することを、前提にしているのよ⁉」


「……え、ええと、それはやはり、『悪役令嬢』が、悪の存在だからですよ。──『悪役』だけに」


「絶対この作者は、『悪役令嬢』というものを、誤解している!」


「だったら、それこそが、私たち『魔法令嬢』の、使命だから?」


「疑問符使うぐらいなら、その『使命』自体に、疑問を持とうよ⁉」


 なぜか、この世界において絶対の宿敵関係にあるはずの、『魔法令嬢』と『悪役令嬢』とが、平和極まりない舌戦において、どんどんとボルテージを上げていっていると、そんな馬鹿馬鹿しいやりとりを見るに見かねたのか、それともここら辺で少しはリーダーらしい振る舞いをしておく必要性を感じたのか、ヨウコちゃんが間に割って入ってきた。

「ちょっと待ってください、場合によっては私たちを、タチコと同じ状態にできると言うことは、今回の件はミルク先生の仕業とは言わないまでも、何らかの関わり合いがお有りなんですか?」

 うおっ、感情的に猪突猛進するばかりのわたくしとは違って、いかにも理に適った冷静なるご意見だこと。さすがはリーダー。


 果たして、その問いかけに対しては否定的ではあるものの、ある意味期待以上の情報をもたらしてくれる、巨乳保険医。




「……う〜ん、さっきから言っているように、『悪役令嬢』といえども、基本的に私はあなたたちの敵ではないつもりだし、そもそもキネンシスさんを眠らせても何の得もないから、今回の件は天に誓ってノータッチなんだけど、彼女がどうして昏睡してしまったかについては、心当たりがあるわよ?」




 な、何ですって⁉


「心当たりって、先生⁉」

「うん、確かに『責任の一端』は、私にもあるかもね。まさか『彼女』が、『夢の中の鏡』にも、出入り可能だったとは、思いもしなかったけどねえ」

「夢の中の鏡に、出入りができるって…………まさか、その『彼女』って⁉」


「そうよ、『悪役令嬢』よ」


「「「「‼」」」」




 そしてその『夢の悪役令嬢』は、実の娘のメアちゃんも含む、わたくしたち『ちょい悪シスターズ』の面々が、言葉を失い呆然としているのを尻目に、ついに決定的言葉を宣った。




「この世の中の『鏡』に類するものなら、窓ガラスにでも水面にでもスマホのモニターにでも、現れることができて、その鏡状の物体を直視している人物の魂を抜き取り、鏡の世界の中に捕らえてしまう、人呼んで『鏡の悪役令嬢』が、自分のタチコ=キネンシス嬢を、夢の世界の中の鏡を通じて魂を抜き取ることによって、昏睡させてしまった張本人なの」

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