第153話、わたくし、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』になりましたの!(その1)

「──食らえ! スイートスイート・ロックンロール!」




『ぎゃあああああああああああああああっ⁉』




 わたくしの必殺技をもろに食らって、爆発四散する、『ヴィジュアル系の悪役令嬢』。




「思い知ったかしら? ヴィジュアル系はロックでは無いことを!」(※あくまでも個人的意見です)


「──もう、アルちゃんたら! それは『ロリ巨乳は、ロリにあらず!』と同じくらい、禁句だよ!」


「二人とも、おしゃべりは後だ! アク=ア=キューブの回収を急げ!」


「うん、行こう、タチコちゃんに、ヨウコちゃん!」


 わたくしたちは魔法のステッキにまたがり、空中を滑るように移動して、さっきまで悪役令嬢が存在していた場所へと急行する。


「──あった、あれだ!」


 空中に浮かびながらゆっくりと回転している、わたくしたちの両手で包み込めるくらいの大きさの、紺碧の水晶体。


「これがさっきの悪役令嬢の、生命と魔導力の源、アク=ア=キューブ……ッ」


「早くしないと消滅してしまうぞ! 今日はアルテミスの番だったな?」


「──あ、うん、今すぐ、回収するね!」


 そう言って目を閉じ、両手をアク=ア=キューブのほうへと差し伸べると、ゆっくりとわたくしのほうへと浮遊してきて、胸元へと吸い込まれていく。


 ……温かい。


 ──それに、身体の奥から、力がみなぎってくるのが、感じられる。


 おかしいの、悪の権化である悪役令嬢の、アク=ア=キューブなのに、こんなにすんなり受け容れられるなんて。


 ……まあ、別に魔導力に違いなんか無いんだから、当然といえば当然なんだけどね。


「そっちも済んだみたいやな?」


「……はあ、今回も皆さんご無事みたいで、安心しましたわ」


 そう言って、やはり魔法のステッキにまたがって、こちらへと飛んでくる、きらびやかで可愛らしい衣装に身を包んだ、年の頃十歳ほどの二人の少女。

 ……まあ、片方の少女のステッキは、アサルトライフルにしか見えないけどね。

「あっ、ユーちゃんに、メアちゃん、悪役令嬢の使い魔たちの掃討、ご苦労様!」

「へへへ、今回のやつらは、結構しぶとうて、骨が折れたで」

「……それはいいが、ユー、ちょっと街の被害が、大きすぎるんじゃないのか?」

 苦言を呈するのは、うるさ型で苦労性のリーダー格の、ヨウコちゃん。

 確かに武闘派のユーちゃんは、必要以上にアサルトライフルを乱射するから、出動のたびに、むしろ悪役令嬢なんかよりも、甚大な被害をもたらしたりするのだ。

「別にかまへんやろ? どうせここは現実ではなく、『夢魔サキュバスの悪役令嬢』が夢の世界の中に構築した、仮想空間のようなものなんやし」

「……それは、そうだが」

「だったら、固いことは言いっこなしや、リーダーはん。あまり細かいことを気にしていたら、若いうちからハゲまっせー」

「む、バカを言うな、私はハゲたりはせん!」

「まあまあ、ヨウコちゃんもユーちゃんも、言い争いは、その辺にしないと、夢の世界が消えちゃって、私たちも現実世界に戻れなくなるよ……って、どうしたの、アルちゃん? そんな難しい顔なんかして」

「……あ、いや、ごめん、タチコちゃん。ちょっと、考え事をしていて」

「考え事って?」

「いえね、何でわたくしたちって、こうして、討伐対象である悪役令嬢の一人である、『夢魔サキュバスの悪役令嬢』の構築した仮想世界を、闘いの場にしているのかなあって、思ってさあ」


「「「──‼」」」


「……そ、そういえば、そうだな」

「うちらいつの間にか、『そんなもんやろ』って、当たり前のようにして、受け容れてしもうとったなあ」

「やはり『夢魔サキュバスの悪役令嬢』も、いつか討伐するのかしら?」

「でもそうすると、その後に新たな悪役令嬢が現れても、こうして夢の世界で討伐できなくなるんじゃないの?」




「「「う〜む……」」」




「み、みんな、ごめん! 変なこと言い出しちゃって! それについては、後で改めて考えよう? 早くしないと、本当にこの世界が、消滅してしまうよ⁉」




「「「あっ」」」




「さあ、みんな一緒に、声を合わせて!」




「「「プリーズプリーズ、ドリーム・キャスト・オフ!!!」」」




「………………………………あ、オレンジ色の、渦巻きが⁉」




 その瞬間、での、わたくしたちの存在が、瞬く間に消え去ったのであった。




   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑




「──お早うございます、お嬢様」


「ふわあ〜、お早う、メイちゃん」




 目覚めてみれば、そこはいつもと変わらず、わたくしの寝室のベッドの上であった。




 そして、お寝坊さんの『お嬢様』を揺り起こしてくれたのは、十三、四歳ほどのメイド姿をした、おかっぱ頭の可憐な少女。


 ──とはいえ、実は彼女は、見た目通りにメイドというわけではなく、何と『あちらの世界』の東洋の伝説の全知なる神獣、『開明獣』の化身であり、わたくしの『魔法令嬢』としての使い魔、『メイちゃん』なのであった。


「随分とお疲れのご様子ですが、昨夜の『悪役令嬢』は、そんなに手強かったわけで?」

「……ごめんね、わたくしが早く、『苦悩カード』を集めて、メイちゃんを、元の姿に戻してあげるからね」

「それ、別の作品の、設定です」

 あ、イケナイ、めんごめんご(棒)

「それよりも、お嬢様、早くお支度をして、朝食を召し上がらないと、学校に遅れてしまいすよ?」

「えっ、もうそんな時間なの? 遅刻遅刻!」

 そう言って、慌ててベッドを飛び降りれば、あからさまに大きくため息をつく、開明獣少女。

「……まったく、お嬢様ったら」


「お小言は、帰ってから聞くよ! 学業だって、魔法令嬢にとっては、大事なお仕事なんだからね!」


 ──そうなのである。


 一見ただの、いまだ年の頃十歳の、『ちょい悪令嬢』小学生のように見える、わたくし、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナであったが、




 実はこの世界に仇為す、悪の権化『悪役令嬢』たちを、人知れず退治している、『魔法令嬢、ちょい悪シスターズ』の一員の、『アルちゃん』であったのだ!




 そんな『一人ナレーション』を胸中で繰り広げながら、大慌てで食堂へと走っていく、自称『魔法令嬢、アルちゃん』。


 だから、気がつかなかったのである。




 ──メイドの姿をしている、開明獣の化身の少女が、わたくしのことを、真冬の氷雪のような冷たい視線で見つめていたことを。

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