第131話、わたくし、メイド姿であれば、幼女でも十分イケると思いますの。

「アイカお嬢様、お茶が入りました」


「アイカお嬢様、クッキーのおかわりはいかがですか?」


「アイカお嬢様、お砂糖は何個お入れしますか?」


「アイカお嬢様、ほっぺに、クッキーのかけらが(ペロリ)♡」


「アイカお嬢様、お疲れではございませんか?」


「アイカお嬢様、お肩をお揉みいたしましょうか?」


「アイカお嬢様、お腕をお揉みいたしましょうか?」


「アイカお嬢様、おみ脚をお揉みいたしましょうか?」


「アイカお嬢様、お腰をお揉みいたしましょうか?」




「「「アイカお嬢様、お胸をお揉みいたしましょうか?」」」




「──ちょっと、待って待って待って待って待って待って待って!!!」




 どさくさに紛れて、あからさまに『セクハラ』にもつれ込もうとしていた、不届き極まるメイドさんに対して、堪らずに「待った」をかける。




 ──そう、メイドさん『たち』、なのであった。




 なぜかヴァレンタインデーである今日この日において、ホワンロン空軍最新鋭ジェット戦闘機隊大隊長にして、神託の勇者でもある、私ことアイカ=エロイーズ男爵令嬢を、『御主人様』と呼ぶのにふさわしい、最高の『恋の奴隷』(?)を決定するために突然始まった、御年七歳の魔王様と、見かけ四、五歳ほどの私の愛機Ho229の化身『マニア』の幼女『エイちゃん』との勝負は、魔王様による「ご奉仕と言えば、メイドに決まっています!」という謎な理由によって、両名がメイド衣装に身を包んで、どちらが『御主人様』である私を満足させることができるかで決することとなったのだ。


 ……そう、この段階ですでに、頭が痛くなる状況であると言うのに、メイド服に着替えたのは、この二人だけではなくて、




 何とジェット戦闘機部隊員宿舎内にたまたまいた、ガランド中将を始めとする超エリート部隊第44中隊のメンバーたちと、その愛機Me262の『アニマ』である銀髪銀目の美女たちまでもが、なぜかメイドコスを着込んで、勝負に参戦してきたのであった。




「──いやいやいやいや、何で中将たちまで、勝負に参加しているの⁉」


 至極当然のこととして、異装の美女や美少女や美幼女からなる、数十名にも及ぶ一大集団に対して、突っ込んではみるものの、


「大隊長ってば、水臭い!」

「私たちだって、たまには着飾っても、いいではありませんか?」

「年がら年中、色気のまったく無い、軍服ばかりなんですしね」

「つうか、私たち第44中隊は、むしろジャージばっかりだよな」

「私たちも、こう見えても、年頃の女の子なんですよう?」

「当然のごとく、可愛らしい服を着てみたい時だって、ありまさあな」

「それがメイド服だったら、なおさらですよ!」

「そのためだったら、大隊長に尽くすことぐらい、朝飯前ってなもんです」

「元々軍隊においては、部下が上官に『ご奉仕』するのは、当然のことですしね!」

「身も心もな♡(意味深)」

「昼も夜もな♡(意味深)」

「大隊長だって、私たちのような綺麗どころが、メイド服を着て侍ったほうが、やはり嬉しいでしょう?」

「体育会系とはいえ、見た目は一応一定水準をクリアしていると自負する、我々第44中隊の隊員を始めとして」

「文句なしの『大人の美人』系の、ガランド中隊長に」

「更に今回は、あたかも精霊かなんかのような、銀髪銀目の神秘的美女集団、我が中隊の専用機Me262の化身たる、『アニマ』たちもおりまっせ、旦那さん!」

「さあ、よりどりみどりですぜ!」

「どの子がお好みでっか?」

「──どうです、この大人の色気」

「いくら人並み外れた可憐さを誇っていたって、どこぞの幼女たちには出せないでしょう?」

「むしろ、このイベント(?)に花を添えている、我々を褒めたって、罰は当たりませんわ」

「幼女メイドなんて、結局『一発芸』のためのネタのようなものですしね」

「それこそ、『おままごと』でもあるまいしw」

「『ゲンダイニッポン』で言えば、『芸者遊び』のセイヨウ版である、『メイド遊び』(?)には、ちと荷が重すぎるってもんでさあ」

「ここは私たちお姉さんに任せて、お子様は早くおうちに帰って、ママのミルクでも飲んでなさいな♡」




「「「わははははははははははは!」」」




 ジェット機部隊専用隊舎内にどっと鳴り響く、第44中隊の隊員たちの笑声。

 それを目の当たりにして、まさしく『幼女メイド』そのままの格好をなされている、いつもはクール極まる、当代の魔王様であるクララちゃんと、私の愛機Ho229の化身たる『アニマ』のエイちゃんのお二人が、見るからに怒りをあらわにしておられた…………ひいいいいっ!

「……お姉様、これは魔王である私に対する侮辱であると解釈して、血祭りに上げてもよろしいでしょうか?」

「お気持ちはわかりますが、ここは一つ、御自重のほど、よろしくお願いいたします! ──あ、エイちゃん、何を意味ありげに、右手を中隊員たちのほうにかざそうとしているの? やめなさい! そこから殺人光線でも、出るんじゃないでしょうね⁉」

 この子ってば、Ho229の標準武装の、B29すらも一発で撃墜できる、大口径30ミリ機関砲くらいなら、余裕で発射できそうだからな!




「──みんな、口を慎みな! これはあくまでも、魔王陛下とエイちゃんとの、エロイーズ大隊長の『恋の奴隷』の座をかけた、『ご奉仕』勝負なんだからね! 邪魔をするようだったら、隊舎からたたき出すよ!」




 唐突にその場に響き渡る、この空軍基地の最高権力者の怒鳴り声。

 思わず全員揃って、振り返ってみれば──




「「「で、でけえ⁉」」」




 そうなのです、何と、このファンタジーワールドきってのお色気モンスターサキュバスであり、人並みならぬ巨乳がトレードマークのホワンロン空軍次官たる、エアハルト=ミルク元帥までもが、メイドコスに身を包んで登場して来られて、特にそのワールドカップ級(©白鳥士郎先生)の胸元が、とんでもないことになっているのでした。


「見ろよ、メイド服の胸元が、パッツンパッツンで、今にもはじけ飛びそうだぜ」

「さすがは、『ミルク』次官」

「……何かあの人だけ、『メイド喫茶』あたりとはまた違った、『特殊な嗜好のお店』の売れっ子みたいだよな」

「さしずめ店名は、『ミルクのお時間よ♡』あたりか」

「一体、どんなステキなサービスが?」

「空軍次官なんかやっているよりも、よっぽど金が取れるんじゃないのか?」


 好き勝手言っている中隊員たちだが、むろん異論は無かった。

「──いや何で、元帥まで、メイド服なんか着ておられるのですか⁉」

「そりゃあ、私だってサキュバスなんだから、『ご奉仕』なら、お手の物よ♡ ──さあ、エロイーズ少佐、まずはミルクを絞りましょうか? それとも『サキュバスですの〜と』をしたためたほうがいい? 誰か『としたい相手』でもいるかしら?」

「女の私を相手に、ミルクを絞ろうも何も、無いでしょうが⁉」

 それから『サキュバスですの〜と』には、そんな効用があったわけ? 全世界のすべての女性にとっての、垂涎の的じゃん⁉ さしずめ、『恋のですの〜と』ってところ?

「しかしそれにしても、魔王やサキュバスや少女空軍士官や軍用機の擬人化キャラたちが全員、メイドコスをまとって、少女勇者にご奉仕するなんて、何か普通のラノベみたいね♡」

「──こんな普通のラノベが、あって堪るか!」


 もはや完全に支離滅裂な、文字通りの馬鹿騒ぎを繰り広げていた、

 ──まさにそんな、なかであった。




「──報告します! 敵襲です! 所属不明の軍用機が、一個中隊ほど、王都に迫りつつあるとのことです!」




「「「──‼」」」


 唐突に私の私室に飛び込んできた通信兵による、驚くべき一報を聞くやいなや、途端に全員が、『軍人の顔』となった。


「中隊員は、全機、スクランブル準備! 各自搭乗急げ!」


「「「──JAヤー!」」」


 ガランド中隊長の命令一下、愛機の化身である『アニマ』たちを連れて、隊舎を飛び出していく、第44中隊員たち。


「……エロイーズ大隊長」

「はっ、次官殿! 私も出ます!」

「その子も、連れて行きなさい」

「え? エイちゃんを、ですか?」

「その子こそは、Ho229の『アニマ』なんだから、当然でしょう?」

 ……あ、そういえば、そうだったっけ。




「それにその子アニマたちの真価は、空戦においてこそ、存分に発揮できるんですからね」




「え? それって、どういう……」

 振り向けば、この世のすべてを見極めることができるという、夢魔サキュバスの上官の、意味深に笑み歪んだ瞳が見つめていた。

「まあ、論より証拠よ、まずは実際に飛んでみなさいって」

「あ、は、はい! 仰せのお通りに!」

 作戦行動が始まれば、軍においては上下関係は絶対なのであり、無駄口なぞは許されやしなかった。

 すぐさま幼女『アニマ』を引き連れて、ジェット機の発進場へと向かおうとしたところ、

「──待ってください!」

 私の軍服の袖口を握りしめておしとどめる、か細き指先。

「……クララちゃん」

「ご武運をお祈りいたしております、絶対に無事に戻ってきてくださいね!」

「──っ。うん! もちろんさ!」

 あえて明るい笑顔で約束するや、一気に駆け出していく。

 ……それにしても、魔王陛下が、勇者の無事を、本気で祈るなんてね。

 もちろん空気を読んで、実際に口に出したりはしないけれど。

 そんなどうでもいいことを思い巡らせながらも、下手したら実戦に及ぶかも知れない今後の事態に備えて、徐々に気を引き締めていく少女少佐。


 だから、気づかなかったのである。




 自分の後をピッタリくっついて走っていた、愛機の『アニマ』の幼女の瞳が、いつしか人にはあらざる縦虹彩の黄金きん色へと変わっていたことを。




 ──そう。『の巫女姫』である、アルテミス=ツクヨミ=セレルーナ嬢、そのままに。

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