第73話、わたくし、聖なる夜に、(都市)伝説となりますの。【クリスマス特別編】

「──アルお嬢様ー、朝ですよう、いつまで寝ているんですかあ、いくら学院が冬休みに入ったからって、毎日夜を徹してゲームばかりしては駄目だって、何度も言っているでしょう?」


 もはや毎朝の恒例行事のようにして、ぶつくさうるさく小言を言いながら、ノックとともにわたくしこと、ホワンロン王国筆頭公爵家令嬢アルテミス=ツクヨミ=セレルーナの寝室へと入ってくる、漆黒のワンピースと純白のエプロンドレスとヘッドドレスとに、小柄で華奢な肢体を包み込んだ、おかっぱ頭の可憐な少女──わたくしの専属メイド、メイ=アカシャ=ドーマンであったが…………。


「──なっ⁉」


 私の姿を一目見るなり、言葉を完全に失って、棒立ちとなってしまった。

 それも、当然であろう。

 何せ私たちは、上級貴族のお嬢様としては、余りに奇抜なファッションをしていたのだから。

「お、お嬢様、それってひょっとして、ミニスカサンタコスではありませんか⁉」

「ふふん、似合うでしょう? クリスマスイブである今夜に合わせて用意したのですわ♡」

 そうですの。基本的に赤地に白い縁取りの付いたミニスカワンピ風のコートと、これまた同配色かつ同生地の三角帽を身につけた、私たちの現在の有り様は、「ミニスカサンタ♡ヤッフー」と大声で叫ぶ以外には、言いようがなかったのです。

 ……まあ、本当に叫ぶような人なんか、いるはずはございませんけどね、念のため。




「──ミニスカサンタ、ヤッフー♡♡♡」




「きゃっ⁉」

 いかにも『お笑い』のお約束を踏襲するように、前もって指定された『NGワード』を大声で叫びながら飛びかかってきて、わたくしの小柄で華奢な身体を力の限り抱きしめる暴走メイド少女。




「何で専属メイドに了承を取らずに、勝手にコーディネイトしてしまうんですかとか、本当はお小言を述べなければならないところでしょうが、この際そんなことどうでもいい! おいおい何だよ、クリスマスだからって、まさかお嬢様がミニスカサンタコスをなされるとは思いも寄りませんでしたよ⁉ うわっ、うわっ、うわっ、ただでさえ天使か妖精かってくらいに神秘的な、月の雫のごとき銀白色の髪の毛と満月そのままの黄金きん色の瞳が、赤いサンタコスに映えること映えること♡ うおおおおおっ、も、もちろん、最大の見所は、ミニスカであるところであります! いかにもエロティックな短いスカートの裾から、いまだ御年10歳ほどの未完成のなまちろいほっそりとしたおみ足が伸びているところなぞ、大人の女性のセクシーなフトモモよりも、なんか『イケナイ感』爆発で、もう辛抱たまらんのじゃー!!!」




「──おまえは、どこかの突然中断された本編の、アラサーOLか⁉ ちょっ、メイ、落ち着いて! あなた今、いくら専属メイドといえども、けして触っていけないところを触っているから! すぐにやめないと、JSの必需品である防犯ベルを鳴らして、『事案』にしますからね⁉」




「ノーノー! Noタッチ! わたくしは常に、『Yesロ○ータ! Noタッチ!』の精神ですわ!」




 私の恫喝を聞くなり、パッと身を離し後退する、駄目イド少女。

 ──おまえは、どこかの、18禁雑誌かよ⁉

「……いや、そもそも、まずわたくしにむしゃぶりつく前に、『何で剣と魔法のファンタジーワールドに、ミニスカサンタコスが⁉』とか、疑問を持つべきではないのですか?」

「はっはっはっ、何を今更。これだけ『ゲンダイニッポン』から『転生者』が来ておいて、あちらの文化が伝播されずにいるはずが無いではありませんか?」

「だからといって、専属メイドが、自分の主である公爵令嬢に抱きつくなんて、そんな無礼が赦されるとでも⁉ しかも人前なのですよ!」

「へ? 人前って……」

 そこで初めて気づいたようにして、応接セットのわたくしの向かいのソファに座っていた少女──否、年の頃下手したら初等部就学以前にも見える、正真正銘の『幼女』へと振り向くメイ嬢。

「うおっ⁉」

 またしても奇声を上げ、目を丸くし、大仰にのけぞる、専属メイド。

 無理も無かった。

 そこに存在していた、同じくミニスカサンタコスをまとった幼女はと言うと──

「ぬううううっ、一応少女の範疇に入るアル様に比べ、もはや完全に『大人の色香』なぞまったく見当たらないが、むしろだからこそ! 純真無垢な! うかつには触れることのできない! まさしく『神の造形物』とでも言える! 『禁断のエロス』とも呼ぶべきものが! そこはかとなくかもし出されるわけなのですよ! ……ああ、ちっちゃなちっちゃな全身を覆い尽くすかのような、長いブロンドのウエーブヘアに、小ぶりながらも秀麗なかんばせの中で煌めいている、青空のような碧眼だなんて、まさしく『ゲンダイニッポン』で言うところの、熟練の匠の手によって造り出された、『セイヨウ人形』そのものではないかっ!!!」

 ……だから、誰だよ、おまえは⁉

 だが、その気持ちも、よくわかる。

 わたくしとともに、部屋の中にいた、幼女。

 それは、大陸一の『巫女姫』とも呼ばれるわたくしにも負けず劣らず、掛け値無しの『神秘的な美』というものを体現していたのだ。

 ──ただし、その評価を、本人が気に入るかどうかは、また別の話であるが。




「…………じゃない」




「は? 何かおっしゃいましたか?」

 そこで初めてぼそりとつぶやいた正体不明の幼女に、怪訝な表情で問い返すメイ。

 そして今度こそ、はっきりと言葉にする、もう一人の幼女サンタ。




「……あたしは、『人形』なんかじゃない。れっきとした人間なの!」




「──っ」

 その思い詰めた昏い表情に、何らかの筆舌に尽くしがたい凄惨なる過去が潜んでいたことを見て取ったメイド少女は、自分の言葉が目の前のサンタ幼女のことを傷つけてしまったことを痛感する。

「……あ、申し訳ございません、けして、そんなつもりじゃ──」

 慌てふためくメイ、更にうなだれる幼女。

 そんな出来損ないの『茶番劇』を見せつけられたわたくしは、鼻で笑いながらおもむろに口を開いた。




「──何を落ち込んだフリをしているのです、あなたが人形なのは言うまでもないことではないですか?」




「お、お嬢様⁉」

 いかにも「信じられない」といった面持ちで、こちらを見やる専属メイド。

「メイ、そんなに不思議がる必要はないでしょう? いわゆる『貴族の嗜み』といったやつですわ」

「……貴族の嗜み、ですか?」

「ええ、どうです? この子もわたくし同様、ミニスカサンタコスが、お似合いとは思いません?」

「それは、確かに……」

 質問の意図をはかりかねていながらも、一応は頷き返すメイを見て取って、サンタコス幼女を強引に抱き寄せながら、更に嘯き続ける。


「つまりわたくしはお父様に、クリスマスプレゼントとして、お願いしたのですよ、今年のクリスマスは、私自身サンタコスをして過ごしますので、同じ格好をした女の子を『アクセサリー』として連れ回したいから、聖レーン転生教団の上級の術者にご依頼して、『ゲンダイニッポン』から適当な人間をって。──そう、この子は私にとっては単なる人形であり、アクセサリーでしかないの♡」


「──‼」

 わたくしの悪役令嬢ならではの、人を人とも思わない高慢極まる言葉に、今度こそ完全に絶句してしまうメイド少女。

 ……うふふ、相変わらず、素直な子。こうも予想通りの反応をしてくれたら、嬉しくなっちゃう。

 ──では、ちょっとばかし惜しいけど、そろそろ『種明かし』と参りますか。

「……じゃあ、あなた、メイにちゃんと、自己紹介しなさい」

 私の命令を聞くや、こくりと頷き、メイド少女のほうへと向き直る、サンタ幼女。




「──初めまして、。今、魔法と科学とのハイブリッド異世界ワールドにいるの」




「………………………………………………はい?」

 完全に、虚を突かれた顔つき。

 ──しかしそれは、たった一瞬に過ぎなかった。




「はあああああああああああああああああ⁉」




 どこかの三文ミステリィ小説でもあるまいし、部屋中に響き渡る、家政婦メイドさんの絶叫。

 そして彼女はわたくしのほうへと向き直り、その射抜くような視線でロックオンしながら、身を乗り出すようにしてまくし立てる。

「クリスマスプレゼントとかアクセサリーって、その子、かの『ゲンダイニッポン』の都市伝説で有名な、『メリーさん』じゃないですか⁉ そもそも最初から『人形』じゃん⁉ ──ああ、もうっ、ツッコミどころが多すぎて、何をどうツッコめばいいのか、わかりやしない! 大体何でメリーさんが、この世界──彼女にとっての『異世界』なんかにいるんですか⁉」

「あら、最近ではメリーさんは、異世界とかヨハネスブルグに行くのが、トレンドですのよ?」

「一体どこのトレンドですか、それって⁉」

 ……主に、『ゲンダイニッポン』の、Web小説とか?

「よりによって、何で今日のこの日に、都市伝説的女の子が、密かに集まっているんですか? まさかクリスマスを、別のフォークロア的イベントにしようとか企んでるんじゃないでしょうね⁉」

「──いやいや、ちょっと待って! 何でわたくしまで、都市伝説の範疇くくりに入っていますの⁉」

「え? そりゃあ、『悪役令嬢』なんて、常識的に考えて、『都市伝説』的存在でしかないからでしょうが? 『ゲンダイニッポン』の大昔の女の子向け漫画や最近の乙女ゲー以外で、上下関係が強固に定められている貴族社会の中で、上位の者が下位の者に執拗に嫌がらせをしたり、それが原因で上位者が一族郎党根こそぎ粛正されたりするわけがないではありませんか」

「──いきなり全否定された⁉ しかももはやわたくし個人だけではなく、『ゲンダイニッポン』のWeb小説における、『悪役令嬢』系作品丸ごと全部が!」

「まあまあ、少しは落ち着いて、話を聞くの。──可愛い、メイドさん」

「まっ、可愛いって、ぽっ♡」

 わたくしたち主従の醜き言い合いを見かねたメリーさんが、メイをなだめてくれるが、なぜか顔を真っ赤に染め上げて、身体をくねくねとくねらせる、チョロすぎメイド。

「あたしたちはあくまでも、共通の知り合いがここに来るのを待っているだけなの。彼女が来たらすぐに出発するから、それまでは居させて欲しいの」

「……お嬢様のお客様であらせられるのなら、私ごときは口出しいたしませんが、の、お知り合いですか?」

「そうなの、あなたもお察しの通り、その子『都市伝説の女』なの」

なんかもうすでに、わたくしが都市伝説の一角を占めているような言い方は、慎んでくださりませんこと⁉」

「(無視)その子にとっては今日こそが、一年で最も忙しい日だから、朝からきっとてんてこ舞いしていると思うの。そのため少々約束の刻限に遅れているみたいだけど、さすがにもうすぐ来ると思うの」

「いえ、別にお嬢様のお客様がお嬢様のお部屋でごゆっくりなされるのは、全然構いませんが、今日が一年で最も忙しい日って、まるでサンタさんみたいですね、その方って」

「……惜しいの」

「はい?」




「その子の名は、『スネグーラチカ』。の世界のロシアにおいて、サンタクロースに当たる『ジェド=マロース』の孫娘なの」




「──ほんとに、サンタクロースの関係者なのかよ⁉ なに、今日は都市伝説的には、集会を行わなければならない『習わし』でもあるわけ⁉」




「乱れている乱れている、言葉遣いが、完全に乱れてますわ、メイってば! それから、何でもかんでも『都市伝説』扱いするのはやめましょうね? 悪役令嬢はともかく、サンタクロースを『都市伝説』扱いするのは、いろいろとマズすぎるでしょうが⁉ きっとあちらの世界の北欧あたりの国から、厳重なる抗議が来ると思いますわ!」

「……いくら権利意識にうるさい北欧諸国であろうとも、異世界にまでクレームをつけるわけがないでしょうが? ネズミーランドでもあるまいし」

「ネズミーランドって、異世界まで抗議をしてくるんだ⁉ …………いや、この話題を掘り下げるのはやめておこう。いろいろと危険だ」

「だって、サンタクロースときたら、どんな厳戒態勢の家屋敷であろうと王城であろうと、必ず侵入してみせるし、たった一日だけで、世界中の子供たち一人一人にプレゼントを渡しているし、そして何よりも、煙突を使って貴族のお屋敷等にまんまと入り込んでいるしで────きゃっ⁉」

 ──まさにその時、文字通り『噂をすれば影』そのままに、部屋の中に設置されている暖炉のほうから、何か大きなものが落下してきたかのような、激しい衝撃音が聞こえてきた。

 ……アレってもちろん、煙突に繋がっているわけでして、つまりはようやく『待ち人』が、到着なされたようのであった。


「お久しぶりね、『メリーさん』に『悪役令嬢』さん! ──悪い悪い、すっかり待たせてしまって。この子を捕まえるのに、随分手こずってさあ」


 そのようにいかにも気安い口調で話しかけながら、暖炉の中から大きな袋を背負った、全身赤ずくめの少女が、見事に煤だらけの姿で這い出してくる。

「はあ? まさか、聖レーン転生教団の教皇様⁉」

 確かにわたくしたち同様にミニスカサンタコスに包み込まれた、いまだ御年七歳ほどの小柄で華奢な肢体も、初雪のごとく純白の長い髪の毛に縁取られた端整な小顔の中で煌めいている、鮮血そのものの深紅の瞳も、聖レーン転生教団現教皇たる、アグネス=チャネラー=サングリアそっくりそのままであったのだ。

「あら、違うわよ。──だって、教皇聖下は、こっちだもん!」

 そう言うや、背負っていた白い大きな袋を、開け広げてみたところ……。

「あれ? 教皇聖下が、お二人も…………?」

 そう、袋の中から出て来たのは、わたくしたち同様、サンタさんのコスプレをした、今度こそ間違いなしの、聖レーン転生教団における最高権力者であったのだ。

「──おまえってやつは、むちゃくちゃなことばかりしおって、後で聖戦が発動されても知らんぞ⁉」

「あれ? あなたにミニスカサンタコスをさせると申し上げた途端、枢機卿の皆様方におかれては、すっかり協力的になられたようなのですが?」

「…………あの、おっさんどもが! 後で覚えていろよ!」

 激しく言い合い続ける二人の少女ではあったが、サンタコスに包み込まれた華奢で小柄な肢体も、初雪のような純白の髪の毛も、端麗な小顔の中で煌めいている深紅の瞳も、まさしくそっくりそのままで、メイが取り違えるのも、無理はなかった。


「──では、そろそろ参りしょうか」


 頃合いよしと言い放った、わたくしの鶴の一言に、すぐさま表情を改め、その場に立ち上がる、悪役令嬢にメリーさんにサンタさんの孫娘に教皇様といった、都市伝説系ロリ少女たち。

 その雄姿をまざまざと見せつけられて、おずおずと問いかけてくるのは、我が専属メイドさん。

「このような文字通り伝説的お嬢様方を引き連れながら、一体どちらに向かわれるおつもりなのですか?」

 それに対してわたくしのほうはあっさりと、


 ──本日最大の爆弾発言を、一切躊躇なくぶちかましたのであった。


「そりゃあ決まっているでしょう、『魔王城』ですわ♡」


   ☀     ◑     ☀     ◑     ☀     ◑


「──可愛いーい!」


「確かに皆様、大変よく似ておられますなあ」


「……まさか、魔王陛下と教皇聖下とサンタさんの孫娘殿が、あれほど瓜二つなのは、実は一卵性の三つ子だったとはねえ」


「しかも、こうして全員眠りについておられると、『肩書き』なぞ何の意味も無くなり、まさに見た目通りにただ、純真無垢な幼子が三人ばかり抱き合っているという、微笑ましさしか感じられませんなあ♡」


 口々に忌憚のない感想を述べていく、魔王城の最高幹部の皆様。


 ──そうなのである。ここは巨大な魔王城の最上階に設けられた、現魔王陛下の寝室であり、まさに今、10人の大人の男が余裕で横たわることのできるキングサイズのベッドの上では、純白の髪の毛といい、人形そのままの端整な小顔といい、そっくりそのままの幼女が三人、お互いに抱き合い密着したまま、朗らかな笑みをたたえながら、眠りについていたのだ。


「……つまり、覚醒したばかりの勇者に一方的に叩きのめされて、すっかり魔王としての自信を失って、魔王城の自室──つまりはこの部屋にひきこもってしまった、魔王陛下を何とか元気づけようと、サンタさんの孫娘さん──スネグーラチカさんが音頭を取って、『姉妹三人で旧交を温めましょう』ということになったわけなのですね?」


 主であるわたくしのことを心配して、結局魔王城までついてきた専属メイド嬢であるが、その洞察力の素晴らしさは、いつも通りであった。


「まあ、大方その通りですわ」

「だったら、お嬢様やメリーさんの役割は、一体何だったのです? あまり役に立たれているとは思われないんですけど」

「……これまた相変わらず、歯に衣着せぬ辛辣なおっしゃりようで。──まあ、わたくしに関して申せば、勇者の件については、我が王国で起こったことであり、将来の宗教的指導者たる巫女姫候補者としては、何らかの罪滅ぼしをしないわけにはいかず、こうして魔王様を慰めようとなされているスネグーラチカ様の協力を買って出たという次第であります。また同行していた『メリーさん』のほうは、『都市伝説仲間(?)だから、是非にも協力をさせていただきたい』と、自ら進んで関与して行かれたようですが、その他にも『ボディガード』としての役割も秘められていたのですよ」

「はあ? 幼女に幼女を守らせるわけなのですか?」

「『メリーさん』の絶対に相手の後ろを取ることのできる能力は、闘い──特に殺し合いの場においては、非常に優位なチート能力たり得るんですが、都市伝説的には、別に物理的に刃物等で切り刻む必要なぞはなく、ある意味相手を必ず死に追い込むことを可能とする、いわゆる『即死チート』のようなもので、某Web小説(書籍化済み)をお読みになればおわかりの通り、剣と魔法のファンタジー世界においては、絶対的有利な能力と申せましょう」


「──その通りなの、メリーさんに後ろを取られてしまったならば、もはやあきらめるべきなの」


 そこで満を持して声を上げるのは、まさにその都市伝説の代表格的存在、メリーさんご自身であった。

 しかしそこは、可憐なる外見にそぐわぬ『したたかさ』を秘めているメイ嬢、あっさりと人の急所を的確に突くような、えげつない戦法をとってくる。

「──では、『ゲンダイニッポン』を代表するという、ゴルゴダの丘の13階段の狙撃のプロフェッショナル氏に対しては、どうなのでしょうか? 『彼』におかれましては、けして自分の『後ろを取らせない』ことこそをモットーになされておられるほどの『剛の者』なのですが、果たして神出鬼没のメリーさんなら、後ろを取ろうと思えば、簡単に取れるのでは?」


「その件については、ノーコメント貫かせてもらうの」


「な、何でよ⁉」

「業界的に、いろいろとマズいの。──いわゆる、『大人の事情』というやつなの」

「幼女の都市伝説が、『大人の事情』とか言い出した⁉ それに、『業界』って、何のこと?」

 メリーさんに完全に煙に巻かれて、今や混乱の極みに達しているメイをなだめるようにして、その時わたくしは言い諭す。




「……まあ、彼女たち都市伝説としては、そういうこともあるんだと、わきまえるというかあきらめるしかありませんわ。──それよりも、もっともっとこちらのほうこそを、ご注目してください、今回の真の主人公であられる、スネグーラチカ様たちの寝姿を。こうして外見がまったく同じ三姉妹が、一緒くたになって眠っておられると、どなたが教皇なのか魔王なのかサンタさんの孫娘なのか、まったくわからないではありませんか? 結局人間の本質というものは、外見にこそ基づくべきなのであり、むしろ中身のほうは簡単に変貌してしまいかねず、何の根拠ともなり得ないのです。よって、自分が教皇なのか魔王なのかサンタの孫娘なのかなぞといったことを、悩む必要なぞないのです。このまさしく『世界の真理』的考え方こそ、スネグーラチカ様からの、魔王様に対してはもとより、彼女たちの寝姿を見て感銘を受けたわたくしたちに対しての、何よりも尊き『クリスマスプレゼント』だったのですよ♡」

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