第66話、わたくし、『異世界裁判長』になりましたの。【NAISEIの功罪】(その3)
ちょい悪令嬢「──さて、予告通り今回も前回に引き続き、本編の【反乱貴族編】に対する『異世界裁判』の審議を、
陪審員一同「「「よろしくー!」」」
ちょい悪令嬢「──といった感じで、元気いっぱいスタートしておいて
かませ犬「……確かに、論議が進むごとにだんだんと、それこそ
メイ道「それだけ『奴隷制』というもの自体が、非常にデリケートな問題だということですね」
真王子様「別に我々としても、『ゲンダイニッポン人』からしてみれば、いかにも『チュウセイよーろっぱ』っぽい剣と魔法のファンタジー世界である、このホワンロン王国において、『奴隷制』の存在を赦したり推奨したりしているわけではないからな」
ジミー「ただあまりにも、ほとんどのWeb小説における主人公たちの、『奴隷制』に対する対応が、『年端もいかない可愛い女の子がいじめられて可哀想』などといった、個人的感情にのみ根ざしたものであり、その救済手段も金や権力やチート能力による『力尽く』であって、最後には自分のハーレムに組み込むことで、『これでちゃんと幸せにしてやった♡』と思い上がるといった、傲慢さが赦せないだけなんだよね」
妹プリンセス「それに、これまた本作においてすでに問題としたように、ただ単純に奴隷制を『悪』として問答無用に否定しようとする考え方は、いわゆる『二元論』でしか物事を捉えられないという、非常に危険な思想であり、けして放置したままにすることはできなかったわけなんですけどね」
ちょい悪令嬢「そうですね、皆さんのおっしゃる通り、
かませ犬「③については、『NAISEI』と同じく最重要
メイ道「
真王子様「『NAISEIならではの傲慢さ』って?」
ジミー「ほら、マヨネーズとかカレーとか、本来『ゲンダイニッポン』においては取るに足らないものを、異世界のお貴族様なんかに食べさせて、無理やり(?)『おいしー!』とか『すごいー!』とか言わせて、悦に入るやつよ」
妹プリンセス「……ああ、同じく『ゲンダイニッポン人』である、Web小説の読者様の優越感をくすぐって、作品そのものに対する好感度を得ようとするやつですね、何と姑息な」
ちょい悪令嬢「──という感じで、どうやら方針も決まったようですし、早速討議に入りましょう! まず最初はやはり①番の、『果たしてれっきとした異世界人として生まれ変わっておきながら、前世の「ゲンダイニッポン人」としての知識を使っての「NAISEI」なんて、本当に可能なのか?』から参りたいかと思います!」
かませ犬「え、これってどういう意味? 『れっきとした異世界人として生まれ変わっておきながら』って……」
メイ道「ほら、以前『死に戻り』等について論じた時に、もしも『前世の記憶』なるものがあったとしても、それはけして明確なものではなく、いつまでも覚えてはおられず、あたかも『夢の記憶』みたいなあやふやなものでしかなく、しかもすぐに忘れ去ってしまい、とても『NAISEI』等に活用することはできないって、言われていたではないですか?」
真王子様「まあ、『ゲンダイニッポン人』が、現実に異世界転生を行ったとすると、当然そうなるだろうな。普通『夢で見た記憶』なんて、いつまでも鮮明に覚えている者なぞ、いやしないだろうからね」
ジミー「Web作家の皆さんも、一度実際に、異世界転生や戦国時代へのタイムトラベルをしてみればいいのよ。甘ったれた『ゲンダイニッポン人』なんて、戦国時代に飛ばされてしまえば、どうにかして生き延びることだけに必死になって、
妹プリンセス「……つまりこれって、Web作家の皆様においては、自分が創り出した主人公の気持ちになって作品づくりを行っている人なんか、ほとんどいないってことですわよね。ほんと、嘆かわしい限りですわ」
ちょい悪令嬢「やはり皆さんも、『前世の記憶』と言ったところで、『一個人の記憶』に過ぎないあやふや極まりないものによって、『NAISEI』なぞが実現できるわけがないってことですね? まあ、当然の結論ですね♡ ──ただしですねえ、これはあくまでも『これまでのWeb小説における
かませ犬「……話が違ってくるって、一体どういうふうにだよ?」
メイ道「あ、ほら、この作品の異世界転生って、実際に『ゲンダイニッポン人』の魂が世界を超えて輪廻転生してくるのではなく、あくまでも生粋の異世界人が何らかの理由で集合的無意識とアクセスして、『ゲンダイニッポン人の記憶と知識』を自身の脳みそにインストールすることで実現しているわけじゃないですか?」
真王子様「なるほど! それだと常に明確でしかも最新の、『ゲンダイニッポン』の科学技術等を参照することができるよな!」
ジミー「何せ集合的無意識とのアクセスは、けして一過性なものではなく、常に接続経路を繋ぐことのできる、いわゆる『アクセス権を与える』方式ですものね」
妹プリンセス「確かにこれだと、真に理想的な『NAISEI』の実現に足る、『ゲンダイニッポン』の知識を、いつでも手に入れられることになりますね」
ちょい悪令嬢「──と、言うことでございます。うふふふふ、皮肉な結果ですわね。どちらかと言うと『NAISEI』に否定的な本作のほうが、むしろ理想的な形で実現できるなんて♡」
かませ犬「……うーん、でもよお、これって本当に、『ゲンダイニッポンからの異世界転生者によるNAISEI』って、言えるのか?」
メイ道「はあ?」
真王子様「ふむ、確かにな。これだと極論すれば、そもそも集合的無意識とのアクセス能力を有する
ジミー「まあ、そもそも量子論や集合的無意識論に則れば、これまでのWeb小説において当たり前のようにして行われてきた、『異世界転生』自体が実現できっこないんだから、『ゲンダイニッポン』の知識を使った政治経済活動の改革を行うとすると、自然と本作のような形に落ち着かざるを得ないよね」
妹プリンセス「本作において、あえて
ちょい悪令嬢「──というわけですので、『異世界転生』作品を創ろうと考えておられるすべてのWeb作家の皆様は、これから
かませ犬「……またこいつ、上から目線で。これ以上『敵』を作って、一体どうするつもりなんだよ?」
ちょい悪令嬢「別に他の作家の皆様に、ケンカを売っているつもりなぞありませんわ。むしろ親切心に基づいて、行っているのであって──おや? スマホに音声着信が。もしもし、え? 『……あたし、メリーさん。今あなたのお屋敷の玄関先にいるの』、ですって? いけない、『メリーさん』てば、もう着いたんだ。早く迎えに行かなくては!」
ちょい悪令嬢以外の全員「「「──駄目えっ、行っちゃ、駄目えええっ!!!」」」
ちょい悪令嬢「……どうしたんですか、皆さん。いきなり大声を上げたりして。お客様を待たせたりしては、失礼ではありませんか?」
かませ犬「そいつは、いつまで待たせても、構わない客なんだよ! ていうか、『メリーさん』、いつの間に異世界に来たんだ⁉」
ちょい悪令嬢「あら、ご存じありませんでした? 今度書籍化するそうですよ、『異世界にやって来てしまったメリーさん』♡」
かませ犬「そんなこと、聞いているんじゃないよ! ──いやいや、それよりも何よりも、これってボイスチャットの仮想現実版だから、相手の姿も見えているので言えるんだけど、おまえが今手に持っているのって、
ちょい悪令嬢「ええ。──ただしスマホと言っても、この世界特有の
かませ犬「細かいことはどうでもいい! とにかくそれって、『ゲンダイニッポン』の
ちょい悪令嬢「もちろん」
かませ犬「だったら、いちいち異世界転生したり、前世に目覚めたり、集合的無意識とアクセスしたりしなくても、それを使えば、いつでもネットを通じて、『ゲンダイニッポン』の最新技術を参照して、地方貴族領とか王国全体における政治経済活動に、大いに役立てていけるってことだろうが⁉」
かませ犬とちょい悪令嬢以外の全員「「「あっ」」」
ちょい悪令嬢「おお、さすがはかませ犬さん、そこに気づくとは⁉」
かませ犬「普通、誰でも気づくよ! ──どうするんだよ、一体。これまで述べてきたことが、すべておじゃんになってしまったじゃないか⁉」
ちょい悪令嬢「いいえ、そんなことはありませんわ。むしろこのことこそが、『NAISEI』の無意味さを、象徴しているとも言えるのですよ」
かませ犬「はあ?」
ちょい悪令嬢「つまり先程もちょっと触れましたが、基本的に『ゲンダイニッポンからの転生者』の皆様って、我々異世界人を見下しているのですよ。それの極端な例がまさにこの、『NAISEI』なのであって、『おまえら異世界人が考えも及ばない最新の知識と技術で、この「ゲンダイニッポンからの転生者」である俺様が、せいぜい異世界を豊かにしてやるから、ありがたく思いな!』と言いたいわけなのです」
ちょい悪令嬢以外の全員「「「──っ」」」
ちょい悪令嬢「しかし実際はどうかと言うと、たとえ異世界人であろうと──いえ、むしろ魔法等の超常の力を使える異世界人のほうがより実現可能なのですが、集合的無意識にさえアクセスできれば、常にゲンダイニッポンどころか、より進歩した、
ちょい悪令嬢以外の全員「「「…………」」」
ちょい悪令嬢「ふふっ、ほんと、お笑いぐさですわ。こうしてスマホが一般化しているというのに、『紙の本』を流通させたくて、不必要な『NAISEI』に励んで、密かに下克上を狙い続けて、結局は同じく『転生者』である他の『反乱貴族』たちと共に、一網打尽に粛正されたりして。この世界において『紙媒体』が乏しいのは、『魔法と科学のハイブリッド化』が進んだために、文字通り『ペーパーレス』が徹底されているからなのにねえ♡」
メイ道「……確かに、私の愛用の魔導書も、今では
かませ犬「──いやいや、おまえまた性懲りも無く、全方面に向かってケンカを売るんじゃないよ⁉」
ちょい悪令嬢「何をおっしゃるのです、最初に我々異世界人にケンカを売ってきたのは、彼ら彼女らのほうではありませんか?」
かませ犬「──うっ」
ちょい悪令嬢「『転生者』たちが行ってきた傲慢極まる『NAISEI』によって、これまでどれだけの数の異世界において、政治や経済
かませ犬「……アル、おまえ」
ちょい悪令嬢「──っ。す、すみません、
かませ犬「あ、いや、気持ちはよくわかるよ」
ちょい悪令嬢「(気を取り直して)ええと、議論が思わず白熱した結果、奇しくも
ちょい悪令嬢以外の全員「「「異議なーし──!!!」」」
ちょい悪令嬢「──というわけですので、今回はこの辺にいたしまして、次回は冒頭で述べましたように、今回まったく言及することができなかった、③『なぜに「転生者」の横行に対して常に目を光らせているはずのホワンロン王国当局が、反乱貴族たちが「NAISEI」によって力を蓄えながら陰謀を巡らせていたのに気づかなかったのか?』と同時に、『自分の周りの人たちが次々と、「別の誰か」に成り変わっていく恐怖』についても審議する予定ですので、読者の皆様におかれましても、どうぞよろしくお願いいたします♡」
?「……あたし、メリーさん。一体いつまで待たせれば、気が済むのかしら?」
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