第55話、わたくし、いきなり軟禁状態になって、大ピンチですの⁉

枢機卿A「──さあ、それでは、記念すべき第一回、『アグネス教皇聖下を讃える会』略称『アグネスたん♡尊し』を、聖レーン転生教団総本山聖都ユニセクスの仮設教皇庁より、わたくし枢機卿Aの司会にて、これよりお送りしようと思います! ──御一同様、拍手!」


他の枢機卿たち「「「わーわーわー! ドンドンパフパフ! パチパチパチ!!!」」」


枢機卿A「いやあ、それにしても皆様、最近のアグネス聖下たんのご人気の急上昇ぶりには、目を見張るものがありますなあ」


枢機卿B「元々絶対的なカリスマ性や実績はもちろん、その幼き可憐さと大人びた知性とを兼ね備えたリアル『ロリBBA』っぷりに、信徒ファンの皆様からの絶大なる信奉を集めていたところに、今回の御幸イベントですからなあ」


枢機卿C「左様、先のドラゴン襲撃によって多大なる被害を受けた、聖都の復興と信徒ファンたちへの慰撫を目的とした、アグネス聖下たん御自らの大説法会リサイタル。どれほど傷ついた信徒ファンたちの励みになったことか……」


枢機卿D「お陰で、来場者たちからのアグネス聖下たん肖像画ポスターとの等価交換等の、文字通りの『お布施』の納入額の凄まじいこと」


枢機卿E「当日のアグネス聖下たんの雄姿を余すところなく記録した動画映像エンバン等に対する、全大陸における『お布施』の総額のほうも、天文学的金額に跳ね上がりましたからなあ」


枢機卿「これらの豊富な資金と、完全に立ち直り活力みなぎる信徒の皆さんとによって、聖都の復興事業も、存分にはかどるというものでしょう」




枢機卿全員「「「──これもすべては、アグネス聖下たんのご威光の賜物! アグネス聖下たん尊し! アグネス聖下たんラブリー♡」」」




アグネス聖下たん「──ドやまかしいわ、このうつけ者共が! 我のことを『アグネスたん』言うなと、何遍も言うとるだろうが⁉」




枢機卿A「せ、聖下?」


枢機卿B「お、落ち着いてください!」


枢機卿C「『アグネス聖下たん』というのは『HNハンドルネーム』ゆえに、この会合中はそのようにお呼びするのは、仕方なきことではございませんか⁉」


アグネス聖下たん「いやそもそもどうして、実際に顔を合わせての教団最高会議だというのに、HNハンドルネームなぞを使わなければならないのじゃ⁉」


枢機卿D「それはもちろん、まさしくこれは教皇聖下御自ら御臨席を賜れた極秘の御前会議なのであり、万が一にも防諜されないがための処置でございます!」


アグネス聖下たん「嘘を申せ! どうせこれも量子魔導クォンタムマジックネット上でWEBラジオ『アグネス聖下たん♡オールナイト御説法トーク!』として、リアルタイムに配信しとるんじゃろうが⁉」


枢機卿全員「「「……」」」


アグネス聖下たん「そこは、否定しろよ⁉ ……え、この極秘の御前会議、ネットで同時公開されているの? 何ソレ!」


枢機卿E「……ひ、秘密であればあるほど知りたがるのが、信者ファン心理というものでして」


枢機卿F「お陰様で、視聴アクセス数のほうも、ただ今うなぎ登りの状態で」


枢機卿G「だ、大丈夫です、信者ファンの皆さんは口が堅く、けして他には漏らしませんので」


アグネス聖下たん「我が聖レーン転生教団の信者自体が、大陸中に存在しているのだから、つまりはすでに全人類のほとんどに知れ渡っているということではないか⁉」


枢機卿A「そ、そうとも、言えますな」


アグネス聖下たん「それ以外に、言いようがあるか!」


枢機卿B「何せ我が教団の信者──つまりは、偉大なるアグネス聖下たんの信奉者たちは、全人類規模ですからなあ」


アグネス聖下たん「このようにリアルタイムにネット上にさらされたり、アイドルコンサートもどきの説法を行って信奉やお布施を集めても、嬉しくも何ともないわ! 何じゃ、また我に無断で、WEB配信や、肖像画ポスターとか動画映像エンバンとかの販売をしおって! いくら教団最高幹部の枢機卿とはいえ、教皇たる我に対する立派な背信行為じゃぞ⁉」


枢機卿全員「「「WEB配信だけに」」」


アグネス聖下たん「──やかましい!」


枢機卿C「しかしお言葉ですが、我ら教団自らこのような『アグネス聖下たん☆推し』活動を行ってこそ、信者ファンの皆さんから多大なるお布施を集めることができて、聖都の復興に少なからぬ貢献を果たしていることも、歴然とした事実なのですぞ?」


アグネス聖下たん「──うっ」


枢機卿D「しかも聖下の愛らしく健気なお姿を見せることこそが、先の大災厄で傷つき疲弊しきっている信者たちをどれほど元気づけているのか、おわかりですかな?」


アグネス聖下たん「──ううっ」


枢機卿E「そもそもが我々上層部の手落ちによって多大なる迷惑をかけた、信者たちを立ち直らせて聖都を復興させるために、教団最高責任者あられる御身を、リアルタイムにネット上さらしたり、肖像画ポスター動画映像エンバンとして配布するくらい、何だと言うのです?」


アグネス聖下たん「──ぐぐっ、そ、そうだな。信者たちの苦労を思えば、我が身を犠牲にすることくらい、甘んじて受けるべきであろう」


枢機卿F「さすがは、教皇聖下!(ニンマリ)」


枢機卿G「きっとわかってくださると、信じておりましたぞ!(ニンマリ)」




枢機卿A「──では、教皇聖下のご理解を得たことですし、そろそろ今回の議題──『前回の作戦失敗に対する反省と、今後の展望』についての話に入りましょう!」




アグネス聖下たん「そ、そうじゃ、いつまでも馬鹿げたことなぞ言っていないで、むしろそういったことこそを、火急的速やかに論じ合うべきじゃろうが?」


枢機卿B「聖下、どのような重要な話し合いであろうと、それに応じた『導入部』というものが必要なのですよ?」


枢機卿C「我々としては、全員で『『『アグネス聖下たん尊し! アグネス聖下たんラブリー♡』』』と唱和して、聖下への賛辞を高らかに宣言した後に、すぐさま本題に入るつもりでしたのに、物言いをつけられて盛大に横道にそらされたのは、聖下ご自身ではないですか?」


アグネス聖下たん「返す返すも、申し訳ない。そんなこととは、つゆ知らず……」


枢機卿D「いえいえ、わかってくだされば、それでいいのです(ニンマリ)」


枢機卿E「さあ、早速本題に入りましょう」


枢機卿F「話し合う必要のある、反省点も戦略の練り直しも、山積みとなっておりますぞ?」


アグネス聖下たん「……う、うむ。しかし、ドラゴンの卵に『ゲンダイニッポン人』の魂をインストールしての、大々的な無差別自爆テロ作戦はもちろん、それとは逆にこの世界の人間に『ゲンダイニッポン』の人外の魂をインストールした、極秘の『蜘蛛女』作戦すらも、完全に失敗してしまった今、一体どのような戦略が残っていると言うのだ?」


枢機卿全員「「「………………………………確かに」」」




人形遣いマリオ=ネット「──それについては、誠に僭越ながら、若輩者である私のほうから、発言させていただいてもよろしいでしょうか?」




アグネス聖下たん「むっ、そういえば会議が始まった時から気になっておったのじゃが、誰じゃ、おぬしは? 幼女とおっさんたちの集まりという、いかにも危ない絵面のこの御前会議にあって、どう見ても学生にしか思えない年頃の、これまで教皇庁において一切見かけることのなかった『謎の美少年』なんて、場違いにもほどがあろうが?」


枢機卿A「おっさんたちとは、失礼な」


枢機卿B「……しかし確かに、見かけたことがありませんな」


枢機卿C「それにしても、月の雫のごとき銀白色の髪の毛に月長石ムーンストーンのような青の瞳とは、やけに神秘的ですなあ」


枢機卿D「……いや、何だか、の巫女姫すらも、彷彿とさせませんか?」


枢機卿E「の巫女姫ですって? まさか──」




枢機卿ツェット「──ああ、申し訳ない、その者は我が愚息でございますよ」




枢機卿E「ワタツミ枢機卿の?」


枢機卿F「では、かの、我が教団におけるいにしえの救国の巫女姫の生まれ変わりとも噂されている、マリオ=ネット=ワタツミ殿ですか⁉(第10話参照)」


枢機卿G「そのようなお方がどうして、この極秘の御前会議に?」


枢機卿ツェット「いや、どうしても皆様にお伝えしたいことがあると言い出しましてな、私ごときではお止めすることなぞできず、こうしてお連れした次第であります」


アグネス聖下たん「……むう、確かに覚醒を果たせば、教皇である我とも並び立つと言わていれる巫女姫殿が、教団の極秘会議に列席を所望されては、無碍に拒否することはできぬし、もちろん発言することを止めることも能わぬが」


枢機卿A「そうですな、とにかくこの場においては聖下直々の御許可が出たというとこで、何かおっしゃりたいことがお有りであれば、どうぞご遠慮無くおっしゃってください」




人形遣いマリオ=ネット「では、そのように。──そもそもですねえ、これまでの反省や今度の展望なぞを話し合う以前に、皆様ときたら、我が転生教団のご本尊であられる、『なろうの女神』様に対する、信仰心が無さ過ぎるのですよ」




人形遣いマリオ=ネットと枢機卿ツェット以外の全員「「「──なっ⁉」」」




アグネス聖下たん「貴様、『なろうの女神』様の地上における代弁者たる我に対して、何たる暴言を!」


枢機卿A「いくら巫女姫候補者であろうと、赦しはしませんぞ!」


枢機卿B「いまだ覚醒前のそなたは、現時点においては単なる学生に過ぎないのだろうが⁉」


枢機卿C「ワタツミ枢機卿も、何かおっしゃってください!」


枢機卿ツェット「……(ただ無言で微笑むばかり)」


アグネス聖下たん「大体我々が、『なろうの女神』様のご威光を示さんと、ホワンロン王国を始めとする異端者どもに対して、どれだけ策を弄していると思って──」




人形遣いマリオ=ネット「それがそもそも、間違いなのですよ」




アグネス聖下たん「な、何だと?」


人形遣いマリオ=ネット「いいですか? 『なろうの女神』様と言えば、ありとあらゆる世界におけるありとあらゆる『異世界転生』や『異世界転移』を司っている、WEB小説等でお馴染みの『女神様』という概念の集合体なのであって、まさしくすべての世界においてできぬことなぞあり得ぬ、文字通りの『絶対神』であられられるのですよ? 当然己を奉ろうとはしない異端者共に神罰を与えようとするのは当然のことで、我々下っ端たちがちまちまと策を弄することなんて必要ないのですよ」


アグネス聖下たん「……つまり我々が余計なことをせずとも、『なろうの女神』様がすべてをうまく計らってくださるというわけか?」


人形遣いマリオ=ネット「『なろうの女神』様が、あなた方が信じている通りの万能なる神であれば、当然そうなるでしょうね」


アグネス聖下たん「む、むう、確かに『なろうの女神』様のことをお信じしないのは、教団幹部として失格であるが、その反面、そのような文字通りの『神頼み』で、すべてがうまく行くものであろうか……」




伝令係の大司教「──申し上げます!」




枢機卿A「何事だ⁉ 御前会議の最中であるぞ!」


枢機卿B「それほど喫緊の、報せでもあると言うのか?」




伝令係の大司教「は、はい! ──現在ホワンロン王国において、地方貴族の一斉蜂起が発生! すでに王都は完全に征圧されてしまい、女王以下王族はすべて、軟禁状態にあるとのことです!」




人形遣いマリオ=ネットと枢機卿ツェット以外の全員「「「──なっ⁉」」」




枢機卿C「ホワンロン王国で、クーデターだと⁉」


枢機卿D「しかもすでに、王都を落としてしまっているとは!」


枢機卿E「教団諜報部の定例報告においては、そのような大反乱の兆候なぞ、微塵もなかったぞ⁉」




人形遣いマリオ=ネット「……ふふ、早速『なろうの女神』様の『長年の仕込み』が、功を奏したようですね。──教皇聖下、私のホワンロン王国への帰還のお赦しを賜りたく存じます」




アグネス聖下たん「何っ、このような異常なる状況の中で、敵地に戻ると申すか⁉」


人形遣いマリオ=ネット「私は現在、ホワンロン王国の王立量子魔術クォンタムマジック学院に留学している身、あくまでも学生であれば、教団員の皆様よりも、自由に動けることもあるでしょう」


アグネス聖下たん「む、確かにな。今すぐ聖騎士団等を動かして、下手に教団の関与を疑われるのもまずいか」


人形遣いマリオ=ネット「ええ、私単独であっても、できることは少なくはないでしょう。──それから、反乱貴族たちが教団に助力を要請してきた時は、快く受けてください。彼らにしても力ある『後ろ盾』は、のどから手が出るほど欲しいでしょうしね」


アグネス聖下たん「……しかし、このような教皇である我すら思いも寄らぬ、文字通り想像を絶する事態になったというのに、そなただけは妙に落ち着き払って、あたかも、いかにも的確な善後策を次から次へと出せるものよのう?」


人形遣いマリオ=ネット「ええ、このような仕儀になることもあろうかと、以前より予想しておりましたので」


アグネス聖下たん「何じゃと⁉」


人形遣いマリオ=ネット「だから、すべての『異世界転生』を司っておられる、『なろうの女神』様を信じましょうと、申し上げているではないですか?」


アグネス聖下たん「はあ?」




人形遣いマリオ=ネット「──『転生者』ですよ、『転生者』。反乱貴族の全員が、『地方貴族の八男坊』や『本好きの下級役人の娘』等の『転生者』であり、『ゲンダイニッポン人』としての知識に基づく超科学技術を使った『NAISEI』で十分に力をつけて、満を持して王権を簒奪するために一斉蜂起したわけなのです」

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