第24話、わたくし、いかにもマニアックなミリオタ展開はちょっと苦手ですの。
『──最前線の索敵班より報告! 敵航空隊十数機ほど、我が軍主力部隊前進基地へ接近中!』
『──解析班、機種確認! 先の大戦の初期機体、旧大日本帝国海軍皇紀二六〇〇年式艦上戦闘機──略称、「
「…………は?」
そのあまりに信じられない無線報告を耳にして、ベンジャミン公国国防軍参謀総長である、私ことビリー=ザ=ブット=キャンパーは、思わず言葉を失い、うかつにも
「どうしたのです、ビル。そのような面白いご面相をなされて」
統合幕僚本部の最高司令官席に座っておられる、国防総長にして国主たる大公家息女、『
──だが、その文字通り淑女然とした麗しのご容姿に、騙されてはならない。
彼女こそは、悪役令嬢であるがためにかつて直面した『破滅の運命』に抗おうと、前世でアメリカ海軍特殊部隊『シールズ』に在籍していた記憶を持つ、彼女の専属執事たるこの私の激烈を極めた
──そして現在我々ベンジャミン公国は、まさにその大陸最強とも謳われるメツボシ帝国から突然の宣戦布告を受けて、戦端を開いたばかりであったのだ。
「あ、いや、ちょっと報告の内容に、不可解な点がありまして。──でも大したことではないので、ご心配なく」
「でも、『ゼロセン』と言えば、あなたの前の世界における大戦争で、向かうところ敵無しの傑作兵器だったのでしょう? 本当に大丈夫なのですか?」
「……あー、大丈夫です。だってそれって、『デマ』ですから」
「は? デマって……」
「
「…………いやに、辛口ですわね。何かゼロセンとかニホン軍機自体に、恨みでもお有りなの?」
「いえ、別に。ただ、ろくすっぽ自分で調べもせずに、デマや騙りを鵜呑みにする愚民どもが、気にくわないだけですよ」
前世で時たま暇な時に閲覧していた、日本のWeb小説も、そうだったよな。
たとえ異世界ファンタジーといえど、それこそ先行作品やゲーム等で得た知識を鵜呑みにせずに、ちゃんと自分で論理立てて世界観を組み立てている作品なんて、ほとんど無かったしね。
「うふふふふ。そんなこと言って、前世が日系とはいえれっきとしたアメリカ軍人であられたものだから、やはり愛国精神的に、イチオシは米軍機ってだけじゃないの?」
「──馬鹿言うんじゃねえ! 第二次世界大戦当時の軍用機──特に戦闘機と言えば、ドイツ機が至高に決まっているだろうが⁉」
「ひぃっ⁉」
つい激高してしまった私の怒鳴り声を聞いて、『
あ、いけね、つい興奮してしまった。
「す、すみません、お嬢様──あ、いえ、司令官閣下。ほら、トップがそんな情けない姿をしていたら、下に示しがつきませんよ?」
そう言うや努めて笑顔を浮かべて、右手を差し出して助け起こそうとする………………や、
「……もう、
とんでもないことを、口走りやがる、アホ悪役令嬢。
どよめく、周囲の将軍や参謀たち。
「おいっ、何誤解を生むようなこと言っているんだ?
「も、申し訳ございません、
「お姫様が、一体どういう願望や妄想を抱いていやがんだ⁉ いいから、さっさと────っ、な、何だ⁉」
──私たちが馬鹿なじゃれ合いをやっていた、まさにその
「何があった⁉ 報告しろ!」
「──はっ、敵機が三機編隊で、対空砲火をくぐり抜けて、突っ込んできた模様です!」
「はあ? たかが時速500キロ程度しか出ないはずの、しかも陸上爆撃行為には向かない艦上戦闘機である、
「ただの
「……敵が無理な爆撃行為中に、操縦不能に陥ったわけか?」
「い、いえ、全機とも一斉に同じ行動をとっており、計画的攻撃方法かと思われます!」
「なっ⁉ まさか──」
「ええ、『カミカゼアタック』です! 敵はクレイジーにも、緒戦から自軍の兵士の使い潰しに──正規軍による恥知らずの『自爆テロ』に──走った模様です!」
☀ ◑ ☀ ◑ ☀ ◑
『いやっふぅ──!』
『サイコーだぜえ!』
『イクイクイクイク逝くぅ──っっっ!』
『ナニ、この、絶頂感⁉』
『フリーフォールやバンジージャンプなんて、目じゃないぜ!』
『何せ、ホンマモンの、臨死体験だからな!』
『何遍やっても、やめられないぜえ!』
『うちらの残機はもう、
『バンザーイ!』
『皇帝陛下、バンザーイ!』
『メツボシ帝国、バンザーイ!』
『ハイル、ヒ──』
「──おいっ、無線を消せ!」
「は、はい!」
──極東弓状列島メツボシ帝国、帝都ヒノモト大本営。
「──そんなにカリカリしなさんな、みんなちょっとばかし、はしゃいでるだけなのさ、ついに長年の『夢が叶った』と。──そう、『ゲームの世界の中に転移して、チート能力で無双する』という夢がな」
最高司令官である私と補佐官であるヨシュア=エフライムを始め、元帥や参謀総長等の、帝国軍の最高幹部ばかりが集まっている文字通りの『御前会議』の場にあって、なぜか当たり前のようにして臨席している、我が帝国占領下の魔法大国『ガーリィコボルト』の貴族の子女専用の女学園『リリィーアンアン』の制服を身にまとった、年の頃十五、六歳ほどのツインテールの少女が、あまりにもその可憐な容姿にはそぐわない、砕けた男口調でなだめすかしてきた。
「……ゲームの世界、だと?」
「ひひっ、やっぱこの世界の人間としては、気にくわないかい? だがな、こことは他の世界のいわゆる『部外者』の俺たちからしたら、この剣と魔法のファンタジー世界は、単なる
「……つまり、ゲームだからこそ、兵士か一般市民か大人か男か女子供かを問わず、敵であれば誰彼構わず殺し尽くせるわけか」
「ひゃはは、違いねえ。しかもそれは自分自身の『命』についても言えるわけで、いくら傷を負おうが死んでしまおうが、あくまでもゲームの中の
「ああ、まあな。とはいえ、おまえらが転生するごとに、我が帝国民の無辜の命が失われてしまうのは、けして看過できるほど、少ない犠牲ではないがな」
「おいおい、『悪役令嬢としての破滅の運命』から逃れるために、世界そのものに復讐し逆に支配しようとしているおまえさんが、
「……そうだな、甚だ不本意とはいえ、現時点においてはそれがベターな選択であろうしな。少なくとも今回の侵攻戦の間は、よろしく頼むことにしよう」
「ああ、それがいいぜ。何せ俺も参加している現代日本のネット上のMMOに大々的に広告を上げて参加希望者を募集しておいたんで、リアルに戦争ゲームやFPSを体験したがっている重度のゲーオタたちが次から次へと参戦してくると思うから、たとえ今回のような大規模な侵攻戦においても、当分の間は兵士の補充に困らないと思うしな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます