問題、ドキドキ+高揚感=?

赤城クロ

問題、ドキドキ+高揚感、この答えは?

 「問題、ドキドキ+高揚感、この答えは? さぁ残りは891秒! ヒントは3EDW>9! さぁこの究極の難問方程式が解けるでしょうか、回答者イクヤ君!?」

 「……いきなり何の話、アヤ姉?」


 さて、近所に住む高校2年の活発系先輩、アヤ姉との勉強会にて、スポーツマン系後輩のイクヤに突如出されたこの問題。

 そんな問題にイクヤは戸惑い、そう疑問を投げかけるが、ノリノリなアヤの答えは。


 「ふふふ~、それは一般常識クイ~ズ! これが分からないと、この弱肉強食溢れるジャパニーズコンクリートジャングルでは生きていけないですよ!」


 と言う、アヤワールド溢れる言語。

 だが、その回答を聞いたイクヤから、×の判定が言葉にして伝えられる。


 「そのジャパニーズコンクリートジャングルに出る前に、勉強していい大学出てないと苦労するよ?」

 「お、乙女はいずれ花嫁になるから大丈夫です!」

 「……そんな発想しているから、アヤ姉の両親は『うちのバカ娘に勉強を教えて』って言うんだよ……」

 「バカじゃないですもん! 私バカじゃないですも~んだ!」

 「いや、あの……勉強をさ……」


 そしてアヤの「バカじゃないもん」と言いつつ手足をバタつかせる《駄々コネの法則》により、イクヤの部屋での勉強会は一時、休み時間を迎えることになった。


 …………。


 山を張ってテストに挑み、予想した問題がテストに出ないように、イクヤの考えも思い通りいかなかった。

 と言うのも、本来休み時間程の休憩を取るつもりが、それが伸びて昼休みの時間程の休憩になってしまったからだ。

 その問題がその様に変化した原因、それは……。


 「ねぇ、問題解いて、解いて下さいって! 解いて下さいってば!」


 《駄々コネの法則》から、《お願いの法則》へ変わったアヤのせいである。

 そんな問題を見てイクヤは。


 (仕方ない……)


 そう心の中で決心し、指定通りの方程式で、問題の答えを口にする。


 「アヤ姉、答えは恋でしょ? まず、ヒントの3EDW>9を平仮名入力でキーボードに打てば『あいしてるよ』って出てくるから、それにドキドキと高揚感を合わせれば……でしょ?」

 「おしい! 891《はくい(白衣)》って事に気づかなかったので減点で~す。 なので正解は、白衣の似合う人に恋をした、つまり将来研究員になると言われているイクヤ君の同級生! そう、クールな天才と言われる不動院純一君に恋をしたという事でした~!」

 「そ~なんですか、ならアヤ姉、勉強しましょうね~」

 「なら、私はお断りの法則を発動します!」

 「なら、それを常任理事国の権限で拒否するから。 はい、勉強を再開するよ~」


 流石にここでアヤに付き合うイクヤの集中力が切れた。

 その為、アヤに投げられた言葉の玉は適当な方向へ飛んで行ったのだが、それを無理やりキャッチしてアヤは投げ返す。


 「ウェイト、イクヤ君! ここから乙女の方程式の回答を出さないで良いんですか!? このままか弱い乙女をほおっておいていいのですか!? それを解くまで勉強力の経済制裁を発動します!」

 「はぁ……」


 イクヤはこのわがままを解く答えを探して思考の海に飛び込む。

 一体どうすれば、勉強してくれるのか?

 一体どうすれば、やる気をだしてくれるのか?

 一体どうすれば、自分の将来の事を考えてくれるのか?

 それを求めて暗闇包む問題の海の航海をただただ進む。

 そして見つけた一つの光のカギ。

 イクヤはその光のカギを言葉に変え、この物語の終焉へと足を進めるためカギを使い解決の道へ続くドアを開ける。


 「分かった協力するよ、その代わり、別の機会に勉強するからね」

 「そう言われては仕方ありません、勉強力の経済制裁は成功後、解除しますからね」

 「はいはい、分かったよアヤ姉」

 「ならば、明日学校で~」


 そしてアヤは、そそくさと部屋を後にした。


 「しまった、もしかして流れに乗せられたか……!? 上手く言い訳して永遠に勉強しない様にする為に……」


 …………。


 状況の選択肢は6つ。

 月曜日、高校、昼休み、屋上、二人きり、作戦会議。


 「それでイクヤ君、どうするのですか? 作戦はあるのですか?」

 「ストレートに『好き』って言えば良いんじゃないの?」

 「イクヤ君、恋愛の成績は0点です! 乙女ひねくれの法則から勉強しなおすべきです!」

 「何、その法則? と言うか別に良いじゃん、ストレートにぶつかる! これが一番じゃないの!?」

 「乙女ひねくれの法則とは、乙女は真っすぐ本音を言えないという事ですよ、イクヤ君! ここ、テストに出ますよ~!」

 「そんな試験、誰が行っているのさ?」

 「それはもちろん私です! だって私は、恋愛の先生なんですから!」

 「少なくとも、うさん臭さは100点だね」

 「落第! 落第ですよイクヤ君!」


 始まった作戦会議と言う紙はまだ白紙、それは筆圧の形跡もないくらいに。

 この白い紙に言葉を書くにも恋愛教師の許可がいる。

 だが、その難易度は非常に高いらしく、そしてイクヤの成績が低いらしく、許可が全く下りない。

 と言うより。


 「アヤ姉、諦めたほうが良いよ、不動院は。 アイツ、AI研究の虫って感じで恋愛事から最も遠いよ」


 いくら考えてみても、正解になる答えが見つからない。

 完全に、答えへ続く方角を見失ったのである。 

 結果、仕方なく白紙の回答用紙を渡すのだが。


 「そこは再びお断りの法則です! 恋愛偏差値100オーバーの私はあきらめる訳にはいきませんから! と言うか、嫉妬してます?」

 「し、している訳ないじゃん!」

 「ほほーう? では頑張って回答を探すのです! お姉ちゃんの為に!」


 やる気を見せろとの教師の言葉、不満げな顔を背けながら渡したイクヤの手に、残念ながら白紙の回答が戻ってくる。

 だが、そんなイクヤの体は。


 不満。

 嫉妬。

 緊張。


 この三つで再構成されていた。


 …………。


 (どうしたものか……?)


 彼の心は対照的な思想が争っている。

 一つはアヤ姉の幸せの為に行動するか?

 そして、もう一つ。

 長年思ってきた思いを言葉に変えるか?


 イクヤとしては、長年付き合いのあるアヤ姉の幸せを願いたい。

 だが、本音として、一人の女性として、アヤ姉を愛している気持ちを長年抑えてきた。


 (…………)


 静かに考えるイクヤ。

 そんなイクヤの脳裏に浮かぶのは、笑顔を浮かべたアヤ姉。

 いつもバカなことを言うアヤ姉。

 子供の頃から世話をしてくれたアヤ姉。

 そんないくつものアヤ姉の姿が脳裏を駆け巡る。

 そして。


 (アヤ姉に世話になってきたからな……)


 イクヤは一つの決断を下した。


 …………。


 「不動院」

 「……何だ?」

 「その……」


 放課後、帰ろうとしている不動院に声をかけるイクヤ。

 だがその口は重く、なかなか言いたいことを言えない。

 そんな会話が続かない状況に不動院は。


 「なんだ? 何もないなら帰るぞ」


 そう言って背を向け去ろうとする。


 「いや、ちょっと待ってくれ! その……」

 「何だ? 早くしろ、私は研究で忙しいんだが?」

 「いや、その~……」


 (出すんだ! 今こそアヤ姉の為に!)


 彼は自分にそう言い聞かせる、それは勇気の泉を沸かせるために。

 そして徐々にその泉の水圧に押され、喉奥に隠れていた言葉がやっと湧き出る。


 「その、アヤ姉! いや、アヤ先輩に会ってほしいんだ!」

 「ほう?」


 やっと出た言葉、だがその代償として湧き出るのは虚無感。

 イクヤは胸に穴が開いたような、何とも言えない感覚に襲われた。

 そんなイクヤの事など知る由もない不動院は。


 「分かった、それでアヤ先輩はどこにいる?」


 そう口にした。


 …………。


 「アヤ姉、ちょっと屋上に来て」


 その様な電話で呼び出されたアヤ姉は不動院と対面した。

 その不動院の後ろには、複雑そうな表情のイクヤが静かに立っている。


 「何の用ですか?」


 不動院の最初で最後の問1問。

 その問題に対し、アヤ姉は俯き、答えるまで時間をかける。


 「…………」

 「何の用ですか」


 改めて不動院の問1問。

 そして、彼女は。


 「……いや、その~! わすれちゃった!」


 それが彼女の答えだった。

 そんな答えに。


 「そうですか、では私は研究がありますので……」


 正解か不正解か、それ以前に感情がこもっているのか分からない言葉をアヤ姉に返すのであった。

 そして、去っていく不動院。

 そんな様子をどこかホッとした気持ちで見つめるイクヤの姿があった。

 だが……。


 …………。


 「どうしてあんな事を言ったんだよ、アヤ姉!?」


 それは本音を押し殺した嘘。

 その為、彼の胸は複雑な音色を奏でている。

 嬉しさ、悲しさ、不安さ、心配。

 そんな感情たちが絵の具をかき混ぜるように混ざっていく。


 「…………」

 「…………」


 そして音色は消える。

 流れるのは風の音。

 それは時が止まる様。


 「あのさ……」

 「何……ですか?」


 口を開いたのはイクヤ、それに静かに答えるアヤ姉。


 「どうして……」

 「それを言わせますか?」

 「…………」


 見つめ合う目線、沈黙、そして戸惑い。

 イクヤは答えが分からず、言葉が出ない。

 そんなイクヤから顔を背け、背中を見せて答えへの鍵を口にする。


 「イクヤ君、乙女ひねくれの法則を忘れてますよ……」

 「あ……!?」


 そして、アヤ姉から出されたヒントで答えが見えた。

 暗闇の航海に終わりを告げる鍵。

 そして、その鍵を使う扉がアヤ姉から差し出される。


 「では改めて問題です。 ドキドキ+高揚感、この答えは? 残りは891秒、ヒントは3EDW>9ですよ……」

 「なるほど……」


 振り返ったアヤ姉は、顔を赤く染めていた。

 やや顔を下に向け、恥ずかしそうに口にするアヤ姉の姿を目撃した時、彼はやっと分かったのだ、彼女の気持ちを……。


 「ひねくれの法則ね……、つまり、素直に891(はくい)じゃなくて、ひねくれの法則では198(イクヤ)、つまりイクヤ、あいしてるよ……って事だったんだね……」

 「やっと恋愛で100点を取れましたね……?」


 そしてイクヤはアヤ姉に近づくと、額をアヤ姉の額にくっ付け、静かに呟く。


 「アヤ姉とイクヤの頭(文字)を合わせて、愛。 これで追加点は貰えるかな?」

 「ふふ、そこは減点ですね。 ですがまだ最後の問題が残ってますよ?」

 「では、追加点で100点以上をもらえるよう頑張るかな?」

 「上手く唇で経済制裁してくださいね」


 そして二人の唇は一つになった。


 …………。


 「つまり、恋は盲目と言うのは事実であり、その証拠にキスシーンを撮影されている事に全く気付かない様子からも伺い知れる事実だという結論に私は達しました。 以上でAI(愛)に関する研究発表を終わります」

 「「「わー~~~……」」」


 その後、二人は不動院によってその一部始終を事細かに解説され、学校一のバカップルともてはやされる事になるのであった。

 そして、そんな二人から『からかわないでほしい』と、お断りの法則が発せられる事となった。

 だが、そんな事を言いつつも、二人の答えは笑顔である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

問題、ドキドキ+高揚感=? 赤城クロ @yoruno_saraku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ