1-3




 かたん___カタカタ、、


「×××××だ。ああ、わかった」



 物音と話声で目が覚めた。普段の朝はスマホのアラームが鳴る音で目覚めるが、一人暮らしの部屋にテレビ以外で話し声なんか聞こえるはずがない。


 重い瞼を開けるとそこは真っ暗なままだった。体感的にはぐっすり眠った後のスッキリとした感覚だった。まずい。これは休みを寝て過ごして夜になったパターンかもしれない。手を動かしてスマホを探そうとするが、カチャンと鉄のぶつかる音が鳴るだけだった。身体を動かそうとしても両腕が頭上で縛られ、上手く動くことが出来ない。

 

 さっと脳が覚醒するのを感じた。状況がぐるぐると頭の中で回り、胃液が喉まで込み上げてきた。


「う、ごほっごほっ・・・はあはあ」


 ごくっと喉を鳴らし深く息を吐いてみた。状況は変わらないが、少し冷静になれた気がした。



 今は恐らく、あの変態のいる場所だ。夢でしたなんて事はなく、昨日の口付けは現実だったようだ。現状は万事休す。きっとバラバラに切断されて捨てられるのだろう。



カチャ、キィィ



「―――起きたか?」


低く落ち着いた声が聞こえた。声のする方を向くと、開けられた扉から入る逆光で男の輪郭がうかんでいた。ぼやっと見える姿は長身だが、顔まで伺い見ることは出来ない。急な光でしぱしぱと目を細めるのと同時に扉が閉じられた。


「あ、と・・・今日は何日ですか?」


スリッパが床を叩く音が近付いて来る。止まっていた部屋で、空気が動くのを感じて身体にぎゅっと力が入る。


「何時でもよかろう。__腹は減っているか?」


「あ・・、お腹は(ぐきゅるるるぅ)・・・空いてません」


「ほう。今の音は?」


「空いてなくても鳴るんです」


「うるさい腹だな」


 ふっと鼻で笑われた気がした。真っ暗で相手の表情を伺い見る事も出来ないから、尚更不安になってくる。



「あの、貴方は一体誰なのですか?」


「ご主人様だ。二度も言わせるな」


「えっと、人違いではないでしょうか? 私にそのよう「水谷沙也加二十六歳。未婚。現在は家具メーカーの事務員として勤務。母一人子一人の母子家庭。血液型はA型でたんじょ「あああああ、も、もういいです」


 恐ろしい。私のことを知っている。___こんな私にまさか、ストーカーがいるとは思わなかった。どうしよう。

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