7大鷹さんと彼女の関係は……
「新しく入社した人と一緒だとは聞いていましたが、まさか、その社員というのが……」
大鷹さんに今の自分の居場所を伝えたら、歯切れ悪い返答があった。河合さんが大鷹さんにしきりに会いたがっている理由と、何か関係があるのだろうか。
「大鷹さん、もしかして、河合さんと知り合い」
「もしもし、おおたかっち、久しぶりい!最近、顔見ないなと思っていたけど、こんなところにいたとは思わなかったよお」
突然、横から河合さんの腕が伸びてきて、私のスマホが奪われた。私の言葉は途中で遮られ、河合さんが大鷹さんと会話を始める。
「お久しぶりです。相変わらずの話し方ですね。まあ、そんなことはどうでもいいので、さっさと僕の妻を帰してもらえますか。いや、それよりも」
「僕が迎えに行きますって感じかな」
「あ、あの、河合さんと大鷹さんはどういった関係なのでしょうか?」
河合さんは、私に配慮してか、通話をスピーカー状態にして、私にも大鷹さんの声が聞こえるようにしてくれていた。そのため、大鷹さんの困惑したような、呆れたような声がスマホから聞こえてくる。かなり親しげな様子なので、気になってしまう。
「彼女は、僕と同じ大学で」
「元カノでーす!」
二人の声が重なった。
「も、元カノ……」
「そう、元カノなの。倉敷先輩が結婚しているって聞いて、旦那さんのことを平野さんに聞いたって言ったけど、その時に、旦那さんの苗字を聞いたら、『大鷹』だって。大鷹って苗字は珍しいでしょ。確か、おおたかっちはこの地域で働いているって思って。だから、写真を見たかったんですよ」
「はあ」
スマホから大きなため息が聞こえた。大鷹さんは河合さんの説明を否定するだろうか。耳を澄ませて大鷹さんからの言葉を待つと、河合さんとの関係は肯定された。
「河合さんの言う通りです。同じ大学に通っていて、大学生の時に一年ほど付き合っていましたよ。でも、今は彼女に未練はまったくありません。浮気なども絶対にありえないので、心配はしなくて大丈夫ですよ」
「心配なんて……。でも、なぜ、大鷹さんは河合さんのことを知っていたのですか?」
大鷹さんの言葉を信用できないわけではない。ただ、私の心がすっきりしないだけだ。この気持ちが何なのか考えたら終わりである。考えないように、疑問に思ったことを大鷹さんに質問する。
「紗々さんが話していたでしょう?『話し方が独特で、河合さんという26歳の中途採用の女性がうちにきた』と。そして、『僕のことをしきりに知りたがっている』とも言っていましたよね」
そういえば、夕食時にそんなことを話したかもしれない。しかし、それだけで元カノかどうかわかるものだろうか。
「勘ですよ。なんとなく、嫌な予感がしたので、電話してみただけです。でも、当たっていて良かった」
「ていうか、おおたかっちが、倉敷先輩と結婚していたとはね。あれ、そうなると、おおたかっちは、腐男子ってやつだったの?だったら、私にも話してくれれば良かったのに」
河合さんが空気を読まずに、大鷹さんに話しかける。それに対して、私を置いてきぼりにして、大鷹さんが返答する。
「河合さんといたときは、腐男子ではありませんでした。紗々さんがBL
ボーイズラブ
の魅力を教えてくれたんですよ」
「ふうん。もし、私がBL好きで、腐女子だって暴露して、一緒に鑑賞しようと誘ったら、おおたかっちは、今でも私とつき合っていたのかな」
大鷹さんと河合さんが私をさしおいて、会話をしている。大鷹さんも表情はわからないが、無視することなく会話を続けている辺り、彼女のことを嫌いではないのだろう。そう思うとなんだか、無性に嫌な気持ちになったので、河合さんからスマホを奪い返してやった。
「大鷹さん、私、今からすぐに帰ります」
「えええ!」
「僕が迎えにいき」
「車なので大丈夫です。では」
大鷹さんの言葉を最後まで聞かずに、強制的に通話を終了した。
「私に対して、嫉妬したんですかあ!」
「しちゃいけませんか?」
「別にー。まあ、今日はもう、ゆっくり落ち着いて話はできそうにないから、いろいろ積もる話は、倉敷先輩の家でしましょう!おおたかっちも交えて、三人でどうでしょうか」
「お邪魔しました。夕食とデザートありがとうございました」
私の気持ちを知ってか知らずか、あっけらかんと次の予定を立てる彼女に、私は何も返すことはなく、河合さんの家を後にした。
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