4二次元と現実の区別をつけましょう~いいネタを思いつきました④~
「先ほどはすいませんでした。」
ということで、今は、大鷹さんが私の部屋で土下座して謝っている。別に土下座してもらう必要はないのだが、まあ、今回はこれで許すことにしよう。
大鷹さんの酔いはさめたのだろうが、いったいどこで何をしていたのだろう。最近、週末は私と一緒に過ごすことが多い大鷹さんが、珍しく酒に酔って帰ってきた。大鷹さんは、結構酒に強いらしい。以前、結婚前のデートで、自分はあまり酒に酔ったことがないと言っていたはずだ。それが、泥酔して、私の逆鱗に触れる行動をとった。
何か深刻な悩みがあるのかもしれない。そうとしか考えられない。悩みを忘れるためか、やけになったのか。悩みというのは一つしかないだろう。きっと、私との結婚について、誰かに相談していたのだ。
相談しているうちに、今までの不満が吹き出して、つい飲みすぎてしまったに違いない。いったい、誰と飲んでいたのだろうか。会社の同僚か、学生時代の友達または同級生か、元カノ(元カレ)か。元カノ(元カレ)説は、かませ臭がするので、この場合は除外しておこう。
相手を推測する。ここで私が一番萌える相手は、会社の同僚だろう。できれば同性が望ましい。親身に大鷹さんの悩みを聞く同僚。実はその同僚はつい最近、妻と離婚したばかり。もともと、その同僚は同性愛者であったが、それを隠すために結婚をした。だが、妻には自分の性癖を隠し切れなかったらしい。
妻に自分の性癖がばれてしまい。それがきっかけで夫婦間の仲がぎくしゃくした。そして、先日離婚したというわけだ。
大鷹さんも、自分の妻が潔癖症で、寝室も別であり、さらに妻は、自分に違う相手に恋愛しろと強要してくる。自分は好きなのに、それがつらくて仕方ない。
そんなこんなで、二人の距離は徐々に縮まり、ついに、飲み会の後に大鷹さんは同僚の家に上がり込む。そのころには、大鷹さんも同僚の性癖について知ることとなる。知っていて大鷹さんはついていったのだ。
こうして、二人は一線を越えてしまう。ちなみに私としては、同僚は小柄な可愛らしい感じの小動物系男子がいい。対して、大鷹さんはイケメンクールメガネ。大鷹さんはメガネをかけていないが、ここではメガネキャラにしておこう。私のたんなる趣味である。
同僚と一夜をともにし、さらには一線を越えてしまった大鷹さんは、私に対して罪悪感を持つ。同僚は、ここぞとばかりに、大鷹さんの耳元でささやくのだ。もちろん、大鷹さんが攻めで、同僚は受けがいい。
「こんなに攻が思っているのに、それに応えようとしない、そんな薄情な女に僕らの仲を見せつけてやればいい。まさか、男に負けるのは悔しいだろう。きっと逃がした獲物は大きいと気づくはず。攻を手放したこと、後悔させてやればいい。」
耳もとでささやく同僚の言葉に大鷹さんは心が揺らいでいく。
そして、最終的に私に別れを切り出すのだ。私はあえて、悲しそうなふりをするが、心の中ではガッツポーズだ。表面上は悲しそうに離婚届にサインをする。中身は大鷹さんの恋を全力応援する気満々だ。
ウハウハな妄想をしたが、2つ問題がある。そもそも、これは私の妄想であり、実際に大鷹さんが家に帰ってこなかったのは、泊りの出張やその他のやむを得ない事情だけであった。私にあらかじめ話している以外に、家に帰ってこなかったことはないのだ。あくまで、これは私の妄想で、実際にはありえない。
私に言わずに外泊したことはないので、寝取られ説は違うということになる。この寝取られ説は誰にでも使える万能な案だと思うが、却下された。会社の同僚(同性)以外にも、会社の同僚(異性)や学生時代の友達や同級生など、誰にでも当てはめて使うことできるのに、残念である。
もう一つは、同性だと子供ができないということだ。それでは、私の持論に反するので、しぶしぶこの案も却下せざるを得ない。BL世界だけでなく、現実世界まで少子化を進める必要はない。
「はあ。」
一生懸命、私の腐った頭をフル回転させて考えたのだが、ピンとくる相手が見つからない。考えすぎて、ため息がこぼれてしまう。こうなったら、直接、大鷹さんに聞くまでだ。
大鷹さんと一緒に飲んでいた相手を真剣に考えている私の姿を、大鷹さんはじっと見つめていた。そんな視線をものともせずに、真剣に妄想していたが、自分のため息ではっと我に返り、大鷹さんの視線に気づくと、苦笑されてしまった。
「もしかして、一緒に飲みに行った相手が気になりますか。」
「教えてくれるんですか。」
「構いませんよ。だって、一緒に飲んでいたのは、弟ですから。」
「ガーン。」
私の予想は大きく外れることになった。まさかの弟とは考え付かなかった。ということは、兄×弟か、弟×兄か。まあ、私としては、大鷹さんは基本的に攻めキャラがいいので、兄×弟一択である。
弟といえば、大鷹さんに似て、イケメンである。タイプは違っていて、大鷹さんが知的なインテリイケメンに対して、弟はチャラい系のイケメンだ。私は現実ではあまり好きなタイプではないが、二次元では大好物のヤンキー系に分類されるので、ここは我慢するしかないだろう。
そうか、そうか。弟が本命だったとは知らなかった。さて、そうなると、大鷹家は大鷹さんの代で遺伝子が途絶えてしまう。それはいけない。どうにかして、遺伝子だけでも残すべきだ。貴重なイケメン遺伝子をどうやって後世に残したらいいだろうか。
私が再びうんうん考え込んでいるのを見て、何かやばい気配を感じたのだろう。慌てて弁解を始めた。
「何かやばそうな想像をしている気がするので、訂正しますが、断じて、弟とは、紗々さんが考えるような関係になりませんから。ただ、弟夫婦に子供できたという報告を受けて、弟に飲みに誘われたんですよ。本当は紗々さんのことを後回しにして、行きたくなかったのですが、今日しかあいている日がないと言われてしまって。断じて違いますから。いくら僕でも、弟となんてありえませんから。」
やけに弟との関係を否定されてしまった。そんなに真剣に否定されては納得するしかないだろう。否定すればするほど、疑いたくなるのだが、大鷹さんに限ってあり得ないので、素直に信じることにした。
「そうそう、あのへんなペンネームで感想を書いたのは大鷹さんですよね。ああいうのやめてもらえますか。」
話題を変えて、本題に戻る。弟と分かった時点で、離婚の話を持ち出されることはない。それに、妄想も外れてしまったので、キャッキャ、ウフフの展開はこの後に期待できない。
それにしても、あの感想とペンネームはいただけない。感想なら面と向かって言ってくれればいいのだ。
「だって、あれはさすがに僕でも悲しくなりますよ。どうして、小説の中の僕たちのモデルはあんなに仲良しなんですか。小説の中で二人が甘々なのが許せません。」
「いいじゃないですか。あれはしょせん、フィクションで実在の人物、団体、地名等は関係ありません。そういうことになっていますから。」
「そういう問題ではありません。なんで僕たちより早く、行為に励もうとしてるのですか。紗々さんはどうして、二次元は良くて、現実がダメなんですか。」
「二次元と現実をわきまえていると言ってください。」
私と大鷹さんは、夜が明けるまで、私のBL小説の内容で口論を続けた。最終的に大鷹さんを納得させることができたので、このまま小説を書き続けることができたのだった。
条件として、「僕と離婚したいと言わないこと」「僕と離婚しないこと」というものだった。
「大鷹さんが私より好きな人、理想の結婚相手が見つからない限り、離婚はしないので安心してください。」
後日、私が思いついたグリムの擬人化の話を投稿した時の大鷹さんの絶望顔は見ていてとても面白かった。
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