ラストショット

勝利だギューちゃん

第1話

カメラが趣味だ。

フィルムカメラの頃から、たくさん撮影している。


人物、動物、風景、乗り物・・・

撮影しないもののほうが、無い方が少ないだろう。

(もちろん、盗撮などの犯罪はしない)


でも、自分は写真に撮影されるのは嫌いなので、

わがままだなと、自分でも思う。


でも、プロのカメラマンではない。

あくまでも、趣味に留めている。


でも、ひとつだけ、撮影ができていないものがある。

それは・・・


「あっ、それカメラ?」

「うん」

「一眼レフじゃない。すごい!どうしたの?」

「バイトして買った」

「・・・で、何か撮るか決めた?」

「まだだけど」

「じゃあ、私を撮ってよ」

「君は、モデルか?」

「うん、君専属のね。君以外には、撮らせない」

「よく言うよ」


他愛のない会話だった。

てっきり冗談だと思った。

誰でも、そう思うだろう・・・


でも、冗談ではなくなった。


彼女が病院に搬送されたと知り、

あわてて病院に駆け付けた。


病室には、彼女が笑顔で出迎えてくれた。

「あら、どうしたの?」

「どうしたのって、倒れたって聞いたから、心配で・・・」

「誰から?」

「君のご両親」

「もう、パパもママも大袈裟ね。ただの胃炎よ」

「食べ過ぎ?」

「うん」

「あきれた・・・でも、安心したよ」

「ごめんね、心配かけて、もう平気だから」

安心したよ、もっと重病かと・・・


仕事があるので、それを彼女に伝え、病室を出た。

そこで、彼女のご両親に出会い、挨拶をして帰ろうとした時、

呼びとめられた。


お医者さんもいたので、彼女のご両親と、俺の3人で話を聞いた。

すると、驚愕の事実が告げられた。


彼女は末期の胃がんで、余命が3カ月だと・・・

彼女はその事には伏せていると・・・


「でも、あいつは勘が言い。おそらくは気付いている」

出来る限りそばにいてやりたかった。


しかし、逆に不安をあおると考えた俺は、敢えてそれをさけた。

いつも通りにふるまった。


あの一眼レフは、まだ使っていない。


それから、2か月程して彼女からメールが来た。

「カメラをもって、いつもの公園に来て下さい」

俺は、すぐに駆け付けた。


「どうしたの?急に呼び出して」

「ううん。ただ散歩がしたくなって、付き合ってくれる?」

「いいけど・・・」

「あっ、あのカメラ持ってきてくれたんだね。ありがとう」

彼女は満面の笑みを浮かべたが、その笑顔の中に寂しさを感じた。


しばらく2人で歩いた。

他愛のない会話をした。

初めてデートした時のこと、昔の思い出など、とても楽しかった。


そして、ある大きな杉の木の下にきた。

「覚えてる?この杉の木」

「ああ、俺が君に告白した木だね」

「覚えていてくれたんだ。ありがとう」

忘れられるはずもない。

あれだけ、緊張したのは初めてだ。


「私、凄くうれしかったんだよ。待ってたから・・・」

「えっ」

彼女は微笑む。


「ねえ、そのカメラで私を撮ってよ」

「えっ、でも?」

「私が、モデルになってあげるの。感謝してね。本来ならモデル料取るけど。

特別に、ただで撮らせてあげるから」

そういって、彼女は木の下の下に立った。


気がつかなかったが、彼女はとてもおしゃれをしている。

しかも、俺が好きだと言った服を着ていた。


せっかくだからと、いろいろと注文をつけた。

さすがに、怒られた。

「もう、注文がうるさい。撮るよモデル料」

「わかった。ごめんごめん」

そういって、シャッターを押した。


一緒に見る。


「うわあ。とてもかわいい。誰だろうね、この女の子」

ふたりで、笑った。


そして、これがこのカメラで写した、最初で最後の写真となった。

次に彼女に会ったとき、彼女はすでに、霊安室に安置されていた。


彼女のあの写真は、ご両親と、本人仁希望で、遺影になっている。


俺と彼女のラストショットだった。

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ラストショット 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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