第6話 ランブレッタ
バイク屋の店主はのっけから言った。
「今、うちにヴェスパの在庫はありません。」
陽が、なら何で呼びつけたのか、と不愉快そうな顔をした。その顔も美しい。
「ヴェスパも古いのから新しいもの、小さいのから大きいのまで色々あります。ぼちぼちの値段のもあれば、プレミアがついているようなのもあります。」
「もし希望のモデルがあれば、時間がかかるかも知れませんが、それを探します。」
陽は少し考え込んだ。元々は美生のヴェスパ100に一目惚れした訳だが、その後自分で調べて、ヴェスパには多くのモデルがあることも知っている。トリシティを買ってしまったこともあって、ヴェスパはよりクラシックなモデルに少し目移りしていた。
店主は、1台のスクーターを引っ張り出して来た。
「ヴェスパではないですが、こんなのならあります。」
そのスクーターはちょっと変わった見た目だった。スクーターのカバーがなく、メカニズムがむき出しである。シートの下にアルミの弁当箱のようなガソリンタンクがついている。
「これは、イタリアのイノチェンティ社の1950年代のスクーターで、ランブレッタモデルDと言います。日本ではヴェスパの方が圧倒的に有名ですが、ランブレッタはヴェスパと並んで双璧と言われたメジャーなスクーターでした。」
陽が一目でランブレッタを気に入ったのが、美生たちにはわかった。
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