蝶々

氷見 実非

蝶々

また、人間に仲間が捕まえられた。今月で、どのくらい、いなくなったのだろか。人間は、本当に自分勝手だ。俺達がゆらゆらと飛んで、花の上で休憩しているところに、興味本位で羽を掴んでくる。そのあとの行方は、俺達には分からない。恐らくは、人間に飼い慣らされているか、どこかで死んでいるかのどちらかだろう。


ただ、俺達にとって人間よりも厄介なのは蜘蛛だ。蜘蛛は、自分の範疇に入ってきた奴は必ず殺す。だが、すぐには殺さない。自分の巣で捕らえておいて、殺すタイミングを見計らっている。蜘蛛の巣から逃げ出せた奴は殆どいない。蜘蛛の巣に捕まれば、自由の身だった頃の自分を回顧せずにはいられないだろう。ましてや、あの頃の自分に戻りたいと考え、蜘蛛の巣から抜け出そうすれば、逆に死ぬ時を早めてしまう。つまり、何も出来ないのだ。ただ、殺されることを待つことしか出来ない。


そんな事を考えていると、結局俺達は人間と似ているのではないか、と思い始めた。人間の中には、社会の束縛から抜け出そうとする奴がいると聞いたことがある。人間も、仕事なんか辞めて、自由だったあの頃に戻りたい、と考えているのだろう。ただ、家族を養わなければ、などと考えている内に、我慢するしかなくなっている。丁度、蜘蛛に捕まった仲間を見ているような気分だ。俺達の"蜘蛛に殺されるのを待っている状況"は、人間の"全ての社会の束縛を受け入れる"ことに等しいのかもしれない。違うのは、俺達は少しでも気を付ければ、その状況を回避できるということだろうか。人間は大人になれば、殆どが社会の束縛に、一度は捕まるらしい。そこから抜け出すのは、俺達と同様に危険を伴うことなのだろう。

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