第3話
翌日も雨が続いた。
強風は治まってきたが雨は止まずに降り続いた。
何も出来ず、家の中から雨が降ってる様をただ、ぼーーっと見ているだけの自分だった。
ヨシばあが、
「 随分降るねーー、土砂崩れとか川の水が氾濫とか無ければいいけど 」
「川が氾濫する事、あるの? 」
「たまにあるよ。その度に護岸工事の計画がでるんだけどね。此処より下の方、ナカちゃんの家の下流側は色んな川がぶつかって雨が降らなくても水かさが多いからね 」
「自然そのままって言うのも、大変なんだね 」
「 良いことも悪いことも起こるのが自然て言うもんだよ。石探ししているアキラにとっては良い事かもね 」
「 ん? 」
一瞬ヨシばあの言った意味が理解出来なく困惑した表情をしてしまった。
「 雨が降って、川が増水したら上から色んな物が流されてくるからアキラが探している石も流れてくるかもよ 」
「 あっ、なるほど…… 」
「 ま、石だけじゃなく余計な物も流れて来るから上手くいく訳じゃないけど。ただアキラ、暫く川に行くのはやめた方がいいよ。危ないから 」
「 あっ、うん。わかった 」
普通の時でさえ、下流の方は危ない川なのでヨシばあの忠告に重みを感じた。
午後になりやっと少し雨が小降りになり始めた。ほぼ丸一日、強い雨が降り続いた事になる。
『川はどの位、増水したのだろうか 』
『ポー達は、大丈夫なのかな? 』
すっかり石の事よりもポーの事を案ずる様になっていた自分。
小さな熊のポーだが、所詮は自然の中で生きている熊。森の中でじっとして大丈夫だろうと自分に言い聞かせていた。
雨は、小降りにはなったが相変わらず降り続いた。流石に相当な雨が降った為、小さな集落にも少しずつ被害が出てきた。低くなっている道路には水が溜まり畑にも水が溜まり、強風が吹いたせいで木が折れ道を塞いでしまったりと色んな被害が出てきた。
小降りになってからは集落の人たちが心配そうに外に出て来て被害の状況を確認していた。
ヨシばあも高齢であるし普段は一人で暮らしている為、様子を見に人が訪ねて回っていた。そんな人達の中にナカさんもいた。この集落はヨシばあの様な高齢の方が多いのでナカさん位の人達が積極的に動いている。自分から見ればナカさんもそれなりの歳なのに、この集落ではまだまだ若手ということだろうか。
「 おーーい、ヨシさん! 大丈夫か〜〜」
ナカさんが声を掛けにやって来た。
「 大丈夫だーー、ナカちゃんの所こそ大丈夫なのかい? 」
「 川は、かなり水多いけどウチは離れてるから大丈夫だ 」
その話を聞き、思わずナカさんに話しかけた。
「 ナカさん。川は…… かなり多いの? 」
「おーー、アキラ。川は凄いぞ!暫くは行くなよ! 流石に危ないから。水量も多いし木や岩も流れて来てるし、下流の渓谷辺りは土砂崩れもなってそうだし 」
「 土砂崩れ?下流ですか? 」
「 見たわけじゃないからわからんけどな。ゴゴゴって音してたからな、何処が崩れただろう。だから行くなよ 」
「 あっ、はい 」
「 じゃあな、ヨシさん頼むぞ!アキラ 」
そう言い残しナカさんはまだ雨がしとしと降っている暗い空の下、行ってしまった。
『 下流の方か…… 川に行っていないだろうなぁ、ポーは。大丈夫かな? 大人しくしてろよ!暫くはメロンパンも持って行ってあげられないから 』
ポー達の事が気になっていたが何も出来ない状況。
ヨシばあは、静かに家の中で裁縫をしていた。自分もやるべき事をやろうと思い、参考書を取り出し勉強を始めた。
本音としては大学受験の勉強よりは、今色々と悩ませているポー達や瑠璃の事、この集落に伝わる言い伝え等の事を知りたかったが、話を聞こうと思っていたナカさんがそれどころでは無く忙しそうなので仕方無く本来やらなければいけない勉強をする事に。
『 仕方無くと言ってる段階で、自分は駄目なんだろうな。何やってるのだろう、二浪もして…… 。よし!本気だそう! 』
何度目の本気だろうか……
雨は、どんどん小降りになったがそれでも完全に止むことは無かった。
お陰で珍しく長い時間、勉強していた。
夜も静かな時間が続き、皆が明日には天候が回復する事を願っていた夜だった。
次の日、朝早く目が覚めた。
思わず真っ先に窓の外を見た。
雨は止んでいた様だが…… 暗く、厚い雲が一面に広がっていた空だった。
「 んーー まだ天気は良くならないかーー 」
思い通りにはならない自然が相手。
流石に何も出来ない日が続くと、体がムズムズしてきた。
「 あれ、アキラ。随分今日は早起きだね。する事無くて寝てるのも嫌になったかい? 」
ヨシばあが朝から元気に声を掛けてくれた。
「 雨は、ぬけた様だよ。まだ天気は良くないけど。被害も大して無かった様だし。もう少ししたら天気も良くなって、また石探しできるね。雨のお陰で良い物流れて来たらいいのにねーー 」
相変わらずポジティブなヨシばあ。
あんなに降った雨でさえ、悪くは言わず良い方に捉えて……
『 確かに…… 今迄とは、また違った感じになるかもな。川辺の様子も 』
『 瑠璃黒曜 』を探す自分にとっては、新たな展開が期待出来る可能性はあるが……
しかしそれよりも気になっていた事があった。
『 いつも集落の商店にパンを置いてくれるパン屋さん。メロンパンはいつ置いてくれるのだろう 』
早く…… ポーにメロンパンをあげたい気持ちが強かった。
『 神様。早く天気を良くして川の水も普通にしてください〜〜 』
曇り空に向かい手を合わせた。
第3話 終
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