金魚鉢 長編版

猫目 青

序章

 さて、何から話そうか。

 我ら亜人が、その発現から貴殿ら人間に追害されてきた歴史は誰もが知るものだろう。

 なぜなら我らは人ではない。亜人なのだから。

 では、なぜ我らは人の腹から生まれてくるのか。

 なぜ、人を父母に持ち人を慈しむのか。

 それでも貴殿ら人は我らを同胞とは見做さない。

 貴殿らにとって、我らはさしずめ金魚という所か。狭い金魚鉢の中に押し込められ、気に食わなければ鉢の水を抜かれて殺される。

 生かすも殺すも貴殿らの自由。ただ気まぐれにより生かされているだけの異形。

 だから、我らは金魚鉢の中から出ていこう。水がなく息絶えるだけの地上で我らは生き続けよう。

 死に絶える金魚たちは、鉢に取り残された同胞の希望となる。

 我らはその希望となろう。

 我等自身の命を以て――





 1948年 泰 旧独逸領 蒼猫島 遊郭都市 金魚鉢で放送されたラジオ放送。その数年前に無条件降伏した極東の皇が宣言した玉音放送を模したという説があることから、亜人たちの玉音放送とも言われている――


 このラジオ放送があったその日に、金魚鉢で世界を揺るがす悲劇が起きた。

 人々はその悲劇をこう呼ぶ。

 亜人の福音と――








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