30 王位真偽戦争 3
「『我が国、サームクェイドは戦争中のジンガーム軍と停戦し、和平をここに結ぶ。今は亡きアッセェン・ヴェル・サームクェイドに代わり、王位継承したティアリーズ・クレン・サームクェイドがここに宣言する』です」
まさかの出来事に3騎士は立ち上がり、何かの間違いではと困惑する。
ムルジナは会議室から早足で出た。
「ム、ムルジナ殿! どちらへ!?」
「姫……いや! 女王のもとだ!」
「敵の罠の可能性があります! 今貴方が離れたら、誰が貴方の部隊を指揮するのです!」
「お主で指揮すれば良かろうッ!!」
「そういう問題では無いと言っているのですッ!!」
セッコクがムルジナを止めるため、説得をするがそれを聞こうとしない。
確かにセッコクの言い分もあるが、それ以上に、
「この様な事……!! 誰が納得出来るかッ!! もしや姫は誰かに操られているかも知れぬッ!! なら、ワシがこの目で確かめるまでだッ!!」
「――なるほど? そんなに私が疑わしいのですか?」
ムルジナとセッコクの前に現れたのは、現女王のティアリーズ・クレン・サームクェイド。
驚きすぎて口が開きっぱなしになるムルジナとセッコク。
はッと我に返り、ムルジナはティアに近づく。
「女王陛下、これは何かの作戦でしょう?」
「何がでしょう?」
「な、何がと……申されましても……この停戦と和平でございます」
「それですか……」
ハァ……と1つ深いため息を付く。
「跪きなさい、ムルジナ! 我は王であるぞ!!」
圧倒的な存在感を放ち、ムルジナは瞬時に跪く。
「し、失礼いたしました女王陛下!」
「良いです。ムルジナ、顔を上げなさい」
ムルジナは無言で顔を上げる。
「ええ、本当です。ジンガームとはこれから良い関係を築いていくつもりです」
満面の笑みを浮かべるティアにムルジナは失望した。
「ティア……?」
砦を抜けようとしていたアイリス・イリム・サームクェイドが、信じられない光景を目の当たりして硬直している。
それもその筈だ、3騎士ですら動揺を隠しきれていない。
何故なら、
「何で……2人もいるの?」
解毒を飲み、多少なりと良くはなり歩ける位には治ったティアと女王の威厳のあるティアがその場に居合わせた。
「何をしているんですか! あれは偽物ですよ!」
女王の威厳あるティアが言い放つ。
だが、大公妃のアメリア・エリン・サームクェイドが1歩前に出る。
「どこに証拠があるのでしょう?」
「叔母様、危険です。その偽物から離れて下さい」
「この子は本物です。何故なら、今の今まで部屋から出ていませんから」
「それは違います。私は部屋から出ました。それも、しっかりとお医者様に薬を貰ってから、です。アイリスと叔母様も見ていた筈です、私がせき込み少し零してしまった薬にその薬を飲み切った後、庭園に行ったことも」
「入口を見ていたのです。誰も庭園には入りませんでした」
その一言を言った瞬間、威厳のあるティアがもう1人のティアへ指を差す。
「ええ、そうでしょう……私は庭園でその偽物に睡眠薬を飲まされ、拘束されていました。それを抜けだし、急いで騎士さんを使いここまで来たのです」
アメリアは庭園内を見た訳では無く、その事に関しては反論する事が出来ない。
憶測だとも言えるが、それではこの場にいる兵や、3騎士を納得させるには足りないのだ。
だからこそ、アメリアは亡き王アッセェンの言葉を信じ、
「良いでしょう……私、アメリア・エリン・サームクェイドは反サームクェイドとして貴方達と対峙いたします」
全員に言い切ったのだ。
「捉えろッ!!」
兵たちがアメリア達を捉えようとした瞬間、砦の壁が破壊された。
それも
『御三方!! こちらへッ!!』
瓦礫と砂埃が舞う中、ベルクラースの騎乗する
「何をしているのですか!! すぐに追いなさいッ!」
「は、ハッ!!」
すぐさま指示を出し、もう1人のティアを追うようにさせた。
その姿を見たムルジナは黙り込み、威厳のあるティアを見てから、
「私が奴を追おう」
「許可します、行ってきなさいムルジナ」
「仰せのままに」
その場を離れ、格納庫に行き自身の
ベルクラースは3人を連れ、急いでデウンへ向かう。
既にベルクラースの部下はデウンに向かわせており、ある程度の場所まで行けば援護をもらう予定だった。
何よりベルクラースは自身で見つけた独自のルートで追っ手を振り切っており、後は無理せずデウンへ足を運ばせるのみだが、
「待っておったぞ」
黄色を基調とした重騎士の
「ムルジナ殿……」
「……ベルクラース、ワシの目はまだ老いてはおらんぞ?」
その言葉の真意を悟ったベルクラースは、ムルジナへ近づく。
ムルジナは『そこに居るのが本物だ』とベルクラースに伝えていた。
ベルクラースは操縦席から姿を現し、
「貴方なら信じてくれると思って居りました」
「当たり前だ。さぁ、デウンへ向かうぞ」
反サームクェイド軍に2人の騎士が加わった瞬間である。
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