異なもの奇なもの異世界録~この世界の理(コトワリ)~
村主降星
序章 始まりはいつもテンプレート
「夏はもうすぐ終わるよ」
そう言いたげな風が、汗と泥にまみれた顔を一時の清涼感として撫でてゆく。
空を見上げれば、小さな固まりがたくさん集まったいわし雲が浮かんでいる。
そんな光景をぼんやり眺めていると、季節は秋へと流れていくことが何となく実感できた。
「アニー、アニー!」
「はぁ~い、ご主人様!」
「少し早いが今日はここまでにしよう。帰りにお茶でもしながらギルドに寄ろうか!」
籐製の籠の中には、ムラサキ草、ニガヨモギ、カミツレ、ベラドンナ・・・今日は予想以上に各種薬草が採集できたし、それ以上に光ベニダケやドラゴンソーンといったレア物の収穫もあった。
太陽が傾くにはまだ少し早い時間だったが、こんな日は早々に切り上げて帰るのもいいだろう。
「はい。お茶ですね~ウヒッ」
アニーと呼ばれたエルフ族の娘は、ニッコリと満面の笑みを俺に注いだ。
屈託のない彼女のその笑顔が、俺はたまらなく好きだった。
街から遠くない城外の草原。
アニーのLv上げの為、冒険者ギルドの手頃な採集クエストを請け、街近郊のホビットの丘と呼ばれている場所へと出向いていた。
モンスター討伐に躍起になっている輩たちから見れば、冒険者ランクの低い初心者用と思われがちな採集クエストではあるが、実は意外と馬鹿にならない報酬と経験値が得られる。
入手困難な薬草採集の依頼であればあるほど、実入りの良い隠しクエストとも言えた。
何故なら・・・俺には採集スキルMAXという他言できない能力が備わっていたからだ。
普通の者が雑草としか見えない物でも、スキル保有者の俺にはネーム付きの薬草と認識できるものが存在する。
そしてその発見した薬草は、薬草ランクによって採集者のスキルLvで採集物が上位変換するシステムになっているようだ。
だから危険な場所に赴かなくても、安全な場所で稀に採集できることもあるというわけなのである。
それは単なる一例に過ぎないが、冒険者ギルドでの説明によれば、この世界では、どのようなスキルに関してもMAXなんてのはあり得ない、あってはいけない数値のようだった。
だから口外することは、我が身を危険に晒すことになり兼ねないと自分自身を戒めることにした。
アニーと肩を並べ城壁の南門から街に入る。
そこは商業区の中でも商館や商店が連なる場所とは趣が異なり、活力漲る露天商たちが所狭しとひしめき合っている通りだった。
王都バサラッドはアドリア王国の都らしく活気に満ちた街で、人種と呼ばれているヒューマンから獣人、エルフ、ドワーフなど多種多様な種族が共存し、それぞれのその活力が街全体を動かすエネルギーになっているように感じられた。
そんな賑わいを見せる通りの光景を横目に、俺たちは馴染みのカフェへと向かうため角を右に折れた。
鼻歌まじりで傍らに寄り添うアニーはとても上機嫌そうに見える。
アニー・ベルハート(エルフ族)年齢不詳
長命種のエルフ族なので実年齢は不明。
本人は17歳だと宣言中!
金髪蒼眼で肌が白く、エルフ族特有の美人である。
特に、嬉しいと頬を染めながらピクピクと動く尖った耳がとても愛らしい。
日頃の言動から考えてみても、成人してそんなに遠くない感じが伝わってくるので、自称年齢も満更嘘でないのかも知れない。
ちなみに、この国における成人年齢は15歳であるらしい。
彼女との出会いはと言えば・・・
以前、王都へ向かっている最中、ひと気のない森で奴隷商人らしき集団が彼女を捕縛しようとしていたところに偶然出くわし、手練れの護衛がいるわけでも無かったので、アッサリと商人たちから解放できたことが始まりとなった。
彼女にとっては、冒険者になるためにエルフの森を旅立ち、そして王都バサラッドを目指していた途上での出来事だったようだ。
その時助けられたことを恩に感じているのか、彼女の意図する真意はいまだ過ってわからないが・・・奴隷で無いにも係わらず俺のことを『ご主人さま』と臆面もなく呼び続け、そして・・・現在に至るまで俺の隣に居座っている。
照れくささや恥ずかしさを感ずる反面、鬱陶しいとか煩わしいとかではなく、逆にこの地で生きることを決心した俺の心に潤いと癒しを与え続けてくれている。
俺にとって・・・彼女は、今や無くてはならない存在となってしまったようだ。
とても世話好きな性格でもあり、生活していく上での家事や身の回りの諸々の手間事などは彼女に任せている。
そのお陰もあり、まだ見知らぬ事柄への研究や探究が徐々に進みだした。
俺としては心底助かっているというのが本音だ。
彼女自身、「世話女房」的なこの立ち位置に満更でもなさそうだが、もちろん『嫁』ではない。
恋人?・・・いや、まだ今は、単なる同居人であるというのが正解だろう。
そして俺は・・・
俺はと言えば・・・
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