第011話 「魔獣と戦う」
10歳になった。
僕の体は順調に育っている。
年相応よりは明らかに身長が低いのは前世と同じだ。
ただ髪は真白だ。
その点だけは前世と違う。
チビなりに5歳の時と比べたら相当大きくなっているので成長は順調だということにしている。
精神的には何も変わっていないと思う。
大人ぶるわけでも子供ぶるわけでもなく素直に思った事を口にだして表情にだして暮らしている。
僕の言ってる事を家族は理解できる。
ほぼ100パーセント伝わってると思う。
けど、家族の言ってる事は動物の鳴き声にしか聞こえない。
これはずっと変わらない。
大人達はそんな僕に気を使って獣組だけで長話をする様なことはしない様にしてくれてるのが分かる。
そんな気を使わなくても良いと思っているけれど、その思いやりはやっぱり暖かく感じる。
僕の言葉はみんなに分かっているもらえるから、僕は何でも大人達に話すし妹達とも良くお喋りをする。
皆が細かい説明を僕に伝える時には少し困ることがあるけど、今ではそれも全く気にならないし不便も全く感じない。
体が大きくなると、妹達を抱いたりオブったりするのが楽になるのがいい。
今でも毎日ジャレあいながら過ごしている。
やってる事はもちろん5歳の時と何ら変わっていない。
最近のお気に入りは、『のし棒』という遊びだ。
僕は妹達にこの遊びの成り立ちを説明する――遊びではないか。
『のし棒』とはピザの生地を伸ばしたり時に使う木の棒のことを言う。
ハクビが横になっている時に、お腹をゴシゴシ撫でると、気持ちがいいのか両手両足をそれぞれ上下に精一杯伸ばす。
その体勢は真っ直ぐの棒状に近い。
僕はそれを『のし棒』に見立てて前後に転がすのだ。
もちろん『のし棒』によって伸ばされる生地の役目はコロンだ。
僕が『のし棒』をコロンにぶつけると、コロンがケラケラ笑う。
ハクビもキャッキャ言って喜ぶので、最近僕らの中で流行っている。
♢
10歳になると修行も新たなステージに移った。
僕とハクビで魔獣との実戦だ。
魔獣とはこの森に生息する目の赤い狂暴な生き物で闘気とはまた違った独特の気を持っている。
魔獣は敵意の塊で他の動物達を意味なく殺したりする。
何を食べて生きているのか分からないが魔獣は野生動物を食べない。
だから自然界の食物連鎖からも外れた存在なのだ。
食糧調達で森を探索していると、無残に殺された野生動物達をよく見かけるし、魔獣が野生動物達を襲ってるところにもよく遭遇した。
その時はジジがあっという間に魔獣を倒してしまう。
僕らが戦闘に加わる事はジジに強く止められていた。
トトとカカが魔獣と絶対に接触させない様に言っているのだろう。
その魔獣達との実戦が遂に始まるのだ。
実戦は僕とハクビが2人チームで闘うことになった。
僕はハクビとコロンを守りたいからこの修行をしている。
だからハクビが全面的に実戦に参加をする事に反対した。
しかし、ものすごい剣幕で『ニャーニャニャ」言いながら、一緒に闘うと言い張ったので押し負けてしまった。
家の女性陣は強い――僕とトトとジジが弱いだけかも知れない。
ハクビ自身が強くなれば、傷つく可能性も減るだろうと自分を納得させた。
トトとカカが、魔獣役のジジと模擬戦をする。
チームでの動き方、連携の仕方を見せてくれる。
トトとカカはおそらく昔から連携して何かと戦って来たのだろう。
前衛のトトが闘気で戦い、後衛のカカが魔法で援護しながら戦う。
カカはトトが傷を負ったら間髪入れずに回復させる。
そして、遠距離から魔法で相手を攻撃して気を逸らせる。
その隙にトトが近距離で決定打を打ち込みやすくする。
これをかなりの速さで掛け声もなく連携する。
前衛後衛の考え方はトトとカカの関係でもそうだし、僕とハクビの関係でも当てはまる。
僕とハクビは両方とも魔法と闘気が使えるが、僕は闘気の方が得意だし、ハクビは魔法の方が得意だった。
だから必然的に僕が前衛でハクビが後衛となる。
前衛と後衛の戦い方を何度か見せてもらった後、僕らもジジを相手に模擬戦を繰り返した。
ある程度の連携が出来るようになったところで初めての実戦となった。
相手はあの巨大イノシシ。
森でも一番よく見かけるし、僕にとっても思い入れの強い魔獣だ。
どこからかトトが連れてきた。
広めの平原で僕らとデカイノシシは相対する。
実際に本当の敵意を向けられると、何とも言えない緊張感がある。
命の取り合い。
目の前の魔獣は本気で僕らを殺そうとしている。
殺らなきゃ殺られる。
後ろのハクビを傷つけられるかもしれない。
肌からその空気が伝わってくる。
事前に決めてあった通り、前衛の僕が先手をとって全力で突っ込み、拳をイノシシの腹部に叩き込む――思った通りに動けた。
《バタン》
イノシシは一瞬固まると目を閉じて倒れた。
「ハァハァ」
息が切れる――1撃分しか動いてないのに。
やっぱり実践は全然違う。
変な汗がいっぱいでてくる。
するとハクビがノソノソと近づいてきた。
不満そうな顔をしているのがわかる。
僕らの初めての実戦においてハクビは一歩も動かずに終わってしまったからだ。
「ゴメンよ。ハクビ」
僕はハクビの耳の後ろをゴシゴシして機嫌をとる。
ハクビは気持ちよさそうな顔をして地面に背をつけてゴロンゴロンする。
許してくれたようだ。
遊んでると思ったのかコロンが駆け寄ってきて、ハクビと一緒にゴロンゴロンを始めて僕も力が抜ける。
こうして僕らは難なく初戦を終えた。
♢
それから約3年間で数え切れない程の魔獣と戦った。
ジジとの食料調達の時も向かってくる魔獣も僕とハクビで率先して倒した。
魔獣との戦いがハクビの野生スイッチにどんな影響を及ぼすのが少し心配だったのだけど、スイッチが入る頻度は変わらなかった。
今でもたまにスイッチが入るが、年々少なくなっているように思う。
子供の時の一時的な物だったとしたらうれしい。
ハクビに辛い思いをして欲しくない。
魔獣との戦いが始まっても、トトとカカとジジの今まで通りの修行もあるし、日課の修行も続けている。
この魔獣との実戦はある種のイベントとして通常の修行に組みこまれているのだ。
最初は僕とハクビ vs 魔獣1匹 だったのが、最後には魔獣10匹程度を一度に相手にするようになった。
色んな種類の魔獣が居た。
イノシシ
カバ
ワニ
鷲
コウモリ
蜘蛛
それぞれ僕が地球でみたことのある生き物に似ているが目が赤く色も形も微妙に異なっている。
そしてなんといっても、僕の知っているそれぞれの生き物のイメージより明らかに大きい。
蜘蛛なんかは魔獣と言えるのが分からないけど、ハクビよりも何倍も大きいので魔獣の一種なのだろう。
それに糸に捕まると身動きが取りづらくなったりして、イノシシなんかよりよっぽと手強い。
ヒヤッとする場面は幾度もあったけど、場合によってはジジに助太刀してもらいながら、僕らは実戦をこなしていった。
実戦は何があるかわないと考えているようで必ず家族全員で僕とハクビを見守ってくれる。
トトとカカとジジはいつでも助けに入れるように気を張ってくれているのはがわかる。
コロンはだいたいカカに抱かれているか、ジジの上に乗りながら見ている。
時々、ウトウトしてたりするので気は張っていない様に見える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます