第007話 「鳥の襲撃」
コロンの傷はカカの回復魔法では完全には癒えなかった。
だからカカは森で取ってきた薬草を調合して傷口に塗ってやることにした。
毎日水場で傷口を洗う。
新しい薬を塗ってきれいな布を巻いてやるのを繰り返す。
そしてご飯を食べさせてあげて抱きしめる。
僕もハクビも毎日それを手伝って一緒にコロンを抱きしめた。
数週間すると、ほとんど傷口がわからないくらいに回復した。
最初は警戒している様だったコロンも、傷が癒えて自由に動けるようになる頃にはすっかりリラックスして家族の一員になっていた。
【マジカルサルの暖か魔法】はどんな生き物の心も暖かくできるんだ。
なんてたって究極最強の魔法だからね。
僕はなんだかとってもカカが誇らしくてうれしくなる。
コロンが来て改めて気づいたが、ハクビもコロンも大人達と会話ができる。
大人達が言っている事を完全に理解できるようだ。
野生動物達は大人達と会話できないからコロンとハクビも特別な動物なのだろう。
コロンは僕らの中では一番体が小さいが子供というわけではない。
おそらく既にハムスターとしては成体なのだと思う。
コロンは誰よりも多く果物や肉や魚をムシャムシャ勢いよく食べる。
赤ちゃんはこんなに食べ物をムシャムシャ食べられないはずだ……
歯もしっかり生え揃っているし。
コロンは大人かも知れないけど、僕もハクビもコロンを一番下の妹として位置づけている。
おとなしい性格のコロンは滅多に鳴いたりしない。
面倒くさがりなのかいつもゴロゴロしている。
けどとっても甘えん坊で僕やハクビにいっつもくっついてくる。
歩くのが面倒なのか、甘えているのか、移動する時にハクビの背によじ登って移動したりする。
ハクビもそれが嫌じゃないらしい。
みんなで外に出る時は、コロンが背中に上りやすい様に後ろ足を畳んでお座りの様な姿勢をしてやる。
コロンがよじ登ってくるのを待ってやっているのだ。
♢
ネコと大きいハムスターみたいな獣妹2匹はいつも僕と一緒に行動するようになった。
昼間は1人と2匹でジジの背中にまたがって食糧調達に行く。
夜は1人と2匹でジャレあって、疲れたら葉の布団の部屋に行って1人と2匹でかたまって絡まって眠りにつく。
僕は朝に目を覚ますと、まず妹2匹の心音がどこにあるのかを確認する。
たまに僕の上で丸くなっているハクビの上にわざわざコロンがよじ登って丸くなっていることがある。
僕はこれを【
なるべく落とさないように【
二段になった【
僕はそれを見てとっても幸せな気持ちになる。
♢
僕らに手がかからなくなったというのもあるのだろう。
トトとカカとジジが3匹とも家を空ける時間ができるようになった。
大人達ははもしもの時の為を思ってお手製の柵を玄関と窓に取り付けた。
どこからか持ってきた丸太をカカが風魔法で加工してすぐに柵はできあがった。
ハクビはまだまだ小さく落ち着きがない。
だから、大人たちがいない間に勝手に外に出てしまう事を懸念したのだろう。
遠くには行かないだろうが、確かにハクビがいきなり外に出しまう可能性は僕もあると思う。
それに比べてコロンはおとなしく、家でゴロゴロかムシャムシャしているのが好きなので心配ないだろう。
玄関と窓に取り付けられた柵は取っ手が高い位置にある為、僕が立って手を伸ばしても届かない。
椅子動かして踏み台にしてよじ登れば届くかもしれないが、わざわざそこまでしてかわいい妹達を危険にさらしたくない。
換気の為にいつも開けっ放しにしている天井にほど近い位置にある大きめの窓には柵はつけられていない。
ハクビもあの位置まではジャンプできないからだ。
その日僕らは、カカが外に出て子供達だけになると、いつもの様に追いかけっこやレスリングをしながらジャレあって過ごしていた。
しばらくするとコロンがウトウトしてきた。
ハクビは未だ眠くなさそうだったが僕はそのタイミングでトイレに立った。
歩き回れるようになった僕は今ではちゃんとトイレで用を足している。
僕が用を足し終わった直後――
《ドドーン》
《バサバサバサ》
「ウニャーオーー」
この家で聞いたことのない音がリビングから聞こえる。
急いで部屋に戻ると赤い目の鷲? が家の中でバタバタ飛んでいる。
あの窓から侵入したのだろう。
よく見るとコロンが倒れてる。
右前足の付け根が切られている様で結構な血が出ているようだ。
ハクビも切り傷がいくつか見えるがどれも軽傷の様だ。
コロンを守る様に目一杯に毛を逆立てながら鳥を威嚇している。
僕は反射的に2匹のところに駆け寄った。
まとめて抱え込んで四つん這いになる。
赤目の鷲から妹達を隠す為に。
ハクビは『自分は外にでて戦う』と主張して僕の体から暴れ出ようとする。
僕は真剣にハクビにお願いする。
「ハクビ、いいからここに居て!
お願い、ハクビ!」
ハクビはすぐにおとなしなってくれた。
僕のお腹の下でコロンを舐めてあげている様だ。
《ズバン》
「うぅ」
赤目の鷲が攻撃してくる。
背中をナイフで切られた様な激痛が走る。
体が仰け反りそうになるのをなんとか耐えた。
ハクビが僕が攻撃されたことに気づいてまた外に出ようとする。
「ハクビ、兄ちゃん大丈夫だから。
ここに居て! お願い!」
ハクビは直ぐに暴れるのを止めてくれる。
それより、コロンは?
僕の身体の下で動かなくなっているコロン。
《ズバン》
鷲の攻撃。激痛が走る。
それはもういい。それよりコロンだ。
「おぃ、コロン?
大丈夫か? コロン」
反応がない。
あれ? コロンは本当に危ないのか?
カカの回復魔法で治るのか?
わからない。
けど、もしコロンが完全に死んでしまったら、いくらカカでも蘇生はできないんじゃないか?
間に合うのか?
思考が駆け巡る。
《ズバン》
鷲の攻撃。
痛みはあまり感じなくなってきている。
背中から流れ出た血が床にポタポタ落ちているのが見える。
出血が酷いのか?
あとどのくらい意識を保ってられる?
コロン。
食いしん坊でごはんを食べ過ぎてすぐ寝ねちゃう。
コロン。
とっても甘えん坊でいっつも僕やハクビにくっ付いてる。
コロン。
いなくなっちゃうのか?! もう会えなくなるのか?!
「コロン?
ねぇ、コロン!
コロ~ン」
涙が溢れ出て来た。
どうにかしたい。どうにかしなきゃ。
カカの回復魔法を思い浮かべる。
そしてコロンに意識を向け何度も叫ぶ。
「ヒール
ヒールだ、コロン」
カカの呪文は鳴き声にしか聞こえないから何を言っているのか分からない。
だから、僕の勝手なイメージで回復魔法を唱える。
「ヒール、ヒール! コロン
生きて、生きて!」
《ズバン》
鷲の攻撃。
もう痛覚はない。
気にもならない。
「ヒール、コロン
ヒール、ヒール、ヒール!」
《ガタン バタン》
すごい勢いで、ドアが開く音がする。
「キキー」って声が聞こえて、《グチャ》と何かが潰れて落ちる音がした。
間違いない。
カカが駆けつけてくれた。
僕は最後の力を振り絞って体を横にずらし、妹達をカカに見せる様にしてうつ伏せで倒れた。
意識が朦朧とする。
思った以上に背中の傷は深いのかもしれない。
「カカ、コロンを助けて!
コロンを!」
「キキー」
回復魔法の呪文が聞こえる。
ぼんやりと背中が暖かくなるのを感じる。
「カカ、ちがうよ。僕は大丈夫なんだ。
コロンを、コロンを助けて」
――するとコロンが心配そうにトコトコと僕の目の前まで歩いてきた。
そして鼻先を舐めてくれる。
居た?!
歩いてる?
コロンだ!!
ケガは治ったのか?
回復魔法で意識がはっきりしてきてまた改めて泣けてきた。
コロンを抱き上げる。
「コロ~ン、居なくならないでくれてありがとう~」
近くで心配そうに僕らを見ていたハクビも抱き上げる。
「ハクビも~ケガは大丈夫~?」
僕は2匹一緒に抱きしめながら、顔をぐっちゃぐちゃにしながら大泣きしてしまった。
「ハクビ、コロン。居なくなっちゃ嫌なんだよ~。
一緒に居たいんだよ~。ずっとずっと一緒に居たいんだよ~」
涙が止まらない。
だって嫌なんだ。
妹達が居なくなるなんて絶対嫌なんだ。
「ニャー、ニャニャー」
ハクビは何か言いながら涙でいっぱいの僕の顔を舐めてくれた。
コロンは何も言わず鼻先に擦りついてくる。
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