第2章 故郷の森~新しい僕~
第006話 「ネコとハムスター」
4歳になって我が家に転機が訪れた。
その日、夕食前の見回りに出ていたトトとジジが戻ると、ジジの背中に見慣れない獣が乗っかっていた。
四足獣の赤ちゃんのようだ。
「ヤァー」
ネコ? だろうか?
白い毛並みのなかに黒い毛がまだらに混じっている。
鳴き声もネコのイメージに近い。
僕の中では、とりあえずネコという分類にした。
カカは嬉しそうにその小さい四足獣をゆっくり優しく抱きあげる。
僕の名前を呼んでその四足獣を触ってみる様うながしてきた。
ゆっくり頭を撫ででやる。
スヤスヤ寝ている。
かわいい。
そういえば、この森ではネコを見かけたことが一度もない――そもそもネコは森に居る動物でも無いのかも知れないけど。
一体どこから連れてきたのだろうか?
この様子からして、この家でこれから一緒に暮らすようだ。
なんて呼ぼうかな……
後ろ足の間が平坦になっているから女の子だろう。
僕は早速そのネコに名前をつける。
【ハクビ】
あまり悩まずにすっと名前が出てきた。
気のせいか僕の知っているネコの赤ちゃんよりだいぶ太っている。
コロコロしてかわいい。
リビングの床に藁を敷いてその上に大きな葉を一枚置いて簡易的なベットを作る。
そのベットが当面のハクビの居場所になった。
しばらく見ていたら僕もいつのまにか寝ていたらしい。
目を覚ますといつもの布団の部屋で眠っていた。
カカが移動させてくれたのだろう。
眠い目を擦りながらハクビを探してリビングへ行く。
「えっ?!」
僕は目を疑った。
サルがネコに乳を上げていた。
「……」
「カカ、大丈夫なの?」
自然と声が出る
「キーキキー」
僕の言葉がわかったのかわからないのか、白い歯を見せながら自身満々に答える。
『全くもって問題ありませ~ん』と言っているのはわかる。
本当かな……
なんでもありなのかな……
サルの乳は人間もネコもどちらも飲めるものなのだろうか。
哺乳類は共通して大丈夫なものなのだろうか。
というか、なんでカカはいつでも母乳がでるのだろうか。
何れにせよ、僕の時と一緒で選択肢はないんだろう。
ハクビが無事である事をを祈る他ない。
ドキドキしながらその日一日ハクビを見ていた。
乳を飲んではスヤスヤと眠っていたハクビは、しばらくすると目を覚まし、またカカの乳を飲んでいた。
とりあえずは問題なさそうで安心した。
♢
『キーキキ、キーキキキーの唄』を久しぶりに聞いた。
ハクビの背中を叩きながら軽く揺らしてる。
やはり赤ん坊をあやしている時に歌うようだ。
乳をあげながら歌っていることが多い様に思う。
歌わない時があるのは忘れているだけらしい。
ある時『あっ忘れてた』みたいな顔をしたサルが、急いで唄を歌い初めたから間違いないだろう。
『キーキキ、キーキキキーの唄』は2つのフレーズしかない。
言葉としては『キーキキ、キーキキキー』しかない。
それを違った音程で2回繰り返して後は永遠にループする。
これは僕の予想にだけど、『キーキキ、キーキキキーの唄』は本来もっとフレーズがあるのだと思う。
けど最初のフレーズしか覚えてないサルは2フレーズだけで押し通しているのだろう。
何れにしても、2フレーズしかないこの唄を聞くと僕の心はとっても暖かくなる。
今では世界で一番好きな唄だ。
ハクビは乳をくれるカカに懐くのは当然としても、僕にもすごく懐いてくれた。
「ニャニャ」
ハクビはトコトコと僕の方に歩いてきて頭を擦り付けてくる。
擦り付けた勢いで床に首を突っ込んででんぐり返しみたいになって一回転したりする。
かわいい。
そしてすぐに眠りに落ちてしまう。
寝てるところをかまいたくなる。
けど、僕のそんな気配を感じたのかカカが後ろで目を光らせているのを感じる。
ハクビに必要以上にかまったりしたら接近禁止命令がでる気がする。
触れずにひたすらずっと寝ているハクビを見みていた。
しばらくしたらカカが隣に来て僕の肩を抱きながら、一緒にただただハクビを見ていた。
僕はそのうち眠ってしまったらしく、気づいたらまたいつもの葉の布団に横になっていた。
リビングに戻ると、眠ってしまう前と同じ様にカカはハクビをみていた。
こうやって、『ハクビが目を開けるとサルが覗き込んでいる』状況になるんだろうな……
敵意はもちろん微塵もない。
僕はなんだかカカに甘えたくなり、カカの背中によじ登り強制的にオンブの体勢になり抱きついた。
カカは優しく僕の頭を撫でてくれた。
♢
3か月間程カカの乳を飲み『キーキキ、キーキキキの唄』を聞きながら、ハクビは無事にスクスクと大きくなった。
僕の想像できる大きめのネコと同じぐらいの大きさになった。
けど、やっぱり少しデブだ。
それがまたかわいい。
明るく活発な性格で、すこし元気すぎるくらいにいつもセカセカと僕の周りを動き回っている。
ハクビが乳離れすると、ジジの背中に乗って僕と一緒に食料調達に行く様になった。
お転婆なハクビはすぐにジジの背中から飛び降りてちょこちょこ寄り道をして、しばらくするとジジの背中に帰ってくる。
トトに「ウホホ」言われながら怒られてる。
ハクビ自身はあまり気にしてない様子で『わかってるわよ』くらいの鳴き声で答えている。
あまり遠くに行くわけじゃなくちょっとした寄り道程度なのでトトも真剣に怒っていない。
その日も僕らはジジに跨り食料調達のために森を移動していた。
ハクビは僕の肩に両前足を乗せて背中にもたれかかっている。
最近のハクビのお気に入りの僕へのくっつき方だ。
オンブされているわけじゃなく、後ろ足は地についていて、ただ背中にもたれかかっているというのがポイントだ。
家でも良く地べたに座っている僕にこうやってもたれかかかってくる。
その時――
《ドクン》
細い獣道を移動している時になんとなく心臓が高鳴る感覚がある。
特定の方向に何かの存在を感じる。
早くそこに行かなきゃいけない。
そう思った。
後ろのハクビに目をやると、ハクビも同じ方向を向いていた。
《ヒョイ》
なんのためらいもなくハクビはジジから飛び降りて、そちらの方向に走り出した。
「待って、ハクビ!」
僕も自然に体が動いてジジから飛び降りた。
ハクビが向かった方向へ走り出す。
トトとジジは無理やり止めることもできたろうが、ゆっくり僕らの後を付いてきてくれた。
ハムスター?
何やら動物がケガをして倒れている様だ。
ハクビはその場所に先につき、その動物を心配そうに舐めてあげている。
全体的に茶色くてお腹周りは白い。
ハムスターに似てるけど、僕の知っているそれより明らかに大きい。
4歳児の僕の顔の大きさ位はある。そして少し太っている。
知っている種類の生き物ではないのだろうが、僕の中の分類はハムスターってことにする。
そのハムスターはそこらかしこに切り傷が見える。
動くと痛むのだろう。
すぐに命に別条はなさそうだが苦しそうだ。
「カカの回復魔法で治してもらおうよ」
トトは僕の話を分かってくれてその日はそのまま家に帰ることになった。
ハムスターは僕らを警戒している様だったがゆっくり優しく抱き上げたら暴れたりはしなかった。
僕がハムスターを抱きながらジジに乗り家へ向かう。
家に着くと直ぐにカカにお願いする。
「カカー!
ハムスターがケガしてるんだ。
治してあげてよ!」
夕食の準備をしていたカカは手を止め、すぐにハムスターの治療に取り掛かってくれた。
床に葉を敷いた簡単なベットを作るとそこにハムスターを寝かせる。
「キーキキー」
カカは回復魔法が使える。
僕らがケガをしたらカカの回復魔法で傷を治してもらっていた。
だから、ハムスターも直ぐに傷口も分からなくなるくらいに治るはずだった……
しかし、カカは首を傾げながら何度も回復魔法を唱えるがあまり効きが良くない様に見える。
傷は薄くなっていて、ハムスターもだいぶ楽になった表情をしているが、やはり僕らの切り傷みたいには治らないようだ。
ハクビは心配そうにハムスターを舐めてあげている。
傷ついたハムスターは外傷はもちろんだけど、心も冷たくなってしまっている。
何故だか確信をもってそう感じた。
「この娘も一緒に暮らそうよ」
僕がそう言うと、カカもトトも『もちろん、そうしよう』と同意を示す笑みを浮かべる。
「ニャニャー」
ハクビもとってもうれしそう。
ジジも後ろの方で笑顔なのがわかる。
ハクビと一緒で後ろ足の間が平坦だからこの子も女の子だ。
ハムスターに名前をつける。
【コロン】
ハクビの時と一緒ですんなり頭に名前が浮かんだ。
こうして僕は、この短期間で2匹の妹ができた。
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