第395話 待ち伏せ
村長と話した。
セラが仲間になるかどうかという話もあったが、ひとまず保留する。道案内をしてくれることは変わらない。
引き返していく村長を見送り、底地の村まで行くときに一度は通った秘密の道を進む。
ただし、来た時よりも倍の時間がかかる。
これは手足を失っていたり、消耗しているやつがいたりと問題のある同行者がいることも大きいが、それよりも単に地形の影響が大きい。
底地の村は名前の通り、底地にある。
そこから出て行こうとするのだから、どうしても急な登りが多い。
多少元気が出てきた魔導局員にも多少の荷物を持たせるようにしつつ、強引によじ登っていくような道程。
一方、朗報というべきか、良い方の想定外もあった。ピカタ師匠の魔法である。
俺に魔法を教えたときよりもずっと色々な魔法を使いこなしているように見える。
そして、どうしても人の手が足りないときなど、彼女の魔法で荷物を持ち上げたり、足場を作ったりと大活躍だ。
幸い、強い魔物に襲われるような場面もなく、街道まで戻ってこられた。
そして、村長が首尾よく誘導できていれば敵が現れる可能性のある地点を探す。
ピカタ師匠も含めて、魔導局員には先に要塞に向かってもらっても良かったのだが、全員が残ることになった。
彼らとしても、「一矢報いたい」という思いがあるようだった。
先のように脱出するときには足手まといの部分もあったが、こっちが待ち伏せるとなれば話は別だ。
ここ数日で温存した魔力が戻ってきたのもある。十分な魔力さえあれば、彼らは一端の魔法ユーザーなのだ。
道中、セラと追っ手がいた場合の予想の動きについても話し合い、2日経って敵が来なければ諦めるということにする。
相手が少数かつ精鋭なら、半日違いくらいで現れてもおかしくはない。
3日掛かっている場合、大人数で来ている可能性もある。
いい塩梅なのが「2日待つ」だと思われる。
敵が通ると予想されるルートは、街道から脇に入る小道だ。舗装などされていない、しかし踏み慣らされ、多少整備された跡のある小道である。
もう少しで街道に出る、そのタイミングに罠を張る。出て来たところを狙える狙撃ポイントを作ってサーシャと魔導局員を配置。ちょうど小道から街道に出たところを、道の反対側の小高い場所から狙えそうなのだ。そこに、癒術士も配置。
小道の出口はキスティとムレナでフタをする。敵が来るまでは脇に隠れている。
フタをし切れるかは分からないが、踏ん張れれば、敵に数的不利を押し付けつづけられる。
ピカタ師匠は囮役だ。
小道にいて、敵に上から魔法を浴びせる。そして、街道に退いてくる。
危険な役目だが、ルキをお供にしてやってもらう。
敵の意識を「正面の魔法使いの排除」に持っていってもらうためだ。
残るは俺とセラだが、俺たちは偵察と潜伏、背後からの攻撃を担当する。
ぶっちゃけ一番危ない役割だと思う。
奇襲が成り立つための絶対条件として、敵より先にこっちが気づく必要がある。
そのために、主にこの地に詳しいセラが偵察を担う。俺はその補佐と、見つけた後の遊撃がメインだ。
ピカタが正面から敵を釣り出し、急いで登っていく敵の背後に潜んで攻撃する。
敵が何人で来るかだが、2、3人とも思えない。小道を急いで上がっていこうとすれば、当然縦に伸びる。
隊列が伸び切った敵を俺とセラが横腹から奇襲し、分断する。槍の男ごと殺しきれれば御の字だが、そう上手くいくとは思わない方が良かろう。
分断して数を削った上で、キスティたちと交戦する敵を挟撃する。
山での戦いは敵の方がやり慣れているかもしれないが、こと立体的戦闘の経験という意味では俺もある方だ。
下方から一気に駆け上がって、木々を飛び回りながら翻弄するのだ。リーダーがあの槍男なら、敵は槍だ、狭いスペースでは扱いにくいはずだ。
そこまで考えて配置もしたが、考えているといくつか穴が残っている気もしてくる。
特に、小道を律儀に駆け上がってくれるのか、というのは悩ましい。
小道以外で強行できそうなルートを考えては、そこに罠を仕掛けて準備する。
幸い、罠の魔道具は魔導局員がまだいくつか持っていた。
足りないところは、俺の魔法とかでカバーしていく。
一晩を過ごして、もういつ来てもおかしくはない頃合い。
俺たちが到着してから丸一日くらいだろうか、セラから目標の発見が知らされる。
白い紙を結いつけた短い矢が、それぞれの待機場所に撃ち込まれたのだ。
俺は潜伏スキルにはそこまで自信があるわけじゃない。
それまで索敵をしていた木の上から降り、予定していた罠代わりの魔法を周囲にいくつか仕込んでおく。
そして、昨日の晩に作り込んだ待機場所のカムフラージュをもう一度確認して、入り込んでじっとしておく。
「気配探知」は取りやめ、敵に気づかれにくい「気配察知」で様子を探る。
俺はちょっとした窪みになっていて、木々の影にもなって小道からはまず見つけられない場所で待機している。
木の上とかで待機できると良いのだが、敵に見つけられないことを優先して妥協した。
セラの報せから数時間は経過したころ、気配察知に動きが。
集団、だな……
いち、に……5人以上はいそうだ。
迷子ってことはなさそうだ。
やがて、気配がまだ少し遠くにある段階で、ピカタたちが待機しているあたりで轟音が響く。
石雪崩、ピカタの言っていた魔法の音だ。
遠くの気配の集団は、目に見えて動きが機敏になった。
相手の斥候がピカタたちと接触したか。緊張感とともに、少し安堵の息が漏れる。
ここが一番の難関だった。
敵の斥候がどういうルートで調べるのか不明だし、またピカタたちが反応できるかというのが1つの懸念だったからだ。しかし、やってくれた。ピカタと同行させたドンのお手柄かもしれない。
ピカタは「来るとわかっていればいくらでもやりようがある」とも言っていたので、ピカタが魔法で何かしたのかもしれない。
敵の気配が近付いてくる。そして、離れていく。
思わず息を止めていたが、気付かれず。
息を荒げるようなことがないよう、ゆっくりと空気を肺に招き入れる。
ボン!
遠くで音がする。
あれは、罠の音っぽいな。
音がしたのは、敵の集団の近くではない。小道を挟んだ、奥の方。
セラが潜んでいるはずの方向だ。
急ぎ登っていた集団も、後ろの数人が音に気を取られてペースを落とすのが分かった。
思わず舌打ちしそうになって、抑える。
まだ早い。
まだ十分に敵が喰いついていないのだ。
これで脇道に気を配り出したら、むしろ俺とセラが敵中に孤立しかねない。
しかし幸運にもと言うべきか、敵集団の先頭はそのまま上に登っていく。
気を取られたらしい2人か3人だけがペースを落とし、自然と敵が分断している。
これは好機か?
と、近くに気を配っていなかった俺のすぐ近くで、急に気配が現れ、そして凄い勢いで離れていく。
急いで下方向に気配探知を打つ。
急激に離れていった、つまり落ちていったらしい気配とは別に、微弱な気配。
その位置は、俺が罠を仕掛けた辺りだ。
こっちにも別動隊が来ていたらしい。
自分に被せた落ち葉や土を払いながら飛び起き、斜面の下を見る。
呆然と立ち尽くす敵と、瞬間目が合う。
大きな角が生えている奴だ。
魔法を浴びせる。
敵は大きく跳んで避ける。が、そこの土はぬるりと滑り、敵は斜面を転がり落ちていく。
他に敵がいないか、周囲の短い範囲に気配探知を乱打しながら、エア・プレッシャーを用意する。
しばらくして気配探知の結果から近くに敵がいないと判断し、予め決めていたルートで斜面を登って、エア・プレッシャーで自身を打ち上げて小道に辿り着く。
本当は登っていく敵本隊を奇襲するような動きをしたかったが、その前に敵の別動隊と遭ってしまったのだから仕方がない。
少し先に行ってしまった敵を追うような形で上がっていく。
セラが居た方から、気配。
少し警戒して気配を追うが、小道に入らずにするすると登っていく。
セラと予め打ち合わせたルートなので、まずセラで間違いない。
本当は、俺の奇襲と時間差で襲って欲しいと言ってあったのだが。
仕方ない。予定外は起こるものだ。
筋力を強化し、全力でダッシュする。
エア・プレッシャーを織り交ぜつつ、飛び跳ねるようにして敵を追うと、敵がこちらに向き合っているのが見えた。
槍と弓、いずれも俺に武器を構えている。
火球を生み出し、投げるように放る。
少し遅れて、やや練った溶岩球を上空に放る。
最初の火球は正面から敵を襲うが、土が隆起してそれを阻む。巻き上がった土煙にまぎれてか、弓使いが矢を放つ。
ウィンド・シールドがその軌道を大きく狂わせる。
少しの時間差で、槍が投擲されている。
これはウィンド・シールドの干渉をほぼ受けずに俺に向かってくる、が剣で強引に弾く。
ちょっと危なかった、逆に変に干渉されて軌道が変わっていたら危険だったかも。
あまり悠長にしていると、セラが加勢してしまう。
エア・プレッシャーで自分を前に押し出し、剣を後ろに構える。
空から、ラーヴァストライクが降り注ぎ、土壁の後ろを焼く。
槍使いの方が、体勢を崩したようだ。
土壁に肩から体当たりする。
そして、弓使いの気配のした方に剣を振る。
半裸の、胸が膨らんだ鬼人族。その首から鮮血が飛ぶ。
槍使いの方は、膝をついて顔を抑えている。
槍を取り落としたようだ。
抑えている顔のあたりには、べったりと赤黒い魔法が。
なんかエグいな。
そう、どこか冷静に思いながら、首を斬る。
いや、別に俺が首刈りに目覚めたわけではない。
こいつら、防具が薄手だから首を狙いやすくて、つい。
普通、急所は防具でカバーしとくもんだろうが。まったく。
「魔閃」スキルを発動した一閃が首を飛ばすのと同時に、次の動作の準備をする。
気配探知を放ち、上の状況を確認。
敵の数は……4か?
出口で抑え込むような動きをしている気配の4つは、味方だろう。
キスティ、ルキ、ムレナ、そしてピカタ。
皆無事か?
「タイチョー、後ろの奴らがやられた!」
一番後ろで弓に矢を番えていたやつが俺に気付く。
こいつはまだ小道に残りながら、突破しようとする味方を援護していたっぽい。
急接近して、剣を振る。
しかし敵は、予想に反して避けることも下がることもせず、その場に留まって、弓で俺の剣を受けた。
魔剣術を発動しようとするも、魔力が変に乱れてうまく動かせない。
こいつ。
俺の剣を弓で受け止めたまま、身体を一回転させるようにして、蹴りが伸びて来る。
後ろに下がって避けると、更に身体を回転させながら踊り上がり、俺の剣を踏み台にして迫ってくる。逆の脚を使っての回し蹴り。しゃがんで避ける、が時間差のパンチが迫る。
辛うじて手で受け止めるが、衝撃が突き抜ける。痛い。
「チッ、なかなか動けるじゃ……かっ!」
敵の喉から、槍が生える。
「うっ……ぐ……」
無防備に棒立ちになった敵に、俺も胸に突きを入れる。
敵の後ろに降り立ったセラが、槍の柄に手を掛けて、引き抜く。
「助かった、セラ」
「うん」
セラはそのまま、俺に背を向けて上がっていく。
俺もすぐ続く。
「若様。包囲されました」
「……退くぞっ!」
若様と呼ばれた男、槍の男は、こちらを見ずに命じる。
男の周囲には、小さな雷がいくつも生じている。
しかし、それらは全て、大きな雷に吸い寄せられるようにして流れている。
その大きな雷は、ピカタから敵に流れているようだ。
それを、盾で受け止めている敵が1人。
杖を持った鬼人族が1人。
敵は残り3人のようだ。
杖を持った敵が「若様」と注意を発した女性だ。
ムレナと対峙して、周囲には木の枝が転がっている。
ムレナはいくつもの土壁を作り、その奥から土魔法を飛ばしているようだ。
ムレナの土壁にはいくつも枝が刺さっている。
木を操る魔法か。
槍の男が対峙しているのは、キスティとルキのコンビだ。
キスティはハンマーではなく、槍を構えている。
ルキはそのすぐ傍でカバーしているようだ。
上の狙撃ポイントから放たれる岩の柱や、サーシャの矢は、盾を構えた男がスキルを発動させて抑えている。
槍の男は撤退を命じると、キスティたちの攻撃をかわしながら、俺の方に突っ込んできた。
盾の男と杖の女はそれぞれ攻撃に対処しているので、下がってきたのは槍の男、1人だけだ。
「よお」
「死ね、下郎ども!」
俺の呼びかけにも連れない様子。
問答無用で突きかかってくるので、横にエア・プレッシャーで移動しながら、突っ込んで来る敵の位置に突きを入れる。
それを身体を捻るようにしながら避けた男が、小道に続く地面を踏み、転倒する。
俺が創ったぬかるみに足を取られながら、セラの突きを受ける槍の男。
肩から血が吹き出す。
「外道の子が!」
悪態をつきながら、起き上がってセラに槍を向ける。
その後ろから、俺の魔法が迫る。
槍を回しながら雷を飛ばし、それを迎撃する槍の男。
俺に気を取られ、セラからの攻撃には受け身だ。
「こんな状況なら、やりようもある」
もはや槍の男から返事があるとも思わないが、言いつつサテライトマジックを発動していく。
そして、片っ端から撃っていく。
敵は再生能力なのか何なのか、数発の魔法では倒せないということは以前に分かった。
だが、この状況なら。
俺たちが追い込んでいて、この後を心配する必要がないなら。
力押しすればいい。
「ぐっ……かっ!」
処理しきれなかった火球が、槍の男の肌を焼く。
いくつかの火球は槍の男ではなく、杖の女に向かう。
「あああ!! 熱い!」
女が叫んだところで、槍の男が振り向く。
意外だな。
仲間の声など、それほど気にしないタイプかと思ったが。
「マーリャ!」
その隙に、その足に槍が刺さる。
「ぐう! 外道がぁ!」
「お前の方が、外道、だろうがぁ!!」
セラの猛攻。
それを捌きつつ、俺の魔法に構っていられなくなった、槍の男。
その背中に、物理寄りに寄せた氷魔法の槍が刺さる。
なるほど。
前は魔法寄りの方が通ってた気がするが、こいつ、あれか。
「防御」と「魔防」をチェンジできるのか?
または、似たような事ができる。
「なら……」
左手に、火魔法。右手に、氷魔法の物理寄り。
それを交互に背中に浴びせる。
「が……マーリャ、逃げ……」
動きが硬直した男の喉を、セラの槍が貫く。
「ぐほっ」
「母ちゃんの!」
「ぐぼっ」
「父ちゃんの!」
「……」
「お前に殺されてきた皆の分!」
槍の男は、もはや抵抗もできずめった刺しを受けている。
もう、反応らしい反応もない。
気配を確認。
後ろにいた盾の男が、こちらに駆け付けようとしてキスティに殴られているのが分かる。
もう1人の女は……戦意を喪失したか。
へたり込み、杖を抱えた女が、怯えた顔でこちらを見ている。
「そういう顔が出来る奴もいるんだな、鬼人族にも」
「こ、降伏する……」
「さて」
親指と人差し指で挟むように、敵の女の首を掴む。
そして、持ち上げるようにして無理やりその顔を、身体ごとセラに向けさせてやる。
「ぐっ、うっ……」
「セラ」
「……なんだ?」
セラは、男を死体蹴りするのを止めてこちらを見る。
その顔は鬼のような形相だ。
「この女をどうする?」
「……」
「さっきの様子じゃ、その男の大切なやつだったらしい。家族か恋人だったりしてな」
「……」
セラは、男から槍を引き抜くと、ゆっくり寄ってくる。
「……」
「……」
「あ、あなたは」
「あの男を助けたいか?」
セラは、女に問うた。
女は俺に首を掴まれたまま、おびえた表情から、少しだけ正気に返ったような表情になって答える。
「わ、私はどうなろうと良い。あのひとをた……うヴぉえ゛っ!?」
言い終わる前に、セラは女の首に槍を突き立てていた。
しかし今度は、いたぶるような真似はせずにすぐに槍を引き抜いた。
「これで相子にしてやる」
「あ……あ゛……」
女はまだ意識があるようで、何かを言おうとする。
しかし言葉になっていない。見かねた俺が、短剣で楽にしてやる。
ドサリと、女だったものが、地面に落ちる音がした。
セラの復讐は終わった。
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