第337話 常人のひらめき
魔物討伐に向かう途上、ヒトツメの群れと戦い倒した。
一度前線砦までトンボ帰りした俺達は、報告を済ませて休憩した。
注意深くキスティの様子を見ていたが、普通に動く分には特に痛みもないようで、大事はなさそうだ。念のため砦の医師も紹介してもらったが、大したことはないとだけ言われた。
ただ腹部に打撲痕が残っていたから、ルキの「打撲治癒」を掛けながら休ませた。
キスティによると、ヒトツメのパンチは完全に見切っていたのだが、不意に裏拳を叩き込まれたらしい。
ルキが攻撃を止められるのだから、もっと上手くルキを使えば避けられただろう。もっと連携を深めないと。
キスティを休めつつ、近場の魔物の探索や討伐をいくつか受ける。どうも砦の連中はヒトツメへの対応なんかで手一杯になりつつあるらしい。
猫の手も借りたい様子で、それほど重要でない討伐の依頼がいくらでもあるようなのだ。
それらをたまに受ける間にアード族の連中とかと模擬戦をする。
魔法を使わないようにしたり、逆に特定の魔法だけを使ったりと縛りを入れたりして、いろんな技術を試してみる時間になった。
最初の依頼への報酬も満額ではないがいくらか出て、魔石代を除いても合わせて大貨3枚ほどになった。
砦の中には購買部のような場所もあり、砦の下っ端戦士と同じ物は買う許可を貰えた。
貨幣の両替もできたので、稼いだ大貨1枚を崩しておく。
大貨1枚は聖貨?15枚と交換できる。
聖貨?に疑問符が付くのは、公国でも見た聖貨の裏面が削られているからだ。
そして当然、聖貨?を大貨に戻す際には、15枚では足りない。手数料が取られているのだ。
そして聖貨?は穴銭と呼ばれる穴が空いた貨幣4枚と、毛銭と呼ばれる小さな長方形の貨幣数枚と交換できる。
穴が空いた貨幣1枚で硬いパン数個と交換できるから、普段使いにはこれくらいで持っておくのが便利かもしれない。
中央に大胆に穴が空いているので、紐を通してまとめておくのも簡単で良い。
模擬戦も結構こなしたと思うが、レベルアップしたのは『魔剣士』と『愚者』だけだった。
レベルが上がってくると、やはり伸びはかなり鈍化するようだ。
複数ジョブの優位でゴリ押しするのも、少なくともステータス的にはそろそろ頭打ちなのかもしれない。
基本的な戦闘技術を伸ばすのはもちろん、既存スキルの習熟と開発をして戦い方をアップデートしていかないと、格上に喰らいつくのは厳しいだろう。
さて、レベルアップで上がった『魔剣士』と『愚者』だが。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(31)魔法使い(33)魔剣士(25↑)※警戒士
MP 45/67
・補正
攻撃 D
防御 F+
俊敏 D-
持久 E
魔法 B-
魔防 D+
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加、サブジョブ設定、天啓
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法、性質付与
身体強化魔法、強撃、魔剣術、魔閃、魔力放出、魔創剣、受け剣
気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知、聴力強化Ⅰ、レストサークル
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ、ルキ、ジグ、アカイト、ゲゲラッタ、アレシア
隷属獣:ドン
*******************
『魔剣士』は1つ前のレベルアップでスキルを会得したばかりだったので、スキルは生えてはいない。
直近で会得した『受け剣』は剣に防御補正を掛けるというもので、要は剣が壊れにくくなるものだ。つまり、地味。
こういう地味なスキルがあってこそ無茶ができるというもので、軽く見てはいないが。パッシブスキル的なスキルなので、たまに本気で忘れそうになるのだよな。
そして、もう1つの『愚者』は、今回のレベルアップでスキルを会得した。
*******人物データ*******
ヨーヨー(人間族)
ジョブ ☆干渉者(31)魔法使い(33)愚者(25↑)※警戒士
MP 53/75
・補正
攻撃 F+(+)
防御 F+(+)
俊敏 E-(+)
持久 E-(+)
魔法 C-(+)
魔防 D+(+)
・スキル
ステータス閲覧Ⅱ、ステータス操作、ジョブ追加Ⅱ、ステータス表示制限、スキル説明Ⅰ、獲得経験値増加、サブジョブ設定、天啓
火魔法、水魔法、土魔法、風魔法、魔弾、身体強化魔法、溶岩魔法、性質付与
貫く魂、盗人の正義、酒場語りの夢、奇人の贈り物、常人のひらめき(new)
気配察知Ⅱ、気配探知、地中探知、聴力強化Ⅰ、レストサークル
・補足情報
隷属者:サーシャ、アカーネ、キスティ、ルキ、ジグ、アカイト、ゲゲラッタ、アレシア
隷属獣:ドン
*******************
お分かりだろうか?
「常人のひらめき」とかいうスキルだ。
早速「スキル説明」で説明を覗き見てみると……。
『常人のひらめき:特別な効果はないが、目を引く光の球を放つ。』
これである。
特別な効果はない、ですと?
早速テストしてみると、発動を意識すると発動するタイプであることは間違いなく、魔力を流しつつ発動すると、手の先から光る球が浮かび上がった。
前に飛ばすこともできた、が、壁に当たると一瞬で弾けて消える。
けん制で使うこともある無属性の「魔弾」でさえ多少の威力があるのだが、それすらなさそうだ。脆さはシャボン玉レベルか。
ただ、無駄にビカビカ光っており、確かに目を引く。
何だかエリオットを思い出すスキルだ。
魔弾に混ぜてけん制に使うか、相手の意識を逸らすのに使えそうか。
色々実験しながら使い道を探っていきたいが、正直今は魔法の練習を優先したい。
ヒトツメとの戦いで編み出した、土に水を練り込んで質量で殴るマッドフローだが、砦の周辺で再現しようとすると成功率はかなり低い。どうしても威力が弱くなるのだ。
ヒトツメ戦は、土砂降りで足元がぬかるんでいた。そして足元の土は柔らかく、泥を作りやすい環境が整っていたと言える。
だからこそ、こちらの想定以上の威力が出たのでは、というのが仮説だ。
ただ、マッドフロー自体は研究する意義がありそうだと思っている。
現在は攻撃魔法と言えば土属性+火属性の「ラーヴァ」系を多用しているわけだが、それよりは土属性+水属性の方が創ること自体は楽だし、魔力も少ないのだ。
特に魔法防御の高い敵相手では、ラーヴァボールやファイアアローなどで叩くより、マッドフローで「質量で殴る」方が効く可能性がある。
氷魔法も練習途中だし、エア・プレッシャーでの空中機動はまだまだ発展途上だ。
試してみたいことが山積みなのだ。
「常人のひらめき」を研究するのは少し後回しになる。
他に従者組では、ルキとアカイトがレベルアップした。
*******人物データ*******
ルキ(月森族)
ジョブ 月戦士(33↑)
MP 15/24
・補正
攻撃 E-
防御 D-
俊敏 G+
持久 F+
魔法 G+
魔防 D-
・スキル
覚醒、夜目、打撲治癒、柔壁、シールドバッシュ、スタンプ、見えざる盾、視認低下
・補足情報
ヨーヨーに隷属
隷属獣:シャオ
*******************
最近活躍が目立つルキは、防御・魔防が両方D-に届いた。
立派な守護職という感じだが、格上からの攻撃を楽に受けられるようなステータスでもない。それでもルキの安定感が凄いのは、彼女の基本的な身体使いと、防御スキルの使い方のうまさにあるだろう。
特にスキルの使い方は、俺と旅をするようになってから飛躍的に伸びていっている気がする。
俺のお陰というより、実戦経験をイヤというほど積むことになった結果に過ぎないのだろうが。
*******人物データ*******
アカイト(ラキット族)
ジョブ 森の隠者(23↑)
MP 3/29
・補正
攻撃 G-
防御 G-
俊敏 F+
持久 F+
魔法 E-
魔防 E
・スキル
隠者の知恵、樹眼、隠形魔力、戦士化、地形記録、体重操作
・補足情報
ヨーヨーに隷属
*******************
アカイトは、レベル22で会得した「体重操作」の研鑽に余念がない。
体重を制御して飛びまわったり、踏みとどまったりするのが思いのほか楽しいらしい。
訓練時も、不測の事態に備えて魔力をある程度残しておいて欲しいのだが、気付くと魔力切れギリギリまで使っている。
模擬戦で何度かアカイトとも戦ってみたが、仲間になった直後と比べるとかなり動けてきている印象だ。
ただ、元々の体格と、攻撃・防御がG-と最低に近いことで、打撃力がまるでない。
「戦士化」のスキルを使えばいくらかマシだが、それでも焼け石に水だ。
現状ではやはり、戦士というよりは斥候として能力を生かす方が有用そうである。
従者たちとも模擬戦をしつつ、アード族以外の砦の戦士たちにも、見かけては模擬戦を申し込んだ。
やっていいと言われたのだ。遠慮せずに実行する。
相手は下っ端の戦士が多いはずだが、それでも流石はクダル家の前線部隊。
魔法を封印して戦うと、格上となる相手もチラホラいる。
模擬戦と休養、そしてたまに軽い魔物討伐をしながら砦で過ごすこと数日。
割り当てられた客室で氷魔法を浮かべて練習していると、珍しくヒュレオが訪ねてきた。
模擬戦をしているといつの間のか現れ、雑談していくことはあるのだが、客室まで訪ねて来るのは初めてだと思う。
「ヒュレオ。どうした?」
「おー、ヨーヨーちゃん。まだ居てくれたか」
「おう。砦の連中の胸を借りて模擬戦してるよ」
「ほ~う? でも、今の砦に残ってるのは出がらしみたいな連中デショ」
「……おう」
俺がそれなりに強いと思っていた連中は、出がらしだったらしい。
使える人材はヒトツメ討伐にでも向かっているのだろうか。
「で? 何か用か?」
「ちょっとお願い事ってか、お仕事のハナシ」
「依頼か?」
これまでは、鳥頭の偉いっぽいヒトから魔物討伐依頼を紹介してもらっていた。
ヒュレオが絡むのは、最初の依頼ぶりだ。
「まあね。ショージキ言うと、今回のは結構ヤバいシノギだぜ」
「危険ってことか?」
「まあね~。ま、とりあえずさ。話だけも聞いてよ」
「まあ、それは構わんが。何でヒュレオなんだ? いつもは鳥っぽい顔の……」
「シュルシュルちゃんね?」
そんな名前だったろうか。
「そのヒトから依頼されるんだが」
「それはねー、ヨーヨーちゃん。オレっちのオシゴトに同行してもらうからよ」
「ほう。あのアード族の若手たちも一緒か?」
「ああ、まあねえ。あいつらも連れて行けって言われてんよ」
アード族一行のうち、女性であるパッセはよく模擬戦に付き合ってくれる。
剣を使うリオウもたまに付き合ってくれたが、帰って早々に喧嘩をしはじめたようで、ボロボロになって訓練場に現れたこともあった。
鞭と弓を使っていたマージは訓練場ではほぼ見かけない。どこで何をしているのやら。
「とにかく、話はイェンちゃんから聞くことになってるからさ。イケる?」
「何、ここのボスから? 大事だな。話を聞いた後に断ることはできるんだろうな?」
テーバ地方での強制依頼を思い出す。
偉いヒトに押し付けられる依頼ほど、面倒なものはない。
「そいつはダイジョウブ。やる気のない奴を引き連れて行く気はオレにもないし」
「そうか」
とりあえず話を聞いてみるか。
このまま砦で無難な依頼をこなしながら、永遠に模擬戦をしているだけで良いのかは少し考え始めていたところなのだ。
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