第69話 ラムザ
うおォんッ!
俺はまるで人間火力発電機だ!
とにかく出された肉を焼く。
匂いに釣られて入った店は、魔物肉専門の焼肉店だったらしく、焼肉セットを2つ頼んだのだ。
しかし、その量がハンパなかった。
次から次へと肉が運ばれてくる。金網に置いて焼く。食う。がんばって食う。次の肉が運ばれてくる。以下ループ。
最初に出てきた小さなパンは既に手許にはなく。頼んだサラダは尽き。肉だけを喰い続ける。
「こちらがラストの竜肉のステーキになります~」
竜肉、食えるんだ。さすが異世界。
焼く。
ジュー。
「……! 美味いな」
「少し筋がありますが、噛んだときに独特の旨味が広がって美味しいですね。付け合わせのこの甘いソースも合っています。材料はなんでしょうねぇ」
「……」
先生が、サーシャ先生が饒舌だ! よっぽど気に入ったのだろう。
「しかし、肉が多くて流石にまいった。しばらく肉は食わなくていいな」
「そうですか?」
そうでもなさそうだ。その細身の身体のどこに肉が入っていくんでしょうか? 神秘だ。
「さて、微妙な時間になっちまったな。訓練場で剣でも振ってから、今日もラムザ捜索するか」
「はい」
腹ごなしということで、訓練場を借りるべくギルドに向かった。そのあとはまた、イヌミミマスターのいる近場の酒場で情報収集だな……。
************************************
「おう、ちょうど良かったな。来ているぞ」
イヌミミを生やしたマスターが店に入るなりそう声を掛けてきた。
「来ている……? あっ、ラムザか?」
「そうだ。探していたんだろう?」
「そう、そう。相席できるか?」
「一人だからな、構わないと思うぜ」
ダンディーなイヌミミは手に持った空のグラスをキュッと拭き、台に戻した。
単に洗い物しているだけなのだが、様になるのはなぜだろう。
「相席いいか?」
「……ああん? お前らカップルか? 他の席も空いてるだろうがよ」
「あんた『不倒のラムザ』だろ? 話があるから、探してたんだ」
「おー? 借金取りじゃねぇだろうな。今は借金してねぇ……はずだ」
「違うよ。ギルドのエリザさんの紹介だ」
木製の4人掛けテーブルが小さく見えるような巨漢、筋肉ましましマッチョの男。それがラムザの第一印象だ。そして聞いていた通り、頭はスカスカ。まごうことなくハゲだ。
その巨漢ラムザはエリザの名前が出た途端に小さく震え、射殺すような目でこちらを睨み付けてきた。
「エリザの使いだとぅ? 何を言われた」
「使いじゃない、紹介だ。ここに来たら、ラムザってのに話を聞けと。それにあんた、この周辺の案内や教官みたいなこともしているんだろう? それも興味アリだ」
「エリザの紹介ってのが気に喰わねぇが、まあいい。仕事なら話は別だ。座れ」
許可を得たのでラムザの向かいに座る。2人で並んで座れるスペースがあるが、ラムザは1人で2人分を占領しているので3人で満席だ。
「で、何を訊きてぇ? この辺の魔物のことやお勧めの狩場、人員を募集している傭兵団やパーティの話もあるぜ」
「どこから有料だ?」
「全部、と言いたいところだが……ま、エリザの顔を立てたってことにして多少は無料にしてやらぁ」
「そうか……、それならサザ山に向かうときの注意点なんかを」
「なんだ、あそこに向かうルーキーか。じゃあ基本から話してやるがな……」
酒をちびちびとやりながらラムザが話すが、8割方ギルドで入手できたような内容だった。
情報屋の真似事をしているとマスターが言っていたが、そちらはあまり向いていないのかもしれない。
「教官のようなこともしていると聞いたが……、どういうことが教えられるんだ?」
「あーん? そうだな、俺はこう見てもそこそこ長い事魔物狩りをやってきた。斥候から解体まで、必要なことは一通り説明できるぞ。基本だけだがな」
「元魔物狩りってことだが、何故引退したんだ?」
「そりゃ、おめぇ、歳だからよ。ルーキーと一緒に山に行ったりするから、完全に引退したわけでもねぇがなあ」
「引退前は、どこかのパーティで活躍を?」
「まあー、色んな奴と組んでは狩って、だな」
「固定のパーティにしなかった理由は?」
そう訊くとラムザは少し不味そうに酒を煽った。
「ルーキーにゃまだ分からんか。ここじゃな、そんなもんだよ。理由なんてねぇよ。パーティを組んでも次の日には誰か死んで、その次の日に別の奴がケガで再起不能になって、解散する。で他の奴と組んで狩りに出て、また誰か死ぬ。それの繰り返しだ。分かるか」
「ああ……自然と流動パーティになるということか」
「そのおかげで短い付き合いが多いからな。死んでも引きずらねぇためにも、その方が良いけどよ。それでも長年そんな生活をしてれば、クるもんがあるぜぇ……。俺みたいに五体満足で引退できたヤツは、幸せモンだぁ。いつの間にか女房に逃げられても、な……」
話しながら酒を煽るスピードが増していったせいか、やや顔が赤らんで挙動が怪しくなってきた気がする。
早目に話を付けよう。
「では、とりあえず2日後からサザ山に向かいたいが、案内を頼めるか? その時に斥候の技術指導なんかも頼みたいが」
「おう、お守りに技術指導ね……任せておけぇ。だが出発は3日後で頼む、野暮用があってよ」
「そうか、ならそれでいい。報酬は?」
「ん? そうだなぁ……食事や消耗品はそっち持ちで、1日銀貨3枚くらいでいいぞぉ」
「技術指導込みで?」
「そうだ、お守りだけならそんなに取らねぇ」
「契約成立だな」
ちょっと怖いが、右手を差し出してみる。それに気付いてあちらも手を伸ばし、握手の形になるとぐっと力を込めて握り込んできた。
いてぇ。
「まあまあ鍛えてるようだが、この程度で音を上げるようじゃまだまだだな。クヒャヒャ!」
「あー酔っ払いこえぇ。3日後の昼に集合でいいか? 酔ってて覚えてねぇなんて言うなよ」
「大丈夫だよ、この位酔ってる内に入んねぇ! 報酬は半分前払いだからな、金忘れんなよ!」
「了解」
ラムザと出会えたが、どこまでアテにできるのか不明だな。
握手の際に試したステータス表示でも、名前くらいしか分からなかったし……。ラムザで合ってました。
その後、当日の予定などを軽くすり合わせして、酒場を後にした。
どんどん酔っていくので、どこまで覚えているのか。少し不安が残る。
翌日。
剣と魔法の練習、摸擬戦と熟して、夕飯前に魔道具屋『イマニ・ムーニュ』に向かう。
さて、出来ているかな。
「こんちわー」
「ようこそいらっしゃいませ。ああ、あんたか」
出迎えてくれたのは、花模様の派手な着物、のようなものを着た、背中に羽根の生えた男。この店の接客担当……だと思われる。
「剣とヘルメットの両方とも仕上がってるはず。待っててな」
「ほう、それは予想外だ。あの女性、案外仕事が早い」
男が奥に下がり、しばらくすると技術担当っぽい短髪の女性を伴って剣を持ってきた。
剣を受け取って魔力を流してみる。うむ、魔力の流れがより淀みなくなった……気がする。俺には良く分からない魔導回路みたいなものもはっきりしたかな。
女性の方は、怪しいヘルメットの方を抱えている。
「ヘルメットの方は後で説明するとして~、剣は魔導回路の手直しと、多少の削りを掛けたよ。普通のメンテだね」
「十分だよ」
ヘルメットの話を聞く前に、既定の料金を払う。残金がぐんぐん減っていく。奴隷とか買わなくてよかった~!
「それにしても、解析早かったな?」
「うん、もっと時間かかると思ってた。でも、調べて見ると面白くてさ~、ちょっと夜更かししちゃった」
「徹夜してやったと」
「そんな感じ。特急割り増しにしたりはしないから、安心してよ!」
「ほどほどにな……」
羽根男の方がやれやれって顔をしていたので、止められたけど強行したのだろう。
こちらとしては、早い分には文句などないわな。
「それで、何が分かった?」
「まず強度からだけどー、普通の鉄のヘルメットくらいだね、そのままだと」
「そのまま?」
「うん。魔道具としての機能の話に入ると、まず魔力を流すことで視界が開けるのと呼吸の補助が出来る。これも結構技術的に凄いことだよ? そんで、魔力を流しているうちは強度も上がるみたい。壊すわけにもいかなかったから、音で判断したり、魔力の性質検査とかで地味に調べただけだけどね」
「ほお、強度も強化されるのか」
「なかなか多才な防具だよね。見た目がこれでなければ、かなり人気になりそう」
「見た目は、な……」
「あはは、言っても仕方ないよねぇ。で、眼の部分だけど、確かに暗視機能っぽいのがあった。あと多分、事前に設定するか意識して魔力流せば拡大機能もあるっぽい」
「拡大機能って、見ているものが大きく見えるという意味で合ってる?」
「正解。でも、ちょっとだね。おまけ程度のもの」
「気付かなかったな……」
「いちいち脱いで設定するのもおかしいし、魔力流すのを想定しているんだろうね。ただ、流し方に手順があるみたいだから、後で試してみて。これ私の予想した図」
「なるほど」
渡された紙には、ヘルメットのどの位置にどう魔力が流れると機能がオンになるのか、簡略化したヘルメットの図とともに書き込まれている。分かり易いな。
「あ、あと呼吸機能のところだけど、多分デフォで空気浄化してるね。本来の使い方か分からないけど、煙たい所とか悪い空気のところに入っても平気かも」
「かも?」
「おまけだからか、呼吸補助の一環だからなのか分からないけど、確実に浄化できるって代物じゃあないね。マスク付けてる程度の効果と思っておいた方がいい」
「なるほど」
「耳部分も多少いじってるね。外部の音が多少クリアに聴こえる程度だけど」
「ほお」
良く分からんが、ほんと、見た目の割にやたら多機能だわ。
「総じて、全体的に技術水準は高いけどまとまりがなくって、色んな機能を詰め込んでみましたって感じ。試作品だと思う」
「試作品か、だから安かったのかな」
「掘り出し物ではあると思うよ。一応掃除はしといたけど、魔導回路なんかはかなり高水準のもので、劣化も見られなかったし。あ、あとサイズ調整の機能もあったね?」
「ああ、キュって頭が締まるやつか」
「それそれ。単純だけど便利だよね~、私も装備系を自作するときは付けるようにしてるよ、そういう系。それあるだけで、売れやすさみたいなものが違うのさ」
「道理だな」
サイズぴったりの防具を揃えようとしてオーダーメイドなんかしたら、物凄くお高い買い物になる。
既製品の類は、俺たちの革鎧もそうだが、だいたい遊びを入れたり、ヒモなんかで調整するけど。
装備の方が勝手にサイズ調整してくれるファンタジーな機能は、様々な層から重宝されることだろう。
「で、色々機能があってことは、相応のメンテが必要かね?」
「どうだろう。干渉するような造りにはなってないから、そこまで気にする必要はないかもしんない。でも良く分からないってのが正直なとこ。気になるなら小まめにおいで」
「まあ、そうか」
便利だが、微妙に金食い虫な魔道具になりそうだ。
「さて、これで依頼した分は終わったわけだが、代わりにこれを預けよう」
リュック経由で異空間から取り出したるは、魔銃。
剣も返ってきたし、ある程度信頼できそうなことも分かったので、次は魔銃のメンテナンスの番である。
「あちゃー、まだなにかあったの?」
額に手を当てて苦笑する短髪さん。
だがその眼はこの辺りでは珍しいらしい魔銃にくぎ付けだ。
「2日後の朝まで使っていいから、メンテを頼む」
「いいけど……どういうものなの?」
「魔銃という魔導武器だ。魔石じゃなく自分の魔力を消費する。東の方の武器だとか言っていた気がする」
随分前に、オネェの店長がいた魔道具店でそんな話を聞いたような。真偽は不明。
「東の大陸の武器ィ? また貴重な物を使っているね。魔撃杖と同じようなものだと考えれば良いかな?」
「任せるが、分からない部分は無理に弄らないでくれ。特に魔晶石の部分は大事らしいから、出来れば手を付けないでくれ。そこは他の魔道具店でもお手上げだったからな」
「あーうん。ここは確かに、怖くて手を加えられないかも。……弄らないけど1つだけ。この魔力紋は元々?」
「いや、どうやら使い込んでいる内に付いたっぽいな」
「へぇ~……こうなるんだ」
しげしげと魔銃を眺めてなにやら頷いたりしている。壊されないかちょっと怖い。
「くれぐれも、壊さないようにお願いしたい」
「大丈夫だってば、勝手に弄ったり解体したりはしないよ。魔晶石周りも、忠告通り手を付けないと誓うよ。でも、初見の道具だから、どうしても万が一の場合はあるよ。それは理解して預けるって言ってる?」
「うーん、まあ……あり得ないわけではないだろうけど……」
「魔道具屋として、いや技術者として、あり得るリスクをないと言って依頼を受けるつもりはないよ。どうする?」
「分かったよ、万が一の場合はあると思っておく。ただ、余計なことをして壊したら賠償くらいは求めるかもしれん」
「そこは信頼して欲しいね。一応専門家の観点から、必要なことしかしない。それを後から余計なことって言われて怒られても困る」
「分かった、分かった。信頼して任せる。頼むぞ」
「喜んで請け負うよ。調査は要らないよね?」
「そうだな。ある程度のメンテで十分だ」
「了解。じゃあ確かに預かります」
相手もプロだ、そうそう壊れるこれはないと思うが……。信じて任せるしかないな。
「そういえば、一応名前聞いておいて良いか」
後々、誰誰に預けたはずだ……なんて話になったときに、名前を聞いておいた方が良かろう。これも今更ではある。
「あ、はいはい。ワタクシ当店の魔道具作成、修理等を請け負っておりますジローですです」
お茶目な感じに改まって自己紹介する短髪店員さん。
「二郎?」
「いえいえ、ジ・ローです、ロの方が高い音イントネーションです。はい、ご一緒に、ジ・ロー」
「ジ・ロー」
「そうそう。お客さんの名前は?」
「ヨーヨーだ。イントネーションは適当でいいぞ」
「ヨーヨーさんね、はい。今後ともご贔屓に~」
短髪店員の名前が判明したところで、魔銃を預けて店を出る。
ちなみに接客担当な羽根のある男の方はツィングと言うらしい。ウィングっぽくて分かり易いなと心の中で思う。
「さて、明日は準備をして、いよいよサザ山に挑戦か~」
「無理はなされませんよう」
「ああ、了解しているよ」
サザ山に備えて、早くに寝ることにする。おやすみなさ~い。
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