異世界 きまぐれぶらり旅~奴隷ハーレムを添えて~
さとうねこ
第1話 ニート、異世界へ行く
「あー、ヒマだ」
近野(こんの)羊平(ようへい)。無職。ニートな生活も数年目を迎える。
ただいまベッドでゴロゴロ中。
両親が事故でなくなって、兄弟とは疎遠。親戚とも付き合いはない。
両親の残した遺産と、主に昔のあれこれで稼いだ金を食いつぶしているところだ。贅沢をしたり外で何かすることに興味もないので、ほとんど出費もなく細々と暮らしているためどうにかなっている。
もちろん、高級品など置いていない。1つの例外を除いて。
部屋の中央に鎮座する巨大コンピュータは、俺自らがパーツを厳選して組み立てたもので、そこらの会社のメインマシンにも負けないだろうという変態性能だ。
寝るのに飽きると漫画を読み直すなり、このコンピュータで世間にいたずらして暇潰しをしている。
「なんか面白いことあるかね。うーん、おっ? 政府の使ってる仮想空間に変なもんがあるぞ」
アドレスを打ち込んで画面にネット情報を表示する……なんて古典的な時代ならいざ知らず、現代のネットは仮想空間を使った3次元的な広がりをもっている。
3年以上前に政府の職員が使う、どういうわけかオープン状態の仮想空間を見つけ、ときどき覗いては楽しんでいるのだが、情報をリークして糾弾でもするならともかく、暇潰しとしては意外とつまらないものだった。
どこどこの大使は子供から老婆でもいけるヤバいやつとか、そんなどうでもいい報告を見るのはちょっと楽しいが、大半は内部の人間にしか分からない数字の羅列やらお堅い報告が飛び交っているだけだからだ。
ただ、ときどきこうやって覗き見るのは、スパイごっこみたいでちょっと楽しいので、スパイウェアを潜ませて気楽につまみ食いをして過ごしている。
そんな仮想空間に、やたらと堅固な防壁が張られた、場違いな何かを発見した。
まるで侵入されることが分かっているかのような用心だし、機密情報にしても過剰すぎる。それに防壁の類が、一見して超旧式から最新式までごっちゃまぜで、何がしたいのか分からない。
「あそこまでされると、侵入してみたくなるな……まぁ、防衛されたら逃げればバレはしないだろう、見てみよ」
ニート生活で無駄に磨いたハッカー能力をいかんなく発揮しつつ、防壁を1つずつ剝がしていく。
意外といけそう。
こいつを開いて……あれ、これは働いてないじゃん……むしろ解除しようとすると攻撃されるやつか?
うん……ふむ。
お、開いた。ん? メッセージが残っているだけ?
『君は異世界へと旅に出たいか?』
……?
はい、と返答してみよう。
『よろしい、では今夜』
ん!?
なんだ? 消滅してしまった。
まぁ気にすることないか。仮想空間でイタズラをして暇潰しして遊んでいる同類とかかね?
「まあ、いいか」
久しぶりにイベントっぽいイベントだったし……ちょっと中身は拍子抜けだったけども。
労働して疲れたわーまじつれーわーと言いつつまたベッドにごろりん。
************************************
目を覚ますと、えんじ色の床、絵画なんか飾られている壁、背表紙の揃えられた品の良い書棚。
どこだここ?
俺の巣はこんなハイセンスな部屋じゃねー!
「やぁ、迎えに来たよ」
声がして振り返ると、これまた高級そうなソファに、足を組んで座る生意気そうなガキが一人。
真っ白なスーツのような服で、髪の色もきれいな白。
そんなに白が好きなのか。
「……どこだ、ここ?」
「ん? んー、まあいいじゃないか。それより、異世界に行く旅に応募してくれた人だよね?」
白髪のガキは首を傾げると、紅茶のカップを静かに持ち上げて、上品そうなしぐさで飲んだ。
「……応募? あの変なメッセージを送ったやつか?」
「ああ、そうそう。メッセージ流そうとしたら、その前に防壁解除されて読まれたからちょっと焦ったよ」
「お前、政府の関係者か?」
「え? いやいや。違う違う」
「じゃあ何者だ? ここは……仮想空間か? 何か変なところだ」
何か、灰色の感じがするというか。
仮想空間にダイブしているときの感覚に近いが、違う。
妙なリアルさを感じる。
「あ、気付いちゃう? そうだねぇ、君たちの言う所の仮想空間に近いかな。でも、気を付けなよ。ここは時間も、空間もない世界だから」
「あるじゃねぇか」
「そう見せているっていうだけさ。まあ、この部屋に居れば死なないからそう気にしなくてもいいけどね。ここから出るのも難しいし」
わけがわからん。
「それで、お前の目的は何だ?」
「え、最初に言ったじゃん。異世界に行く人でしょって。その確認をしているだけ」
「……本当、なのか? 異世界に行くとか、なんとか」
「あ、さては軽い気持ちで返したね? やっぱり正規の手続きじゃなかったから……まったくもう。まあ、だからこそこうやって最終確認する手順があるわけだけど。誤解があったなら、君は行かないってことでいいかな? まだ引き返せるよ」
白髪のガキは軽く顔をしかめてから、こちらを向いて面倒くさそうに言った。
「待て、待て。色々と想定外だ。異世界があるというなら、俺だって行ってみたい。だけど、どういう目的で、どういう世界に行くかで話が違うだろ」
これは夢なのかもしれない。
が、夢だろうと、なんだかおもしろそうなイベントを逃すのは勿体ない。
「そうか、なら簡単に説明しよう。僕の目的は調査。君には僕の代わりに異世界に行ってもらって、そこに何があって、どうやって人々が暮らしているかなんかを簡単に報告してくれればいい。行く世界は……そうだなー、ちょっと待ってね」
白髪のガキは手許を軽く振って何かを操作しつつ、ふんふんと頭を振って何かを読んでいるようだ。
「君に行って欲しい世界は、えーと、君ってゲームとかする?」
「そこそこ」
「うん、ならジョブとかスキルとか、そういうのがあるRPGってやってる?」
「古典的なやつな。オフラインのRPGはしばらくやってないけど、MMOの類ならそういうのもやったことがある。というか極めた」
「極めたんだ……まぁそれなら分かりやすいかな。どうやらジョブとスキルのシステムが稼働している世界らしい」
「ジョブとスキルが? ジョブって、無職とか銀行員とかそういうのじゃないんだよな?」
「ないねー、それこそ戦闘系のRPGのように、剣士とか魔導士とかそういう感じっぽいよ。詳しいことは良く分からないけど」
「分からないのかよ。スキルがあるなら、異世界に行くついでに便利なスキルくれたりとか、特典みたいなものはないの?」
「ないねぇ。異世界行けるのが特典でしょ」
「そ、そうか……でもそれだと、あちらに行ったとたんに死んでしまって報告できないこともあるのでは?」
「まぁね。だから行くのは君一人じゃない。安心したまえ」
「安心できねぇー!」
この人(?)、平然とした顔で言うから余計に怖い!
「まあ、転移先は危険がないところにしてあげるから、すぐに魔物に出会って死ぬなんてこともないでしょ」
「……魔物、がいるのか?」
「そうそう。頑張ってね」
「マジかよ。本当にゲームの世界だな」
「というか、君たちの世界に魔物がいないのが奇跡的な確率なんだけどね。周辺世界はだいたい魔物天国だもの」
「マジで? 周辺世界って……」
「異世界があるってことは、いくつもの世界があるのだと、理解はできるでしょ? それぞれで関係の近い世界、遠い世界があるのさ。君の世界に近い世界は、だいたい魔物が跋扈(ばっこ)している」
「……待てよ。お前が自分で行かないのって、その近いとか遠いとかに関わってるのか?」
「おお、鋭いね。そう、僕は簡単に言うと、遠すぎて調査対象の世界に行けない。だから君みたいのに頼むんだ」
「俺みたいなの?」
「そう、仮想空間なんかを使っていて、異空間慣れしているやつ」
「仮想空間と異世界って、関わっているのか」
「むしろ関わってないって考えるほうがおかしくない? 仮想空間って、現実にはない空間を利用しているんだからまぁ、異世界を使ってるようなもんだよね」
こちらを小馬鹿にしたように鼻で笑う。いちいち仕草が鬱陶(うっとう)しい奴だ。
「そうなのか」
「異空間慣れしてない人が異世界転移とかすると、酔いが酷いからねー」
「酔うの?」
「うん。酷いと精神崩壊してそのまま死ぬよね」
「酔うってレベルと違くない!?」
でも、もし本当に、これが現実なら。
どうやら異世界って本当にあるのか。オラちょっとワクワクしてきた。
「もしかしてお前って、神様とか4次元人とか、そういう存在なの?」
「ははは、違う違う。いやある意味神様なのか?まぁ自分ではそう思ってないから、違うよ」
「そうか」
このガキはなんなんだろう。まぁいいか。
「それで、君は異世界に行くのか? 行かないのか? ちなみに行ったらもう、帰ってはこられないけど」
「その話が本当なら、行く。元の世界は飽きたからな」
「そ、そうなんだ。まぁ行ってくれるなら言うことはない」
「どうせ何の未練もない孤独人生だしな。何か準備が要るか?」
「いや、きちんと同意が取れたらそのまま転移する手はずだったから」
「ま、待て。元の世界から何か持って行けないのか?」
「うーん、服、くらいかな。あんまり持っていくと、異世界病にかかって精神崩壊するよ」
「すぐ精神崩壊するな!? なんなのそれ」
「異世界ってそういうもんだから」
「そうなのか……」
チートスキルがないなら、何か地球産のものを持って行ってチートとかしたかったけど、無理か。
携帯すら持って来てないな。
ポケットをゴソゴソしていると、1つの機器を発見する。
「あ、それならこの端末だけいいか?」
小さな、片手に余裕で収まるサイズの小型の仮想空間接続装置だ。
「ん? それ仮想空間の?」
「そう。この端末だけで簡単な操作ができるやつ。小さいし、服の一部として許可してくれない?」
「うーん。まあいいんじゃない?失敗しても君が死ぬだけだし」
「……。うん、まあ、よろしく」
「よーし。それじゃあ転移させるから、頑張って!」
「あ、そういえば報告って何をどうすればいいのか聞いてないぞ」
「報告のための接触はこっちでするから。報告内容は、世界の様子についてざっくりしてくれればいい。それ以外は、好きに生きればいいよ」
「そか。じゃあな」
「うん、それじゃあまたね」
ガキが腕を振ると、部屋の後ろの扉が開き、光る壁が向こうに現れた。
「これをくぐればいいのか?」
「そうそう。途中で止まらない方がいいよ。精神崩壊する」
「またそれかよ! 分かったよ覚悟を決めていってくるわ」
光の壁をくぐって進み続けると、何も置いていない小さな部屋に出る。
「……もう異世界に渡ったのか?」
さっそく仮想空間の端末を展開してみる。展開しない。
「え。仮想空間ないの?」
元の世界では俺の唯一の長所ともいえた仮想空間操作。それができないとなって焦りを感じる。
「マジかよー……言っておいてくれよ、先にー……これも報告内容なのか?」
ぐったりしつつ、端末をいじっていると見たことのない表示が。
************人物データ***********
近野羊平(人間族)
ジョブ 干渉者(1)なし
MP 10/10
・補正
攻撃 G
防御 G
俊敏 G
持久 G
魔法 G
魔防 G
・スキル
ステータス閲覧、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ
・補足情報
なし
***************************
おふっ、なんだこれ。仮想空間は展開できなかったが、ゲーム画面みたいのが出て来た。
まぁ異世界だ、そういうこともあろう。関心は、出て来たステータスに移る。ジョブってのは、勝手に設定されるのか。しかし『干渉者』って。
もしかして、異世界から来ているから自動的に設定された?
でもその隣に「なし」って。無職は異世界に行っても無職だよ、という戒めか。失礼なやつだ。
補正ってのに書かれている「攻撃」とか「防御」ってのは、まあいかにもゲームのステータスだな。Gってのは高いのか、低いのか。まあ普通に考えると低いんだろうな。
オールG。どうなんだ。
スキルが「ステータス閲覧」になっているからこの情報が見えていると考えると、普通は見えないのか。それともこの世界の人に標準装備なのか。
ステータス操作ってのもあるな。ちょっと操作してみよう。
お。名前設定できるな。いつもゲームで使っていたやつに換えておくか。
ジョブは……お?
干渉者から変更できそうだぞ。なるほど、いつでも変更可能なのか。なれるのは……
旅人(1)
市民(1)
ごろつき(1)
えー。ロクなのない。
ん? 「ジョブ追加」ってことは、ジョブが新規で追加できると……ああ、「なし」は2つ目の職業が空いているのか。
「なし」を『旅人』に変更しておく。よし、オーケイ。
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ 干渉者(1)旅人(1)
MP 12/12
・補正
攻撃 G
防御 G
俊敏 G
持久 F-
魔法 G
魔防 G
・スキル
ステータス閲覧、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ
ステータス証明
・補足情報
なし
***************************
持久がかなりアップしているぞ。そして『旅人』のスキルはステータス証明か。ちょっとやってみよう……、おお。何か新しいウィンドゥが出て来たぞ。
「名前 ヨーヨー 種族 人間 所属 なし 犯罪 なし」
と簡潔に記載されている。ん? というか、これ日本語と違うな。こっちの言葉か。しかし読める……ああ、あの神様もどき?のガキが読み書きできるようにしてくれたのか? 一言いってくれれば感謝したのに。ツンデレめ。
さて、ステータス証明は名前やら犯罪歴やらを証明することが分かった。役に立たねー!
あ、一度『市民』に変更してみよう。
************人物データ***********
ヨーヨー(人間族)
ジョブ 干渉者(1)市民(1)
MP 11/12
・補正
攻撃 G
防御 G
俊敏 G
持久 G
魔法 G
魔防 G
・スキル
ステータス閲覧、ステータス操作、ジョブ追加Ⅰ
居住証明
・補足情報
なし
***************************
居住証明? ああ、さっきの紙みたいな感じで、ちゃんと居住していますよ、と証明できるのか?
い、ら、ねぇ~~……
『干渉者』を外すとステータス操作ができなくなる恐れがあるので、とりあえず『干渉者』は外せない。
2つ目は……
まあ、とりあえず『旅人』でよかろ。
「持久」が地味に上がるし。
ちなみに、ごろつきのスキルは「威嚇(いかく)」。
意志の弱い相手に恐怖心を与えるとかだろう。
どうでもいいわ。
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