第四十八話 真相(解決編2)
「のぞみちゃんさあ、今まで疑問に思わなかったの? どうして実の娘が死にそうなのに、ママがお見舞いに来てくれないのかって?」
真幌の体に憑依し、少年の姿となった死神の黒猫。
そんな坊やが、ベッドの上の望美に問い掛ける。
困惑の表情で望美が答える。
「それは……おかあさん、あたしの事を嫌ってたから……もう、あんたなんか実の娘じゃないって……」
「まあ、それっていわゆる可能性のひとつって奴だよね」
したり顔で少年が続ける。
「そう、見舞いに来ない理由となる可能性は三つ。ひとつは入院の事実を知らされていない。まあキミの転落事故は地方ニュースにもなったことだし、互いに絶縁状態とはいえ消息不明ってわけではないから、これは考えにくいよね」
こくりと頷く望美。
「ふたつ目は、さっきのぞみちゃんが言ったように自分の意志で来ない。そして三つ目は?」
「……物理的に足を運びたくても運べない?」
少年が首を縦に振る。
「正解。それが真相だったんだよ」
「そ……それって……」
「そう、のぞみちゃんのママは別の病院で入院していたのさ。末期の
衝撃の事実を聞かされて、愕然とする望美。
「そんな……そんなことが……だって、おかあさんは元気だった。だって、つい先日あたし、この目でおかあさんが家から出て仕事に向かうところだって見たのに」
望美は先日実家に行った時、平然とした顔で水商売のスナックへと通勤する母の姿をこの目で確認した。だから一週間前までの自分と同じく、こん睡状態で動けないなんてありえない。どう考えても不可解だ。
「クックックックッ」
「……ちょっと、なにがおかしいのよ?」
「クックックッ、まーだわっかんないかな、のぞみちゃん?」
「ってだからなによ?」
「だーからぁ、それはキミのママの生霊だよ」
「なっ!」
厚化粧は水商売の仕事用ではなく、すぐれない顔色を隠すためのものだったようだ。望美は以前、自分が生霊だと気付く前に自分が取った行動を思い出す。
【反面、首から上は重装備。心なしか厚化粧だ。鏡の中の顔色が優れなかったせいもあるが、気合が少々入りすぎたのかもしれない】
「そう。何から何まで、ちょっと前までの、のぞみちゃんと同じ状態だったってわけさ。ほんーと、似たもの親子だよねぇ。クックックッ」
それにしてもである。逆に母の入院の方は、どうして望美の耳に伝わらなかっただろうか。
絶縁状態だったとはいえ、住所も連絡先も知っている筈だ。
もしや母自身が、娘への連絡を頑なに拒んだのだろうか。
そんな疑問を浮かべながらも、呆然とする望美。
「で、のぞみちゃん、さっき言ってたよね?『どうしてあたし生きているの?』って。その理由となる可能性は、ただひとつ」
少年が人差し指を突き立てる。蒼い瞳がきらりと輝く。
「のぞみちゃん自身以外の誰かが、冥土の土産の契約としてボクに奇跡を願ったからに決まってんじゃん? 自分の魂と引き換えに、のぞみちゃんの命を救ってくださいってね」
望美が神妙な面持ちで、改めて契約書に目を落す。
「そう。自分の命を投げ打ってでも、自分以外の命を助けたい。そんなのってフツー、よっぽどの聖人君子か、実の親以外にありえないよね? それがすべての答えなのさ。自然の摂理ってやつだよ」
望美が少年から受け取った冥土の土産の契約書。
そこには、まぎれもなく見覚えある母親の筆跡で、こう記し刻まれていた。
【契約書 私の魂と引き換えに、娘、望美の命を救ってください。 20XX年10月1日 逢沢 佳苗】
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