infiction:C~SeekColor~
telluru
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一、或る黄昏にて
「ねぇ!貴方、大丈夫?」
その呼びかけに意識が呼び覚まされた。一番に目に映ったものは見知らぬ少女の顔。ゆっくりと起き上がり周囲を見渡したが……何も思い出せない。ここで目を覚ます、その前の記憶が抜け落ちている。
「う……ん、ここは……?」
自身が倒れていたのは丁度木々の開けた原のような場所。確か自分は進学で本州へ出てきて、寮への引越しも完了して、それから……?ダメだ、思い出せない。軋む頭を押さえた。
「……!ケガ、してるの!?」
そこで漸く目の前に意識が向く。チョコレート色の長い髪を真白いリボンでポニーテールに束ねた少女は、不思議な服装をしている。裾が虹色に染められた白いドレスのようで正面の裾が大きく開いた……少なくともあまり現代日本の普段着にそぐわないデザインだ。
「ん……少しボーッとするだけで怪我はないと思います」
「そう?よかった……」
受け応えながら視線は彼女の周りを彷徨う。手元の大きな杖の様なものに目が止まる。貝殻のように光沢を返す杖先の真ん中には、どういう原理か水晶球が浮かんでいる。傍らにはこれまた衣装にそぐわぬ小さめの麻袋。不自然極まりないが、もしかすると近隣でコスプレの撮影でもしてた人なのかもしれない。
ほっとして人懐こい笑みを浮かべる少女に手を引かれ、一先ず立ち上がる。自分の服装は転入先の制服、周りは森の小道のような場所。普通に考えれば登下校の最中に倒れた状況だろうけど、僕の通学路にこういった道はなかったはずだ。ここは何処だろう、なぜこんな場所に倒れていたんだろう。そしてこの子は……?
グルルル……。
突如聞こえた低い唸り声に、咄嗟に茂みの中を睨む。そこには森の闇に紛れ光る目玉が二つ、否四つ、六つ、八つ。
獣の殺意が僕らを突き刺す。野犬か?数が多そうだ。
はたと気づく、鞄がない。通学用の鞄。勉強道具から何から入っていたから、ぶつければ多少は威力があっただろうが、生憎僕はいま丸腰だった。
「
少女が息を飲み、後ずさった。
砂利を躙った音が静寂に嫌に大きく響き、それを獣どもは聞き逃さながった。野犬が一斉に動き出し、砂埃が巻き上がる。
飛びかかってくる一体の牙を寸で躱し後頭部を肘で殴るが、別の個体の爪にかかり腕から血が滴った。
「うっ」
焦がすような痛みが後からジワジワと襲う。
少女は何か叫びながら握り締めた大柄な杖を一心不乱に振り回していた。そのおかげで野犬は近寄れていないが、これを続ける体力も時間の問題だろう。
僕はただの文系男子でしかも丸腰、少女は見るからに武力面で頼りなさげ。これは確実に万事休すだ。
彼女の杖を借りて野犬を払いのけながら逃げれば、辛うじて助かるかも知れないと思い、彼女に呼びかけようとした。
瞬間。
彼女を中心に突然光が沸き立った。野犬の群れは怯み、僕は目の前の現象を飲み込めず見入った。
「早く、手を!」
彼女がこちらへと手を伸ばす。
言われるがままにその手を掴む。
僕らは共に光の洪水に飲まれた。
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