やさしい調教
@monsiurbeat
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カーテンから眩しい朝日が覗いている。
雀の鳴き声。
快晴。
知らない天井。
布団の柔らかくていい匂い。
殺風景な自分の部屋とは違う、可愛らしい小物の数々。
「ここ、あの子の部屋か」と独り言を言いながら目を覚ます。
昨夜の奇妙な出会いから一夜明けて、寝起きの頭で状況を整理しようとする。
「薫子」と名乗った彼女は、既に起き上がっていて、キッチンで何かしている。
「おはようございます」
彼女が少し笑って言う。
「パンとかで良いですか? 朝ごはん」
「・・・はい。ありがとうございます」
頂いてしまって良いのだろうか。
繰り返すが、僕と彼女は昨夜知り合ったばかりで、恋人でもなんでもない。
朝食の準備をする彼女の後ろ姿(パーカーを羽織って、下はショートパンツというラフな部屋着だ)をぼんやりと眺めていた。
(昨夜は、あの中にたっぷり中出ししたな・・・)と、彼女の形の良いお尻を眺めながらぼんやり思った。
「何か手伝いましょうか?」
「いいですよ。お客さんなんだから、待っててください。あ、苦手なものあったら言ってくださいね」
「特にないです」
彼女は昨日よりも明るい表情だ。セックスした男を自分の恋人だと思っているのだろうか。
天気が良い。2人とも休みだが、こんな日は恋人同士だったらどこかに出かけたりするのだろうか。そう言えば、僕も長い間恋人はいなくて、そのへんの感覚は随分味わってない。
「簡単なものですけど」
と、出された朝食はトースト、目玉焼き、ウインナー、サラダ、牛乳。何の変哲もないけど、しっかりした朝食のメニューだ。
「いただきます」
「いただきます」
と言って食べ始める。
「晩ご飯は、持ち帰り弁当ばかりですけど、朝ごはんはちゃんとしたいんです」
と彼女。残業で疲れた日は作るのが面倒らしい。
彼女は、聞かれてもないことを自分から話し出す癖があるけど、こっちは相槌を打つだけで済むから楽でいい。
他愛ない話に相槌を打ちながら、食事をする彼女をじっと見てしまう。
ウィンナーを口に入れる彼女。
半熟の目玉焼きからとろりと垂れる黄身。
牛乳を飲む彼女。
連想してしまう事柄に品はないとは思うが、身体から始まった関係なのだから卑猥な目で見たっていいだろうと思う。
「ごちそうさま。美味しかったです」
と言って僕は立ち上がり、
「洗い物はやっておきます。洗ったらこっちに片付けておけばいいですか?」
と言って食器を持っていこうとすると、
「いいですよ。私がやります」
と彼女が言った。それでも、
「洗い物くらいさせてください」
と言って半ば強引に押し切った。
セックスにしても家事にしても、してもらうばかりは性に合わないし、こういうことで精神的な負荷をかけられたくないのだ。
食器を拭いて食器棚に直すと、
「じゃあ、帰りますね。ごちそうさまでした」
と、素っ気なく伝えて立ち去ろうとする。
「帰るんですね・・・」
と、少し寂しそうな彼女。いやいや、このまま今日一日を、どういう関係として過ごすつもりだ? 僕は妙に冷静になっていて、とてもじゃないが「恋人みたいな甘い気分」で一緒に過ごせそうにはなかった。わけのわからない関係なんて一夜限りだ。
彼女は僕をじっと見ている。
なんだよ。寂しそうな顔するな。
あ、そういや、「次は」って言ってたっけ。
それに、やっぱり勿体ない気もする。
僕はスマホを取り出し、
「連絡先、教えてください」
と言った。
彼女もスマホを部屋から取ってきて、
「LINEでいいですか? えっと、どうするんでしたっけ」
「QRコード、これ読み込んでください」
僕の画面に「かおるこ」という名前と芝犬のアイコンが表示された。
「できました」
「かわいい犬ですね」
「はい。クーちゃんて名前で、実家にいるんです。会いたいな」
と、彼女が少し浮かれた口調で言う。
「そう言えば」
と、僕は彼女の顔をじっと見て
「薫子さんって、犬みたいですね」
と言った。なんとなくそう思ったのだ。
「誰にでも、懐くわけじゃないです」
と、俯いて照れた顔で言う。
「そうだ。今日、首輪買ってきます」
僕はまた急にSの顔になり、彼女は驚いた顔をしている。
「今夜、持ってきますね」
彼女は、俯いて、
「はい」
と答えた。
薫子さんは犬だ。
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