採用試験当日

 ――黒羽夜一


 冒険者ギルド、鍛冶ギルド、商業ギルド等々。

 所構わず使えるものは何でも使って講師募集の宣伝をした。

 採用試験を課した。今日が試験当日。

 いつもより少し遅い起床。

 いつもならば呆れた雰囲気を漂わせたセルシアに身体を揺さぶられて、「あと5分」「ダメです。起きてください!」なんて新婚気分を味わいながら目覚めるのだが、この日は違った。

 セルシアとの甘いやり取りではなく、いつもよりも騒がしい喧騒で目が覚めた。


 魔力で充電するスマホは今日もしっかり起動している。

 画面をスライドさせると大きく時刻が表示される。


 まだ10時じゃないか。

 今日の採用試験は13時から。時間はまだまだある。

 ゆっくり寝られると思っていたのに……

 全くもって騒がしい。

 今日、お店は休業だぞ。

 休業中の店の前で何を騒いでいるんだ。

 面倒だが注意しないといけないだろうな。


 重い腰を上げて、手櫛で髪を弄りながら近場にかけてあった服を見繕う。

 身なりを整えてから外に出る。


 ――ざわざわ……

 ……なにこれ?


 ガチャリと店舗のドアを開ける。

 そこには見渡す限りの人、人、人。人の海である。

 まぁ、何が言いたいかというと、人がめちゃくちゃ多いということだ。

 今日って祭りか何かあったっけ?

 王都で見かけたことのある人が大半だが、中にはエルフやドワーフ、魔族の姿も見られる。

 人の海に目を奪われていると、その中に、人波に飲まれ今にも溺れそうになっているセルシアを見つける。


「あっ! ヨイチさんッ!! たすけてください――ッ!!」


 朝から元気だなぁ。

 なんだか和む。

 だが、男性にもみくちゃにされているセルシアの周りの男どもがグヘヘと笑っている幻聴が聞こえてき始めた。

 無性に気分が悪くなったのでズカズカと人並みに歩み寄りセルシアの手を掴み引っこ抜いた。


「あ、ありがとうございます」


「店長、これは一体何の騒ぎですか?」


 セルシアに尋ねると、


「皆さん講師募集を知って試験を受けに来たんですよ!」


「えっ? 多過ぎませんか? それに試験は13時からですよ。まだ3時間もありますよ」


「試験開始時刻とか書いていませんでしたからね。早く来た方が有利になると思った方も多いのでは?」


 確かに思い返してみてもそんな記述をした覚えはなかった。

 うん。これは僕のミスですね。


「だいぶ早いですけど試験はじめますか?」


「そうですね。このままじゃ近所迷惑でしょうし――なによりこんな騒ぎで店の評判が落ちるのは困りますからね」


 想定よりも多くの受験者が来てしまった。

 面接試験を予定していたのだが……骨が折れそうだな。


「準備をしましょうか、店長」


「わかりました」


 セルシアは試験の準備の為に店舗へと戻る。

 その後ろ姿を見送ってからしばしの間考える。

 まずは受験者を割り振らないとな。


「皆さん。お待たせしました。今から王都専門技術学校、講師、採用試験を実施したいと思います。」

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