第2話 ホントすいませんでした……もうデュエルではイカサマはしません……。

 俺は異世界転生したわけではない。こういうありがちな話にはよく異世界転生というレッテルが貼られるが、「異世界転移」という認知度の低い用語をご存じなら議論は無駄だろう。「転生」するためには一度死ななければならないわけで、つまるところ、ファンタジーにおいて何で一回死ななければならないのという疑問が俺にはある。ハリーポッターだってゼロの使い魔だって転移やぞ。普通やん? 何で死ぬの? よくなろうとかで転生小説見るけどなかには無理矢理死なせてるのとかあるよね? 馬鹿じゃないの最近の作家おっとアから始まってチで終わる何者かに睨まれている気がするのでどうでもいいモノローグはこの辺にしておく。


 ふと目が覚めると俺はTシャツ姿のままで、ふかふかで豪奢なベッドに仰向けに横たわっていた。脇にはエヴァドニが中腰で立っていて、炎髪が俺にかかって俺はくすぐったくくしゃみをした。

「ああ、大変失礼いたしました魔王様」

「おまえいきなり転移して魔王様とか調子に乗り過ぎじゃね?」

「そんなことございませんわ。可愛らしいくしゃみをなさって」

 まあ何も咎めることはしないことにした。

「なぁエヴァドニ」

「なんでしょう魔王様」

「俺のことはアイジと呼べ。それからあのメモはなんだ」

「え……やっぱり話さなくてはなりませんか」

「話さないなら俺が言い当ててやろうか」


「お前、自分に自信なくなったんだろ」


 エヴァドニはにっと上がっていた口角が徐々に下がり、うつろな目をして、

「そうです。さすがはまお……アイジ様ですね。もうあなたは魔王軍の頂点に立つ立派なはしくれ」

「はしくれとか何気に失礼だぞうんこ漢字ドリルから国語やりなおせ」

 一瞬エヴァドニは俺のボケに対しきょとんとしたが、また嘆息してから、

「……お話しますと、初代の魔王は三位一体の神と互角に対立するほどの荘厳な存在でありました。混沌と調和の抗争により、この虚数時間より始まりし今も無限に膨張するアルタイル界は波乱万丈の歴史をたどり、そして勇者という我々にとっての脅威が生れ、魔王軍は魔界エグゾディアボロスという新たな次元を作って退避せざるを得ませんでした。そしてその初代魔王はエンディミオンと名付けられています」

 なんだか世界史Bの抗議を受けてるみたいで退屈するなぁ。しかし何故かここでエヴァドニはハンカチを取り出し、

「そこまでは良かったんです……そこまでは良かったんですが……エンディミオン様が逝去なさった後の魔王からおかしくなってしまいました。私とエンディミオン様の間によってお生まれになった次期魔王ラッセル・エンディミオン二世はそれはもう大層な美青年でしたが、ごめんごめんと謝ったり、反省するという魔王にあるまじき好青年でありながら、無為徒食で釣りばかりしており、その息子──まぁ私の息子になるのですが、それも母である私にくすぐりっこやパイタッチなどのセクハラをして仕方なくだまくらかして人間界に突き落とし過ぎ越し祭の生贄にしたのです……しかしその次の息子も……その次の息子も……もう私はアイジ様がおっしゃる通り威厳がなくなり、私はもう、大元帥らしいことを言う時はメモ書きがないとダメで……」

 そのまま泣き崩れたエヴァドニ。

 これを言ったらおしまいなんだが、堕落した魔王のDNAが全部自分から派生したものだという自責の念に駆られた挙句、どういう由縁か知らんが魔王を公募する形になったのだろう。

 しかし何故俺なのか。それは当然の疑問なんだが、すこし空気を読んでそれは今度質問することにしたのだった。

「なんで魔王は寿命が尽きてお前は何年も生きているんだよ」

「賢者のい」

「わかったもういい。こんな世界もうやめよう」

 しばらくエヴァドニの背中をさすってやり、彼女が元気になるのを待った。


 それから俺は魔王の正装をさせられることになった。悪魔神サタンの頭部を模した兜、高級そうなビロードのマント。重い肩パッド。ちくちくする黒いローブ。宝石の施されたベルト。総額百万はくだらない(この世界の通貨で言えば約3000万ミオンになるらしい)魔王の風格がやっと備わった、やっと、やっと備わったよ!

 …………。

 ………………………。

「……俺魔法使えるんすか?」

「アイジ様の護衛は我々精鋭にお任せを。アイジ様はその冴えわたる叡智で私たちに指示を出していただければ」

 DE☆SU☆YO☆NE!!!

 俺魔王ちゃうやん、単なる参謀やん!


 そんなわけでその精鋭たちとの会食をすることになったので、夕餉の支度ができたとのことで食卓まで案内された。


 ステンドグラスの張り巡らされた巨大な窓の上には明り取りがあり、そこからの月光と燭台の火が魔王の広い食卓を怪しくそびやかす! さぞかし豪勢な宴だろう、何せ新生魔王の誕生なのだからな!

 …………。

 ……………………。

 青い髪の死んだ目をしたジト目の少女がひとり。

 金髪で読書をしている10歳程度にしか見えないガキがひとり。

 そしてニコニコほほ笑む銀髪の長身の男がひとり。

 ……だけであった。


「帰っていい?」

「だめええええええ!!」


 エヴァドニは激しく泣きつき、俺のビロードにしがみついた。

 次回から、愉快な仲間たちが登場するよ!お楽しみにね!

 あ、意味分からないけど今ぎっくり腰になった。寝なきゃ。

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