とうとう魔王までゼロから始めることになった

神羅神楽

第一章 魔王城の奇天烈な精鋭たち

第1話 ゼロから始める魔王生活(大丈夫すかこのタイトル)

 澄み渡る空。強者共が夢の跡。ってどういう意味だっけ。

「んん……」

 日輪が地平線の向うで窓に光をさしている。しかしこの寝室はぼんやりしている。なにせ広い。燭台の蝋燭はとっくに蝋が融けて灯は消えうせている。俺を包み込んでいるシーツは羽毛でできており、生地もしっかりしておりこの中世だろうか、まさに王族のものだと思われる。

 目覚めた俺は、身体を起こし、

「魔王軍も斜陽族となったわけか……」

 と、気障なことを述べて顎に生えた髭を撫で(とはいえ俺はまだ齢17なので毛は薄いのだけれども)、あくびをひとつすると、


 胸元に除く青い髪の少女。寝入っているようだが。うーんちょっと待てよ、この館に棲みついて、というか俺が主なのか、3日目になるんだけれど、

「え? ……つか、あんた、名前なんだっけ」

 夜這いの主犯格を俺は知っていた。

「エレミヤ様――――――っ!!!!」

 屋敷じゅうに響き渡る女性の甲高い声。すると大きな寝室の戸を開き、ネグリシェ姿の豊満なボディラインを浮きでさせた、角の生えた女性──悪魔大元帥エヴァドニが入って来た。そして俺のベッドにとびかかり、エレミヤと呼ばれた(ああ今思い出したわ)青い長髪の少女の頬をつかんだ。

「んぐぐぐ」

「エレミヤ様、また夜這いですか! こんどはどうやってアイジ様の結界を破ったのですか!?」

「あぐぐぐ」

「おいエヴァドニ、顎を掴んだら喋れないだろ」

 俺がエレミヤを擁護するつもりもないけれど擁護になっているっぽい発言をすると、エヴァドニは顔を紅潮させて涙目でこちらを見て(うわエッロぃ顔だな)、

「何故アイジ様は私と同衾なさらないのですか! 夜伽の相手なら私で十分でしょうに!」

「うん、エヴァドニはエロいよ。だから言ってるじゃないか、お前昨日ローブ姿で入って俺がウェルカム状態のアソコ見せて以来言ってるじゃないか、この貞操帯外してくれよ。トイレのときすげえめんどくせぇんだよ」

「そっ……それは……」

 エヴァドニはいっそう顔を紅潮させる。そう、めんどくさいことに俺のアソコには貞操帯が装着されている。エヴァドニは、よほど俺のアソコがグロテスクでトラウマになっているらしい。エヴァドニは先代から魔王の夜伽をしていたそうなのだが、なんてことだろう、エヴァドニ曰く先代までの魔王のアレは可愛いものだったという。確かに俺のアソコは巨大で、引きこもる前に交際した彼女といい感じになってやろうとしたがなんと入らない。というか、それでいいのか先代魔王よ。

 まぁそういうわけだからエヴァドニの巨乳でパイズ……ゲフンゲフンしたくてもできなくなった。つかそんなことどうでもいいですよね。はい話しますよ話します、どうして俺が魔王と呼び慕われるようになったかを。


 ことの発端は俺が引きこもりになった高二のとき。担任教師に単位の都合上最低でも修学旅行に行ってもらわないと困ると泣きつかれたことで、知らないメンツの班に入れられ、気まずい中、すごく気を遣ってもらって、大富豪とかやったりしてたんだが。奈良の法隆寺に見学した際、いろんな仏壇を見て回った。「重要文化財」だとか「国宝」だとか(「国宝」の方がグレードが高いらしい)、そういったものをぼーっと眺めて足が疲れていたのだが、突然、すごく権威のある仏壇が、ガラスケースに入っていたのだけれど、何者かにどん、と突かれ、あろうことかガラスケースを貫通してその仏壇を壊してしまった。みんな青ざめ、驚嘆し、しまいには警察に通報しだす連中まで現れた。そんななか、俺はとつぜん別のところに転送された。


伊藤愛爾イトウアイジ様ですね」


 これがエヴァドニとの出会いだった。そこは奈良の大仏の中だ、とあとから教わった。

「はあ……」

 身体の力が抜けて間抜けた返事をした。

「私は魔界エグゾディアボロスの魔王城に仕える悪魔大元帥、エヴァドニでございます」

「エヴァドニ……」

 彼女は炎髪を長く垂らし、胸元の開いたドレスを着ていて、煽情的で俺は巨大な例のアレを勃起させた。

「下半身が急に盛り上がったようですが」

「ハムスターを飼っているんですよ」

「…………」

 てへ☆ と俺は頭を小突いた。エヴァドニは咳ばらいをして、

「お願いします、どうか、どうか……」

 なんだ、頼みがあるなら菓子折りぐらい用意しろよ、いやそんなことを言っている場合ではない。エヴァドニは腰を下ろしたかと思えば土下座の体制に入り、

「……お願いです、我らがエクゾディアボロスの次期魔王になってください!」

「いやです」

「ああああああああああ!」

 突然エヴァドニは滝のように涙を流した。なんか面白いなコイツ。

「お願いします、魔王になってくださった暁には豪勢な食事、優雅なバスタイム、そして……こんな私でよろしければ、夜伽のお相手をいたします……」

 夜伽とはまあセクロスのことだとは知っていた。うーん。悪くない条件、だが。

「はっきり言うけどさぁ。先代魔王って戦争で死んだんだろ?」

「いいえ、老衰です」

「戦争で死んだんだろ?」

「いいえ、老衰です」

「戦争で死んだんだろ?」

「はい……もうそんないぢめないでください……」

 ということは察しがつく。魔王軍は勇者かなんかによって陥落、よって魔界に撤退、あるいは魔界さえも勇者たちに壊滅させられたのでは……?

「なぁ、夜伽はおいとくとして、豪勢な食事、優雅なバスタイムってのはちと羊頭狗肉じゃないか?」

「滅相もございません」

「羊頭狗肉だよな?」

「滅相もございません」

「羊頭狗肉だよな?」

「アイジ様がいぢめる~(泣)」

 エヴァドニは赤子のように泣き崩れた。

 つまり、魔王軍、失脚、財政難、一文無し。しかしどうする。こいつを連行して仏壇壊したのがコイツですと言えるだろうか……。普通に強力な魔法使うよなコイツ。悪魔だってんだからさっきみたいな邪悪な魔法も使い得たわけだ。しかし、この状況を作ったのは俺の弱みを握るためであって、じゃあ何故もっと上手に出ないのかと思うわけだが……。そこでエヴァドニの腰のベルトの辺りにある紙切れに目が行った。

「何だこの紙」

「あっ!」

 俺が奪い取ると、そこには、

『艱難に苦しむがいい若輩よ。我らが魔王軍の禽獣となることを誉とするがいい』

 とかなんとかいうことがつらつら書かれていた。

 ふーん。

「……なってやってもいいぜ、魔王にな」

「えっ……?」

「そんかし乳揉ませろ」

「えっ……(2回目)?」

 俺は手をわきわきさせ、エヴァドニに近づき、

「い、いやあああああ!!!」

 エヴァドニは叫んで指を突きつけ、強い閃光を放った。




 こうして気が付くと俺は名の知らぬ城に来たというわけだ。

 ゼロから始まる魔王生活の到来、である。

「エレミヤ様、早くどくのです! 添い寝は私の役目です!」

「……食べる、寝る、セックス。……それがあたくしの動力元なのです」

「添い寝すんのエヴァドニ」

「はい! 今夜からさせていただきます!」

 すげえどうでもいいけど、二度寝したい。

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