羽化不全

田鯉 広菊

第1話私から離れたかったのかもしれない

その日は1日イライラしていた。昨日慣れないことをして疲れていたし、生理もかれこれ2週間ぐらい続いている。頭痛はするし、寝不足。明日から4連勤だと思うとそれだけで身体は重くなる。

昼に起きて、溜まりに溜まった秋からの新ドラマの録画を2つだけ観れたけれど、気がついたらまた眠ってしまっていて、起きた時にはもう夕方の5時だった。

夕飯の支度を始めないと。そろそろ父親が帰ってくる時間だ。こんな時、独り暮らしならいいのにと思う。常に自分のペースで行動していたい。昔から自己中心的な性格ではあったけれど、年々それがひどくなってきたと自分でもそう感じる。

夕食を済ませ、起きてすぐに回して忘れていた洗濯物をランドリーに持っていく。乾燥した後、カゴの中に衣類を入れる。いつもは家に持ち帰ってから畳むのだけれど、今日はなんだか帰るのもめんどうで、ランドリーの大きなテーブルの上で畳む。

くるぶし靴下が1つない。床にも落ちていない。家から出た時に落としたかな?とぼんやり考える。乾燥機の中も一応見てみると、丸まった黒いくるぶし靴下がそこにいた。いつもなら家に帰っていたし、家に帰って無いことに気づいていたなら、たかがくるぶし靴下1つの為に絶対にランドリーを見に行くことはしない。

君は私に見つけてほしかったのね。と愛しく感じる。たかがくるぶし靴下に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る