第34話 王子の魔術師
夏が過ぎて、秋が来ても俺たちは相変わらず毎日忙しい。
十六歳の誕生日?、そんなもん俺と王子で酒盛りして終わりだ。
領主館では毎日のように私兵たちが己を鍛えている。 四人の魔術師兵たちも切磋琢磨の毎日だ。
今では私兵の数も五十人くらいになっている。
これは町の男性たちが、「いざとなったら戦えるようにしたい」と自主的に訓練に参加しに来るからだ。
その人たちが一応私兵として登録しているので、領主の私兵というより、いつでも徴集出来る状態の民間兵という感じになっている。
彼らは猟師や樵といった日頃から鍛えている者が多いので、猛獣や魔獣が出た時は心強いだろう。
俺も王子も、他国や、他の領地との戦争などしたくはない。
大切な領民をそんなことで傷つけるのは御免だった。
王子は、自重しなかった魔力測定魔法陣は封印し、簡易測定魔法陣を作った。
「王都から来た測定の魔法陣はどこがおかしかったの?」
『ああ、なんか魔力を吸い取るみたいだったよ』
魔力は無くなると死ぬ恐れもある。
やっぱりあいつら、王子が邪魔なんだな。
俺は唇を噛んだ。
おそらく王子は生きている限り、こうして邪魔され続けるのだろう。
ただ生きているだけなのにな。
恒例になった私兵の体験会も子供たちには好評で、その中に、教会の託児所に預けられている子供たちも混ざるようになった。
託児所の子供たちは三歳から七歳くらいと幼いので、時間は早めに切り上げるようにしている。
町の住民が増えているせいで、昼間だけだが預けられている子供の数は増え続けている。
幸いにも育児放棄されている子供はいないようで一安心だ。
「郊外に新しい教会を建てたいと思っている」
と俺が文字板に書いて、世話係りをしている女の子に見せた。
「ご領主様の思いのままに」
領主として雇っている彼女はそう言って礼を取る。
「でも、郊外になると通う親子が大変そうな気がします」
小さな町とはいっても、端から端まで移動すればそれなりに距離はある。
「分かった。 それなら新しい教会が出来る頃には通所用に馬車を用意する」
俺の書いた文字板に彼女は驚く。
金ならある。
この教会から王都へ移って行った身寄りの無い子供たちの中に、神の祝福を受けた者が出た。
一人でも、その子供の保護者は一生安泰だというのに、二人もいたのだ。
その子たちが国のために働いている間はこの領地にお金が入る。
そのお金で、あの子たちのためにも新しい教会、新しい町を作ってやりたいのだ。
感激している少女に、もう少し手伝いを増やそうと募集もかけることにした。
魔獣狩りは俺の一言で廃止されたが、特に苦情は無かった。
その代わり、森での狩りを一定期間、参加者を募って行うことにしたからだ。
町の外からも猟師たちが集まったり、毛皮や肉などの獣から採れる材料を売買する商人もやって来る。
そして狩りや解体、魔法の使い方を見ようと各地から若者が集まるようになった。
「ご領主様が倒された魔獣が王都でも評判になりまして」
眼鏡さんの話では魔法を使って派手に倒したという噂になっているらしい。
その年の秋の祭りも、俺は成人を迎えた子供たちを中心に盛大に行った。
「ご領主様。 俺たちも私兵にいれてくれ、じゃない、ください」
成人を迎えた子供たちが俺の側に集まる。
「俺に呑み比べで勝てたらな」
俺は安易に兵士になろうとする子供には、酒の呑み比べでコテンパンにしている。
それでもめげずに俺に付きまとう少年たちに関しては、ガストスさんの訓練に放り込んだ。
「嫌ならいつでも辞めていいぞ」
文字板にはそう書いてあるのだが、志願者の数はなかなか減らなかった。
「魔術師の数は増やさないのですか?」
魔法で酒を解毒するのは俺だけではなかったようで、魔術師兵の者たちは結構酒に強い。
「ご領主様もお分かりになっていると思いますが、魔法は危ないものばかりではございません」
元々は生活を豊かに、便利にするためのものだ。
それは分かっている。 だけど、魔力が何に使われるか、それは本人だけの問題ではないのだ。
「ご領主様。 兵士ではない魔術師を増やせばよろしいのではないですか?」
傭兵から領主の私兵として採用した魔術師の四人の測定は、先日王子がやった。
普通の者の魔力が分からないので、脳筋私兵たちも同様に測定した。
やはり魔術師兵たちの魔力量は、脳筋たちよりもかなり多かった。
元々この世界の者たちは体内に魔力を持っており、それは普段の生活に必要な分量だった。
普通の人々は、魔力は持っていても、ただの魔道具のスイッチぐらいにしか使われていないのだ。
それ以上の魔力を保有する者は、魔術師学校や現役の魔術師の弟子となって使い方を教わることになる。
「魔力の多い者はとりあえず軍に所属させられ、戦い方を学びます。」
「だけど俺たちは嫌だったんだ。 誰も傷つけたりしたくない。 故郷や家族を守りたかっただけなのに」
出来れば敵であろうと他人を傷つけたくはなかった。
自分を害しようとする相手以外は傷つけず、守りたいものだけを守りたかった。
軍ではそれが出来ないのだ。
だから国軍から離れ、彼らは個人で自由に戦える傭兵となったのだという。
「私がこの地に残ったのも、ご領主様がそういう方だと思ったからです」
他の魔術師兵たちも頷いた。
領主自らが前線に立ち、死人も怪我人も出さない努力をする。
俺の、その姿に感動したそうだ。
「あなたは我々を盾にも武器にもしなかった。 今も、いざという時には逃げて欲しいと仰る。
とても成人したばかりとは思えない」
「我々は、そんな領主様をお守りしたいと思ったのです」
そんな風に感じている領民はもっと多いだろうと彼は言う。
「試しに、成人した彼らを魔法測定されたらいかがでしょうか」
俺は彼らの熱意に渋々頷いた。
魔力測定をやると決めた日、何故か領主館の前には多くの住民が並んでいた。
「これは一体なに?」
文字板を見せると眼鏡さんが首を傾げた。
私兵の中から一人がやって来て、
「ご領主様が魔法の適性検査をしてくださると、皆が言ってますが?」
げっ、何でこんな話になったんだ?。
聞いてみると、俺が魔術師兵に魔力検査を承諾した話を、どこかの子供が聞いていたようだ。
それを大人に「自分も調べたい」という話をしたら、親も「一緒に調べてもらいたい」と言い出して、それが町に広がったということらしい。
私兵たちにとりあえず全員並ばせる。
(王子、これ、全員測定出来そう?)
『うーん、何とかなるだろう』
何とかなるんだ、すごいな。
王子の魔力量は結局測定不能だった。 つまり無限だということだろう。
恐るべし『王族の祝福』。
そんなわけで、王子は次から次へと領民たちの魔力測定を行った。
魔力布に書き写した測定魔法陣は、王子が一度魔力を通して起動させ、それから相手に魔力を流させている。
そして結果は魔法陣の中に浮かび上がる。
「これはどういう意味でしょうか?」
魔法陣に手を置いた青年が、こちらを恐る恐る見ている。
王子は手元の文字板に、魔力の数値と得意属性を書いて見せる。
数字はもっぱら10か100のどちらかという大雑把さ。
ごく普通が10で、100という数字は単に魔法が発動出来るくらいの量という目安らしい。
それを王子の隣に座っている元職員の字のうまいお兄さんが書き留めている。
この資料もまた住民の台帳に書き加えてもらう。
ほとんどの者はもちろん、10である。
属性に関しては100の者にだけ書いている。
魔法を教えるにしても、何の魔法が得意かで教える方向が決まるからだ。
年齢に関係なく100と書かれた者は、あとでまとめて簡単に魔法の使い方を教えることにした。
そうしないとおかしな方向に魔法を使う恐れがあるからだ。
「魔力が多くても上手に使えないと身体を壊します」と書いた紙を張り出している。
出来るなら、彼ら自身にとって良い結果になって欲しいと願う。
俺も王子も小さな子供には特に注意を払っていた。
親が勝手に子供に期待をかけたり、目を付けられて攫われたりしないように気を配る。
今回は特別な数値が出ることもなく平穏に終わり、胸を撫で下ろした。
100という数字が出たのは大人が二人だけだったのだ。
彼らは共に農民で土属性だったため、そのまま作物に携わってもらうことにした。
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