Infrastructures.

天王州 雫

1-1 笹尾の場合

 東京には4万台以上のタクシーが営業をしているが、そのドライバーの半数以上は一般企業からの転職者や再就職者だ。

 その動機やきっかけは、“車の運転が好きだから”“半自営業者として人間関係が簡素だから”という人達も勿論いるのだが、大半のドライバーは“仕方なくタクシードライバーをやっている”といった理由だ。所謂リストラや倒産といった類である。


 だが、例え物好きでも、致し方なく働いているとしても、彼らには生活がある。生活を少しでも豊かにするには給料を多く貰わなければならない。そして、そのためには、多くのお客様を多くの場所に乗せなければいけないことは明白だ。

 だから、一部のドライバーを除いた仕事熱心なドライバー達は、都内で行われるライブや試合といった旅客流動が大きいイベントスケジュールを独自に調査し、その付近で待機することで旅客を捕まえ運送するといった経営努力を行っている。

 他にも都内の居酒屋付近で終電を逃した人や、郊外の駅前で酔って寝過ごした人をじっくり待つなど、一見サボっているかのように見えるドライバーも、実は旅客を拾い、売り上げを少しでも伸ばそうとしているのだ。


 が、そういうのは“一部のドライバーを除いた仕事熱心なドライバー達”の話であり、必ずしもそうとは限らない。「体調が良くない」「娘が男をつれて挨拶に来る」「競馬の結果が気になってそれどころじゃない」といった者もいる。中には最低限の給料さえもらえればソレでよいという人だっている。今日の私がそれだ。ちなみに私のやる気ない理由は「雨が降っているから」である。


 ちなみに言っておくが、タクシーにとって雨は売り上げを伸ばすチャンスである。突然の雨に傘を持っていない人や、濡れては困るものを持っている人なんかが多く利用するからだ。それでもやる気がないのは、単に偏頭痛持ちである他ない。


 だから、今日は“東京空港”のタクシープールで順番待ちしていた。空港での出待ちは、外国人観光客や出張のサラリーマン・有名人などを捕まえやすく、比較的“いい場所”のはずだが、今日ほどに雨風が強いと、それらのお客を運んでくる飛行機が欠航していることが多く、よって今日のロータリーは横殴りの雨が地面や車を叩きつける音しか響いていなかった。人影もない。これならサボるにはもってこいだ。


 「――せーん、あのー、すみませーん!」

 目を閉じて休んでいると、窓越しに、まるで私に話しかけているかのような女性の声がした。うーん、この声は別に好みじゃないなあ・・・

 「―――しもしぃ?起きてますかー?運転手さーん?お客さんですよー?」

 その一言ではっと目が覚めた。そうだ、私はいま仮にも仕事中で、タクシー乗り場で待機してる身だった。すっかり忘れていた。てかこの人、いま自分でお客さんっていったよな・・・?

 倒していたシートを起こし、軽く服装を整えてから扉を開ける。地面に叩きつけられる雨音がいっそう大きくなるのと同時に、びしょ濡れとまではいかないが、良い感じに濡れた女性が慌てるように乗車した。傘は持っていないようだ。

 「すみませんねえ。」

 「いえいえ!こちらこそごめんなさい、よろしくお願いします。」

 女性は素直にシートベルトを締め、それからカバンの中をガサガサと漁りはじめた。カバンからは化粧品やら携帯充電器やら、それはそれは『その小さなカバンによくそれだけのものが入りますね、四次元ポケットか何かですか?』といわんばかりに色んなものを取り出しては、空いている座席に置いていく。色々気になるところだが詮索は良くない。私は目的地を訪ねることにした。

 「で、どちらまでいきましょう?」

 「“東都空港”まで」

 「・・・はい?」

 「“東都空港”までお願いします!!!」



To be Continued.....??

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る