鉄拳制裁


 「・・・皆、大丈夫?」


 すっかり放心状態になっている三人にエルザは声をかける。


 「ええ、ちょっと驚いただけよ。さぁ、ちょっと手間がかかったけど、奥へ進みましょう」


 大きな力を使い疲れ果てていたスミレは地面にぺたんと座っていた。そんなスミレに手を差し伸べる。


 「よくやったわスミレ、あなたを信じて正解だったわ」


 「イルザさん・・・ありがとうです」


 イルザの手を取り立ち上がる。不安に打ち勝ったスミレの瞳は力強いものになっていた。


 奥の廊下へと続く扉前でグレンがおーいと呼んでいた。エントランスホールに散らばる瓦礫の山を踏み進み、一同は扉の前に集まった。


 「この奥にあいつがいるんだな」


 「はいです。主様が待っているです」


 緊張が空気を支配する中、イルザは思い出したかのように口を開いた。


 「そういえばグレン、何か忘れてないかしら?」


 爽やかな笑顔を見せるイルザであったが、瞳の奥には怒りの炎が猛々しく燃えている。


 「お、おう・・・なにかありましたかな? イルザさん?」


 ガルビースト以上の殺気を感じ取ったグレンは後退りながら、白を切る。この後の展開が読めていたので、今すぐにでも逃げ出したい勢いだった。


 「胸をもんでおいてとぼけてるんじゃないわよ! このスケベ豚ァ!」


 強烈な右フックがグレンの左頬にクリーンヒットした。ガルビーストよりも素早くキレのあるパンチに対応できなかったグレンは盛大に吹っ飛んだ。


 「・・・遠くからだけど見てた。グレンの変態」


 「えっ? ええっ!?」


 エルザは率直に罵り、戦いに集中していて胸を揉んでいたことを知らないスミレは今の状況にあたふたと困惑していた。


 「だ、だからあれは・・・事故だ・・・」



※※※


 「ガルビーストを倒したか・・・ふふ、ふはははは! まさかスミレが裏切るとはね! いいだろう、永久に私のモノにするまでさ!」


 装飾も内装も全てが真白な部屋で、魔法陣越しにイルザ達の様子を見ていたブラン。青黒い魔力が怒りと共に体から溢れ出ている。


 ブランの背後にはおよそ五十の魔獣たちが列を成して呻き声をあげている。


 「おっと、そろそろ食事の時間だ。時間は無いようだし、簡単に済ませてしまおう」


 懐から小瓶を取り出し、女性魔族から採取した体液を一気に飲み干す。インキュバスであるブランは異性であれば種族を問わず、体液を摂取するだけで充分な栄養を確保できる。


 「それにしてもあのダークエルフの娘、さぞかし美味なのだろう。ああ! スミレを取り戻し、“妖精の輝剣アロンダイト”を手にした際はあの娘を存分に味わいたいものだ!」


 美しい銀髪の少女を見つめ、舌なめずりをする。


 「だが・・・この研究所は破棄だな。美しかったエントランスがボロボロだ。非常に残念だ」


 純白の部屋の奥にある椅子に腰かけ、研究所を荒らす者たちを待つ。



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