第七話 神月
突入前
第二研究所までの道のりは、不気味なまでの静けさで何事もなく辿り着くことが出来た。
あまりにも静かすぎるイラエフの森。魔獣はおろか、動物すらも姿を見せることは無かった。
「ここにあいつが、ブランがいるのね」
イルザはいつ襲われても迎撃出来るように握っていた"
これから起こる戦いはきっと、無傷では済まされないだろう。それでもイルザは、幼き人間の少女スミレの覚悟の為に剣を取る。
「はいです。主様は研究所の奥に居るです」
第二研究所と呼ばれる建物は、先程まで戦っていた第一研究所に比べて大きさは小さめである。
館のような景観の第一研究所に対して第二研究所は、倉庫と表現するのが相応しい簡素な造りである。
「皆、マントはしっかり羽織ってるわね?」
「ああ、バッチリだ!」
グレンが返事をする。
エルザのマントはブランとの戦闘で使い物にならなくなってしまったが、もしもの時のためエルザは予備をグレンに渡していた。
「・・・予備、作っておいてよかった」
「そうね・・・。防御の要だもの、今のエルザは戦えないからなおさら必要だったからよかったわ」
魔力を込めた糸で作られたマントは物理と魔力による攻撃を大幅に軽減してくれる。
そんなマントを使い物にならなくする攻撃をしてくるのだから、必須とも言えるアイテムである。
「突入前にもう一度、作戦を確認するわよ。入り口は私とグレンで同時に入る。もし、魔獣が待ち構えていたらその場で迎撃。安全が確保出来たら、私とスミレ、グレンとエルザのペアでスミレの案内の元、奥へと進んでいく。ここまでは大丈夫?」
「エルザは戦えないからな、護衛はしっかり努めさせてもらうぜ」
「・・・戦闘は出来ないけど、支援はできる」
戦闘による疲労で立ってるいるのもやっとのエルザだが、足でまといにはなるまいと精一杯主張する。
「無理は禁物よ? エルザは自分に"守護方陣"を使うことを第一に考えて」
「・・・わかった」
姉に戦いに集中してもらうように、自分の身は自分で守らなければならないことは、エルザ自身が一番理解していた。
「そして、ブランの待つ部屋。そこから先はどうなるか予想がつかないわ。基本的には私とグレンの二人がかりでブランに仕掛ける。その間スミレはエルザの護衛と支援をお願い」
「了解です。 恐らくですが、第二研究所は"
「そうなった場合は、グレンは離脱してスミレの援護に。狩りは得意でしょ?」
イルザは悪戯っぽくグレンに微笑んでみせた。
「やれやれ・・・うちのご主人様は人使いが荒っぽいぜ。まぁ狩りは任せな、パパっと終わらせてやるぜ」
と、自信満々に言葉を返し、主であるイルザの信頼を受け取る。
「頼もしくて何よりだわ。スミレ、あいつの居る位置を簡単に説明してもらえる?」
「はいです。主様が居る部屋はさっきお伝えした通り一番奥の部屋です。まず、入口は広間となっていて、左右に二階へと続く階段、正面に廊下へと繋がる扉があるです。階段は無視して正面の扉を目指してくださいです」
簡単な間取り図を地面に描きながら説明する。
第一研究所のり小さいとはいえ、敷地面積はそれなりに広い。案内なしで突入するのは危険である。
「そして廊下は少し入り組んでるです。左右右左、と曲がる順番を覚えていてくださいです。その奥が主様が待ち構えている部屋になるです」
「わかったわ、ありがとう」
イルザは深く呼吸をし精神を整える。
「みんな、絶対生きのびるのよ!」
「・・・うん!」
「ああ!」
「・・・」
スミレだけは返事をしなかった。
もし、ブランを殺してしまった場合、自分が無事でいられる保証がない。
自信を持って返事ができなかった。
「あなたは自分で決めた覚悟を見せなさい。何があっても私たちが見届けるから」
背の低いスミレの目線に合わせて、言葉をかけるイルザ。
揺らぎかけていた覚悟はイルザの言葉によって強固なものとなった。
「・・・はいです!」
「いい返事よ!」
笑顔を見せスミレの青い髪をわしゃわしゃと撫でる。
頭を撫でてもらったスミレはどこか嬉し恥ずかしそうな、温かな表情をみせていた。
「さあ!行くわよ!」
各々覚悟を決め、研究所の敷地内へと足を踏み入れる。
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